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百合ハーレムの作り方  作者: 乃麻カヲル
第1部二章「百合葉の美少女落とし」
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第28話「休みの譲羽」

 騒がしいファミレスから帰って翌日。今日は体力を充分に持て余らせた日曜日。昨日のパフェのあと、カラオケに行きたいと仄香は言っていたけれど、譲羽が喉が痛いと行けずじまいで解散したのだった。僕も病み上がりであるし。身体を休めるためにゆっくりとしよう。



 しかし、そんな休みと言えども休日ボケしてはいけないと、僕は六時半に起きていて、もうすでに朝ご飯を食べ終わっていたから、余裕たっぷりな優雅な朝である。咲姫ちゃんみたいに、ティータイムでも始めてみようかなぁと、お客様用に買っていた紅茶パックを探してみたり。



「んっ? この箱だ」



 棚の奥から出てきたアールグレイ。賞味期限は……うわっ、来月じゃん。多少過ぎても良いから早く使い切っちゃないともったいないなと、早くも優雅さゼロであった。



 蒸らし時間とか関係なしに適当に入れてマグカップでチャポチャポする。そうしていれば。



 ピーロォ~ンっ。



 携帯が鳴った。なんだろうと思ってみれば、マイ癒し系フェアリー譲羽ちゃんからのメッセージだ。緩い日常系アニメのスタンプで『おはよう』……じゃない。これは『"コニチワ"』だ……。外国人訛りだ……。まだ朝なんだけど彼女なりのボケだろうか。それともこれはわざわざツッコまない方が良い?



 そんなメッセージに戸惑いちょっとした苦悩の中、対して僕は朝日が昇るスタンプと『"グッドモーニング"』というカピバラのスタンプで返す。



『せっかくボケたのに……』



『ボケだったのあれ……』



『そう……。今は朝だよって百合葉ちゃんに叫んで欲しカッタ……』



『ひとりで叫べって事!?』



 当然これは文章でのやり取りである。相変わらずこの子も不器用なのにギャグに走ろうとしたりで、そんな彼女のマイペース具合にひとりニヤけてしまった。



『もしかして、永遠のスリーピングタイムの真っ最中ダッタ?』



『いや、それは死んでるよね? あと字面がかっこよくない……』



 おおっと? これは彼女の厨二センスを傷付けてしまっただろうか。送信してから少し後悔していると、



『"ううっう、うぅう~……"』



 うわっ! びっくりした!



 金髪キャラの泣き声スタンプが来てそれをタッチしてしまえば、突然泣き声をあげだしたのだ。家に居て良かった……。外でやってしまったら、とんだ爆撃だ。



『ごめんユズ! 傷つけちゃった!?』



 ともかくスタンプでも傷つけてしまったのだ。反省し謝罪文を送信すれば。



『"嘘デスヨ~"』



 その返信スタンプにはドッキリ大成功と。……なんだろう、文章やスタンプだとゆずりんは饒舌なの? 



『……起きてたけど、こんな朝早くどうしたの? 寝てなくて大丈夫?』



 とは言っても大して朝早くもないけれど。でも休日の朝八時は早いという意見も少なからずあるのだ。いつも眠そうな目をしている彼女ならぐっすり寝るモノだと思っていたから、意外に思ったり。



『喉はそこそこ。それより今日は、大事な……お話が』



『学校じゃあ言えないこと? なに?』



 それは珍しい。しかし、彼女だけ個人的な関わりが薄かったから、願ったり叶ったりだ。これを気に彼女との親密具合を深めたいもの。



『アタシの大切な……アレを、見て欲シイ』



『何それ……?』



『アレって、決まってる……デショ?』



 決まってないと思うけど……。んんん? 本当に唐突である。脳裏によぎる下ネタを振り払って色々なパターンを挙げていくも、どれも現実味がない。本当になんなんだろう。



『恥ずかしいんだけど、百合葉ちゃんにしか、見せられ……ナイ』



 …………。



 そんな文章が。



 なに? もしかしてエロ自撮り画像でも来るの? まさかとは思うけど、ここで唐突のレズ展開? レズ展開は大歓喜だけど、僕はエロには興味ないよ?



 それとも、もしかしてこの子はこういう文章で僕にセクハラするタイプなの? 『嘘デスヨ~』ってくるの?



『でも、どうしても見て欲しくて。アタシのヒミツの扉を、アナタは開くの……』



『そ、それは……?』



 なんでそんなに意味深な言い回しなの? レズなの? レズなの!?



『自作百合小説』



『そっちかい!』



 そりゃあ恥ずかしいでしょうけれども! つい声に出しつつ文章で打ってしまった。



『?? なんだと思ったノ?』



『いや、なんでもない。気にしないで』



『もしかして、アタシが自撮りのエッチな画像を百合葉ちゃんに見せ付けるレズ展開を……期待しちゃっタ?』



 そしてなんでそこで察しちゃうんだ!



