後日談
一年後、月読峠は、すっかり相撲の聖地として知られるようになっていた。
年に数回、追悼相撲大会が開催され、全国から力士たちが集まる。
そして、龍ヶ嶺の秘伝書をもとにした相撲道場も開かれ、多くの若者が稽古に励んでいた。
雷電は、その道場の師範として、後進の指導にあたっている。
「龍ヶ嶺殿の教えは、ただ強くなることではない」
雷電が弟子たちに言う。
「自分の力を制御し、相手を敬い、土俵を愛することだ」
弟子たちが頷く。
「そして、決して月に溺れてはいけない」
雷電が続ける。
「いくら高みを目指しても、地に足をつけることを忘れてはいけない」
「はい!」
弟子たちが声を揃える。
その様子を、夜と七巳が見学していた。
「相撲って、深いんだね」
夜が呟く。
「はい」
七巳が頷く。
「龍ヶ嶺さんが教えてくれました」
「そうだね」
二人は道場を後にし、神社へと向かう。
境内では、龍臣が祈りを捧げていた。
「おじいちゃん」
七巳が声をかける。
「おお、二人とも」
龍臣が振り返る。
「今日も、地図探しか?」
「はい」
夜が答える。
「今日は、湖の近くを探そうと思って」
「そうか。気をつけてな」
「はい」
二人は湖へと向かう。
湖畔には、相変わらず観光客が訪れていた。
だが、以前とは雰囲気が違う。
ただの観光地ではなく、何か神聖な場所として、人々は敬意を持って訪れている。
「この町、変わったね」
夜が言う。
「はい。でも、良い方向に」
七巳が微笑む。
「龍ヶ嶺さんのおかげですね」
「ああ。そして、これからもっと変わっていくだろう」
夜が空を見上げる。
青い空に、白い雲が流れていく。
「先輩」
七巳が言う。
「なに?」
「私、この町が好きです」
「俺も」
夜が答える。
「だから、もっとこの町のことを知りたい」
「ええ」
二人は、新しい地図を手に、湖の周りを歩き始める。
月読峠の物語は、まだまだ続く。
龍は地に宿り、人々を見守り続ける。
そして、新しい冒険が、二人を待っている。
蛇よ、どうか今宵は月に溺れぬように。
龍よ、どうか今宵も土俵に宿りたまえ。
月読峠は、今日も静かに、しかし確かに、物語を紡ぎ続けている。
【完】




