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百合ハーレムの作り方  作者: 乃麻カヲル
第1部三章「百合葉の美少女つなぎ」
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第30話「美少女たちから逃げる」

 王手をかける為か、何かを企んでいる美少女たちから逃げ、二時限目、三時限目もなんとか凌ぎ、ようやく午前最後の授業に差し掛かるところ。



 休み毎に逃げるのも大変だった……。仄香と譲羽が反対方向から迫ってきたり、咲姫が授業終わった余裕のないタイミングで、着信を鳴らしながら追ってきたり……。携帯に気を取られた瞬間に僕の負けだ。電源を切っておこう……。



 暖かな日差しが差す、穏やかな保健の授業中、内心ドキドキの僕とそれをチラチラと見てくる美少女たち。その中で、最前列の仄香が体育教諭にペシリと叩かれる。これはまだまだ狙われていると思って良いな。終わり次第すぐに逃げて……うーん、どうしよう。



 窓を開けて風を浴びながら考える。昼休みは空き時間が長い分、一カ所に止まっていると見つかる可能性が高い。そこで告白されるなりしたら、僕はもう誤魔化す術は無いんじゃないか……。ならば、一定時間毎に場所を変えるか……?



 いや、そもそも逃げ方を変えないと、最初から追いかけられている時点で捕まってしまう!



 ならばと、僕は、念のために空き時間に手に入れていたロープを、窓の手すりにかけておく。二重にして、重みに耐えられるようにして……軍手をして……よしっ。



「じゃあ、終わるぞー。みんな、キリーツ」



 なんて、いつものかけ声がかかり、みんなが一礼した瞬間――――。



 今しかないっ!



 僕はロープを駆け下りて窓から教室を出たのだった。



「あー! ゆーちゃん逃げたー! ずるっけー!」



「ヤラレタッ!」



「はっはっはー! 藤咲ー。昼の限定プリンが食べたいからってあぶねーだろー?」



 と体育教諭の高笑いが上から聞こえた。お嬢様学校にあって、彼女だけ異質なくらいわんぱくなのだ。多分許されると信じたい。



 ふう……と一息ついて僕は屋上の扉に背をする。まさか外に逃げたのに上に戻ってきているだなんて、思いもしないだろう。なんとか、この時間は逃げ切って……でも五時限目と六時限目は? ははっ、もう、寝て誤魔化そうかなぁ。優等生も、たまにはサボリだ。



 体を弛緩させて座り込む。大きく深呼吸して息も整ってきて、疲れと空腹で判断力が無くなったころ。背中のドアを叩く音が。



 あれっ……鍵はかけ直したっけ……?



「チェックメイトだ。百合葉」



「ら、蘭子……」



 僕の行動を予測してここまで来た? なんてことだ。もう、この子には勝てっこないなぁと、僕は大人しくドアの前から身をよける。



「百合葉……」



 僕と向かい合った彼女は、自分の携帯を指差しし、その後に僕を指差す。どうしたのだろう。貸してくれということだろうけど、『携帯電話』という単語をド忘れでもしたのかな?



「ん……? はい……」



 渡してみると、即座に電源を確認する彼女。今は着信対策に電源を切っているのだけれど……。妙な行動に、僕は少し焦ってしまう。



「今、着信などで邪魔されたくなかったんだ。すまない」



「あっ、うん。別にいいけど」



「他の子たちみたいに、今、君をどうしようってわけじゃないんだ。ただ、急がないといけない用があるから、聞いて欲しい……」



「な、なに……? どうしたの?」



 しかし、他の子同様に僕を追いかけ回すほどには、彼女は切羽詰まっているようだった。



「実はな……私、婚約させられるかもしれないんだ」



「へ、へぇ……そりゃあ大変だ……っ」



「大変なんてもんじゃない……っ。男と結婚するだなんて、苦痛で苦痛で……しょうがない……」



「そうだよね、蘭子は男嫌いだもんね……」



 その気持ちがよくわかる。一度、嫌悪感を持ってしまえば、どうしようもないことだってあるのだ。それは理屈では説明しきれない。



 何より、僕の大事な美少女を男になんか、譲ってたまるか。



「だからさ、私をレズビアンだと認めて貰って、婚約を解消させるために……百合葉の手を借りたいんだ」



「……僕に恋人のフリをしろってこと?」



「その通りだ」



 真剣な瞳で頷く彼女。これは、ただ事ではないな。断れば、間違いなく後に尾を引く、大事件となってしまう。



「絶対に今日じゃないとダメ?」



「何度も断ってきたんだが、いよいよ後戻りできないところまで来ているんだ。今日、頼みたい」



 そうして、僕の手をギュッと両手で握る彼女。珍しく、震えるように、何度も握りしめ、僕の目を見つめる。



「分かった、行くよ」



「ありがとう百合葉。他の子たちに邪魔されたらまずいから、携帯の電源を切って、帰りのホームルームが終わってから十分後、裏の校門横で」



「う、うん……。徹底してるね」



「これの重要性は、彼女たちに伝わるか分からないからな……」



 そう言って、蘭子は遠くを見る。よほど辛かったのだろう。その目元には、隈が浮かんでいた。



 ああ、逃げ回るのに必死で、朝から調子のおかしかった彼女を気遣ってやれなかった。僕の失態だ。



 他の子たちが僕に気持ちをぶつけようとしている中で、無視して逃げ帰るだなんて気が引けるけれど、仕方がない。



 蘭子のために……一肌脱ぐかっ。

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