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百合ハーレムの作り方  作者: 乃麻カヲル
第1部二章「百合葉の美少女落とし」
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第24話「勝利の宴へ」

 白夜さんが毒を飲んだ振りをして動かなくなった後ざわつく僕ら。しかしそこでピピピッと鳴るタイマーの音。渋谷先生がパンパンパンと手を叩く。



「はい、時間切れだぞ」



「おっしまぁいでっすよぉー?」



 教師二人がソファーに座ったまま声を掛けてくれる。不思議な緊張感の中、ずっと黙っていたギャラリーたちは、ようやく酸素にありつけるかのようにパクパクと大きく息を吸って、隣の娘たちと手を取り合い終演を祝う。



「おめでとう。貴女たちの勝ちみたい」



 先生方と並んで座っていたこの部活の副部長である黒乃さんが、表彰状……ならぬ、譲羽の部員届けを返してくれる。かっこいいのに、どこか素っ気ない先輩だ。



 しかし、こんな終わり方があるものだろうか。チラッと起きあがりつつある白夜さんを見やる。



「演目通り、王子役のボクは死んで行動不能。君たちの勝ちさ」



「良かったんですか? 僕らの……勝ちですよ?」



 思わぬ勝利に呆然とする僕は白夜さんに訊ねる。すると、



「どっちにしろ、ボクの元に来る事を本気で嫌がるキミを、部活に入れようとは思っていなかったのさっ。少しでもキミと遊ぶ口実が欲しかっただけなんだ……。キミの冷たい表情も見れたし……。それに、ボクの美しさをかもせられるときは醸さないと……ネッ」



 なんて、金色の前髪をファサッと払いながらそう言った。醸すってなに? こうじカビなの? 醸しちゃうの?



「それではわたしたちも失礼しようかな。楽しかったよ」



「皆さんも気をつけて帰るんですよぉ~?」



 まだ突然切れた緊張の余韻を抜けられない僕らの前から、一足先に声を掛け立ち去ろうと先生二人。だがそこで、僕らの顧問である渋谷楓先生は僕の横を通り過ぎるときに、



「写真部も、もう少しは盛り上がってくれても良いんだぞ?」



 そっと、耳打ちする。



「まあまあ。考えときます」



「ま、無理強いは出来んさ」



 寂しそうに笑う彼女。そういえば、口先ばかりで活動らしい活動はロクにしてないな……。よくないぞっ。



 やがて渋谷先生は一ノ瀬先生に視線を戻し談笑し始める。ドアをくぐった先でも響く声。つい、その声を聞き取るように、部内には一瞬の沈黙が。



「キミの抱える部、面白そうなの揃ってるな」



「ふっふー。そっちこそ。お互いに引き抜いちゃあ、駄目ですよぉ?」



 仲の良さそうな二人の会話がフェードアウトしつつも僕らの耳元へ。そうか、放任主義でクールに見える渋谷先生も、実は楽しくやりたかったりするだろう。



「さて、勝負は決したが、まだキミたちはボクらと遊んでくれるのかな?」



「いえ。遠慮なく、失礼します」



 僕はきっぱりと言い放ってきびすを返せば「へい、やったぜ!」とハイタッチしてくる仄香を筆頭に、我が美少女たち四人が集い僕の後に続く。



「また遊びたくなったらおいでねっ? 待ってるよ?」



「無いと思いますけどね」



「ばいばーいゆりはすー」



「また教室でナ……?」



「うん。ばいばい」



 白夜さんには素っ気なく、茜さんと葵くんにはいつも通り返す。この二人はどっちにしろほぼ毎日顔を合わせることになるし、冷たくも出来ないのだ。



 しかし、彼女の強引さに引いてしまっただけで、本気の賭けで無かったのなら、もっと関わっても良いかもと思ったり。なんだかんだ楽しい一日だったから。



 まだ下校する生徒が残る廊下。ぽつりぽつりと話し声が響く中で、後ろの閉まったドアの向こうから声が聞こえてきた。離れつつもつい聞き耳を立ててしまい、



「しかし困ったなぁ。このままではボクらの部は今月で廃部になってしまう」



※ ※ ※



 薄暗くなってきた校舎から出る僕ら。黄色い西日はとっくに橙色の夕日に変わっていて、もう間もなく暮れようとしているのか、空の色味が次第に薄れている時間だった。夜の香りをまとった風は冷たくはないけど、目に刺さるくらいには強く、たなびく横髪を手で押さえながら僕らは校舎をあとにした。



