第20話「部員集め」
「写真部ぅー!?」
三人がハモる……ということは無く、主に仄香の声が他二人の声を上乗せするように際立っていた。
「写真部って紹介に無かったわよねぇ……」
生真面目なことに、昨日もらった部活動一覧の冊子をカバンから取り出しペラペラと眺めだす咲姫。まずは正確な情報を確認するあたり、本物の優等生は違うなぁ。
「ちがう、んじゃ……ナイ? 入るんじゃなくて作るミタイ……」
「えっ、あっ……そうねぇ~!」
あせあせと珍しく、譲羽にツッコまれてしまう咲姫ちゃんであった。そう、僕は"入る"ではなく"作る"と言ったのだ。
朝のホームルームが始まる前。お嬢様方は朝に強いのか、早くも多くの生徒が登校済みで、それぞれが話に花を咲かせて賑わっていた。三・四人のグループが幾らか出来ているし、もうすでに仲良しメンバーは一通り決まっているみたいだ。
僕たちもまたその例外でなく、さも当然かのように咲姫の席へと集まっていた。ちなみに姫様だけは席に座っている……お高い身分ですねぇ、可愛いから許す。当然っ。
「でさ、みんな一緒に入ってくれないかなぁーって。きっと楽しくなるよ?」
僕は一人一人見渡しウィンクして願い出る。
「もっちろ~ん! わたしはいいわよぉ~!」
「あたしもー! 面白そうじゃんねっ!?」
咲姫と仄香は一同に賛成。
「ユズは? 無理にとは言わないけど」
もちろん入ってくれる前提なのだが。ここで仲間外れを選ぶ彼女では無いだろう。
しかし、両手を胸の前で握り、わなわなと震える譲羽。
「ど、どうかしたの?」
不安になって覗き込んでみる。まさかこんなところで計画断念? 嫌だよ僕は。
どうしたのだろうと覗いた先では、俯き前髪で隠されていた彼女の顔はほんのりと紅潮し、にへらぁという笑顔……。
「写真……ヤリタイ……」
「えっ、何?」
肯定……だよね? そう疑問に思っていると仄香が、
「気合いが足りんぞー! もっと声を出してっ!」
意気軒昂と握った右手を高く上げる。
「写真がやりたい、デス……っ」
「よっしゃー! 情熱は十分に伝わった! 写真やりたいんだったら先生にぃー、付いて来いっ!」
「は、ハイ……っ」
「夕日に向かって走れー」と仄香を先導に譲羽も、のったのったとゆっくりランニング。なんだろうこの茶番は。運動部じゃないだろうに……。
そうして二人が教室の後ろ側を行って帰って来るのを眺めること十秒あまり。
「これが青春の汗だ! 気持ちいいだろーう!?」
「は、ハイっ」
「いや意味分からないけど」
程なく僕が指摘すると、「ふぅー」という仄香の片息を合図に、二人は衣類を正す。タイミングピッタリだな仲良しかよ。
「話を戻すけど、三人とも入部で良いんだね?」
「おういえっ!」
「はぁ~い」
「うん」
頷きながら返す三人。よし、とりあえずこれで四人集まった。あとは……、ちらと左背後に目を見やる。
だが、視界の隅で仄香が両手を握り腕を軽く上下させていたので視点を戻す。
「いやぁ、うちらの部室を用意してくれるとかホント最高かよぉー!」
「えっ、ああ。まあそうだけど」
随分気が早いな……というか正解である。百合百合のためである。そうして、ふんすっと楽しみがにじみ出ている譲羽は、
「写真……屋上……? 最高……うへへ」
こちらも気が早い……というか部室も屋上も手に入ることを見破るとか、この二人エスパーなの?
そんな中、はてなと首を傾げる娘が一人。
「でもぉ~? 部活申請って五人からでしょ? もう一人は誰を……」
と言ったところで咲姫は察したのか言葉尻を弱める。
「ま、まさかぁっ!」
「おぉ……っ」
「ゆずりん? 気が早いよー?」
「お、おぉ……」
仄香のツッコみにしゅんとしょぼくれる譲羽はさておニンマリ笑う。そして僕はくるりと踵を返し……。
「蘭子ちゃん。僕ら写真部を作りたいから、部員になってくれない?」
僕の前の席で読書をしていた彼女を誘ったのである。




