第18話「屋上の夢」
僕にはささやかな夢がある。
華々しい青春を送るにあたって、誰にも邪魔されない素敵な舞台とはどこなのだろう。
僕としての思い浮かんだのが、部室、そして屋上であった。部室は言わずもがな。そして屋上は、その部室での日常にプラスアルファとして、学校生活を一段と煌やかに彩ってくれるであろう青春の場なんじゃないかと。……アニメの知識ではあるけれど。
百合ハーレムを作るのに、押さえておいたらきっと楽しいに違いないベストスポット。関係を深める超優良ポイントの一つ――とは上手くいかず。どうやらこの学校では屋上は開放されていないみたい。やはり事故防止だろうか。
事実、他の学校でだって、開放するときにも教師が見回り立ち会っていたりするらしいし、滅多に開放自体がされないという幻の空間なようだ。
ああ、僕もアニメのように、美少女たちとの昼食を部外者の邪魔なく味わってみたい……。
しかし、その幻想を現実で叶えるためにはどうすればいいか。自分で作るしかない。
実際のところ、開放されているにも関わらず僕らしか居ないなんて、そんなご都合主義は通用しないからね。
居るとすればほぼ男女のカップル。男だけ爆発すればいい……でもあれ? でもここは女子校だから百合ップルだよなぁ……なんで開放してくれないんだっ!
それはさておき。もしも、たまたま僕らが独占できる状況を作れるとしたら……?
……その手段なら、使えるかも知れないと思った。
僕自身が屋上の鍵を入手してしまえば良いだけのことじゃないかな。
だけれども、一切開かれる事の無い屋上の鍵をどのように入手するか……。
もっとも、その開かれないが故に屋上の鍵を僕自身が手に入れてしまえば、それだけで我が美少女たちとの固有空間が生まれる。他の百合ップルが見られないのは残念で仕方ないことだけど。
これほど素晴らしい事は無いんじゃないかな? やはり、僕と美少女たちとの百合百合たわむれの場として、屋上の鍵を手に入れねば……と思ったけれども、都合の良い策が思い付いていたり……。
部活動ならいけるんじゃないかなと。
部活動を作り、部室を私物化して屋上も使えちゃう……上手くいったら一石二鳥じゃないの? 屋上よりも先に部活作りを思い浮かべていたのだから、ついでに行えないかと模索。
屋上を利用するとなると、天文部が一番それっぽいだろうけど、夜活動の部活動などもってのほか。実際問題として天文部は校内でまともな活動なんて出来るか怪しい。
美術部は……鍵の貸し借りを省くほどにしょっちゅう利用してまで、屋上からの絵を描くかというとそんな事も無いだろうし、たとえ借りられたとしても、私物化が難しい。
吹奏楽部が屋上で練習という学校はあるけれど、論外だろうなぁ。練習は厳しいし人数も多いから、鍵も部室も私物化が困難である。音は好きなんだけど、一部のマナーの悪い生徒による場所の占拠は辞めてほしいよなぁ。彼らは運動部の応援ついでにグランドで練習して欲しい。これこそ一石二鳥じゃない?
まあそれ以前に、後者二つは既にこの学校で存在する部活だから、その時点で眼中には無かったけれど……。
だけど僕は知っている。この学校に部室を保有しつつも部員がゼロ。はたまた、屋上を何度も利用する言い訳が立つ部活が。そのために、絶好の人が居ることも……。
「失礼します」
頭の中で屋上私物化への自問自答を繰り返したまま、僕は職員室のドアをノックし挨拶をしながら中へと進む。
「おや、学年トップの藤咲じゃないか。こんな時間までどうしたというんだね?」
入り口から間もない位置の、我がクラス担任の渋谷楓先生が椅子に座ったままくるりと振り向く。そのまま僕は「先生」と、彼女に用があることを伝える。
「ほう。何か相談でもありそうな顔をしているな」
「はい、実は……」