 さっきの余韻で、男装女子部事件を振り返ってそれぞれが感想を述べたりする。だが、やがてその話題も尽きたところで、仄香がいつも通り挙手きょしゅのような割り込み手を斜めに差し出す。



「ねーねー!」



「僕は姉姉ねぇねぇじゃないよ?」



「おおうっ! そうだったねぇー! なら、あたしがお姉ちゃんってことで……イイのかなー?」



「姉妹の一線を超えないでね?」



「ちぇー。つまんないのー」



 変なノリに乗っかり、歩きながら僕のあごをくいと持ち上げるので、やんわりと拒絶する。彼女の場合、冗談でもキスしてきそうだから少し警戒していたり。



「そんでさ。せっかくダンソー女子部に勝ったんだし、一杯やろーぜー、とかないのー? こう、ぐいっと」



「おっさんかっ」



「うへへっ!」



 そしてお決まりのツッコミ。ついつい彼女のまな板……もとい胸板むないたを叩いてしまったけれど、全く柔らかさなどはなく、やはりまな板だった。



 そんな仄香の提案に目を輝かせていた譲羽。手をグーパーグーパーにぎにぎしながらそのワクワク具合をアピールしている。

「勝利の、宴……っ? まつり……!」



「カラオケとかファミレスとかだろうか? 良いかもしれないな」



「そうだぞぉー? 楽しいぞぉー?」



 乗り気のゆずりんに続いて蘭子も乗じて提案するので、仄香はよりぐいぐいと押しにかかる。



「でも、もう暗くなりそうだし、今日は無理ねぇ」



 だが、空を見上げた咲姫は冷静に告げるのだった。提案した手を弱々しく下げるが、またもピシッと伸ばす仄香。



「んなら明日とかっ! どうよどうよ?」



「明日……遊ぶ? 僕は大丈夫だけどみんなは?」



 言って目配せすれば、三人とも頷く。それをみて仄香は「よっしゃ!」と拳を高く掲げテンションを上げ小躍りし始める。楽しそうでなにより。



「そんならーそんならー、んんんー? なんだっけ? とにかく楽しみだぁーっ!!」



 しかし、そんなに楽しみなのか、話の詳細は決められない仄香であった。考えている事がこんがらがってしまったみたいなので、助け船。



「時間と場所でしょ? 朝十時に駅前のドーナツ屋集合で良いかな?」



「そうそれっ! 良いかな良いかな!?」



「良いわよぉ~」



「ダイジョウ……ブッ!」



「私も問題ない」



「じゃあ決まりだね」



 パンと手を叩いて僕は合図を打つ。



 校舎の階段を抜けた先、下り坂とは別の緩やかな上り坂が。ここが寮生二人のお別れの場所だ。先にずいと出て振り返る二人。



「そいじゃ! うちらはオジャンでゴザル。ニンニン」



「闇に紛れ闇へ帰ル……ニンニン……」



「オジャンじゃなくてドロンね。ばいばーい」



「また明日」



「さようならぁ~」



 ちょっとずつ余韻が風に流されるように、騒がしい二人が居なくなって。さて、会話が途切れないかあれこれ話題を考えたが、心配する必要はなく、二人は温度差も無く白夜さんのウワサを始めていた。そんな咲姫と蘭子もとても冷戦状態には見えず、穏やかに今日の出来事を省みるだけ。ここで亀裂を入れるような事はしないのだろうか。僕は助かる限りだけれど、どこまでこの冷戦は続くのか。



 ともかく、明日はみんなで遊べるんだ。もっとみんなが仲良くなるように取り繕おう。

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