『レズ展開は……有ル』



『あるの!?』



『小説のね』



『だからそっちかい!』



 なんでこんなロリっ子に心乱されないといけないんだ……。



『残念ながら、百合葉ちゃんに自撮りのエロ画像送るとか……無いカラ』



『まあ、そりゃあそうでしょ……』



『逆ならアリかも……』



『無いよ!?』



『"嘘ね!"』



『嘘じゃないよ!?』



 なんというタイミングの良さか。喋るスタンプでウソ呼ばわりされるなんて。



『百合葉ちゃん……』



『な、なに……?』



『ふざけてないで真面目に話を……聞イテ』



『ふざけてないよっ!』



 朝からツッコミでもう疲れたよ僕。



※ ※ ※



 画面をじっと見つめる。文字を読みながらメッセージわ送るというのは不可能なので、通話に切り替えて読みながら話していた。携帯に表示されているのは文字の羅列。ノート機能で彼女が貼った小説を共有しているのだ。エンディングまでのおおまかな筋書きを読んだ上で、一万文字の第一話を読み終わる。



『なるほど』



『どう、ダッタ?』



『これだけ書けるってすごいね。ちゃんとストーリーが伝わってくるし、面白いよ』



『ヨカッタ……。どこか、改善点……アル?』



『うーん……』



 考える僕。面白いのは本当で、続きが気になりはするのだ。だが、辛口でとお願いされたからには、ちゃんと指摘しないといけない。



『大丈夫。問題のある所、教えて』



 こう言われちゃあ生半可に褒めるだけも許されまい。



『これは、異世界物語なの?』



『そう』



『このあと、主人公が魔王や姫と恋をするの?』



『そう』



『それで、主人公をモノにしようと、姫率いる王国軍と魔王軍が戦争すると……』



『そう』



 続けざまの質問にイエスだけ返す彼女。ここまではいい。ただこの先だ。



『主人公は王子様で冒険者な……女の子なんだよね?』



『そう』



『これ、主人公がお姫様……じゃないよね?』



『……? 違ウ』



『つまり、主人公は王子様の筈なのに全然活躍してなくて、むしろ王子様を助けに行くお姫様の方がかっこよくて。だから、主人公を逆にしてもいいかなぁって』



『……それは盲点!』



 そりゃあ盲点だろうなぁ。書いているうちに主人公の行動がほとんどなくなるんですもの。姫様大活躍の陰に隠れているだけの主人公は情けない……。



『でも、この主人公を主人公にしたいから……活躍させてあげられるように頑張りたいノ』



『うん。そうしたいならそれがいいね。問題点は活躍できてないってところだけだから』



 僕はそうアドバイスして一度深く息を吐く。そして意を決して、



『それと……』



『なに?』



 問題点ではないのだけれど、一番の問題点が。



『この主人公のモデルって、僕なんだよね?』



『――ッ!?』



『それで姫様が咲姫で魔王は蘭子』



『……ナゼバレタノ!?』



『バレるよ! 特徴がまんま一緒なんだもん!』



 そもそも君、前に僕らで妄想してるって漏らしたよね? 彼女なら意外と記憶から抜けてるかもだけれど。



 誤字や間違った言い回しなどを指摘するだけで、他に小説そのものの問題は無かった。むしろ、視点が主人公一択でないのなら、あえて立場逆転を狙って、王子様を活躍させない手もあったかもしれない。



『アリガトウ。イイモノが書けそう』



『そっか。それは良かった』



 しかし、譲羽は通話音声が拾ってしまうくらいに、満足げに鼻を鳴らしているので、他の指摘はまた今度にしようと思ったのだ。



『そういえば仄香は?』



『まだ寝てる。グッスリだから大丈夫』



『そっか……』



 彼女らは寮の二人部屋だ。こんな堂々と通話して気にならないのかと思えば、先回りして譲羽がフォロー。



『仄香ちゃんは寝ると決めたら絶対起きない。完全オフとか言ってたから、起きるのはマダマダ』



『そ、そっか……』



 彼女は睡眠時間三時間でも余裕そうだけれど、寝るのも寝るで彼女らしいなと思った。



『仄香ちゃんは小説とかみたいな文字は頭が爆発するって言ってたから、百合葉ちゃんに頼んだノ』



『ああ、それは言えてるかも』



 納得しつつ、だが心の中で少し落ち込んだり。やはり彼女の中で僕よりも仄香の方が上なのだろうか。百合ハーレムを作るなら、この差を逆転させなければいけない。



『じゃあまた今度も通話しようよ。僕も読んでて楽しいしさ』



『……ホント?』



『良いよ良いよ』



 『やったぁ』と僕の提案に譲羽、機械越しでも分かるほどにテンションを上げている。



『じゃあ毎日……スル!』



『毎日? それでユズは毎日一話完成せられるのかなー?』



『……無理かも知レナイ!』



 素直でよろしい。毎日は流石の僕も疲れ……いや、美少女のためならやるかもしれないけれどね。ただ、それで生活リズムが崩れてしまうのは避けたいのだ。万が一寝不足などという事になっては、百合ハーレムに向けて美少女たちを広くカバー出来ないから。

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