第三話 月読峠音楽祭
数か月後、月読峠では大きなイベントが開催されていた。
「第一回月読峠音楽祭」だ。
蛇の化石発見、龍ヶ嶺の供養を経て、町は文化的な盛り上がりを見せていた。
そして、このイベントの目玉として、地元の高校生バンドが龍ヶ嶺の物語を歌にすることになったのだ。
「緊張するな……」
ステージ裏で、夜が呟く。
彼は、歌詞を書く役を引き受けていた。
「大丈夫ですよ」
七巳が励ます。
「先輩の書いた歌詞、すごく良かったです」
「ありがとう」
夜が苦笑する。
「でも、人前で発表するのは初めてで……」
「私も同じです」
七巳が言う。
彼女は、この曲のボーカルを務めることになっていた。
「あなたの声、すごく綺麗だから」とバンドのメンバーに頼まれ、断り切れなかったのだ。
「それでは、次の曲は……」
司会者の声が響く。
「龍ヶ嶺権太郎への追悼歌、『土俵に宿る龍』です!」
拍手が起こる。
七巳がステージに上がる。
ライトが彼女を照らす。
バンドの演奏が始まる。
静かなイントロの後、七巳が歌い始めた。
『土を踏む 力強く 龍の如く』
『満月の夜 天を仰ぎ 昇りゆく』
『だけど今は 溺れぬように 地に足をつけ』
『この土俵で 魂込めて 戦い抜く』
観客が静まり返る。
七巳の澄んだ声が、夜空に響く。
『龍よ龍よ どうか今宵は』
『月に溺れぬように』
『力と技を 見せておくれ』
『この土俵の上で』
サビに入ると、バンドの演奏が力強くなる。
ドラムが地を打つように響き、ベースが大地を這うように唸る。
そして、ギターが天に向かって駆け上がるように鳴り響く。
『四股を踏む 大地が震え』
『龍が目覚める その瞬間』
『受け継がれる 魂の技』
『永遠に この土俵で』
二番のサビ。
『龍よ龍よ どうか今宵は』
『月に溺れぬように』
『あなたの思い 受け継いで』
『未来へと繋ぐ』
間奏で、ギターソロが入る。
それは、龍が天を駆ける様を表現するかのような、激しくも美しいメロディだった。
そして、最後のサビ。
『龍よ龍よ あなたは今も』
『この土俵に生きている』
『力と技と 魂込めて』
『永遠に輝く』
『土俵に宿る 龍の記憶』
『忘れはしない その生き様を』
『月読峠に 響き渡れ』
『龍の咆哮よ』
曲が終わる。
しばらくの沈黙の後、観客から大きな拍手が起こった。
スタンディングオベーションだ。
七巳が深々とお辞儀をする。
その目には、涙が光っていた。
「ありがとうございました」
彼女が言う。
観客の拍手は、いつまでも鳴り止まなかった。
ステージ裏で、夜は空を見上げていた。
満月が、優しく町を照らしている。
「龍ヶ嶺さん……聞こえましたか?」
夜が呟く。
答えはない。
だが、夜には分かった。
龍ヶ嶺の魂は、確かにこの歌を聞いていた。
そして、満足そうに微笑んでいた。
「先輩」
七巳がステージから戻ってくる。
「お疲れ様」
夜が笑う。
「素晴らしかったよ」
「先輩の歌詞のおかげです」
七巳が照れる。
「二人とも、すごかったぞ!」
バンドのメンバーが集まってくる。
「また一緒にやろうよ!」
「ええ、ぜひ」
七巳が頷く。
そして、彼女は夜を見る。
「先輩、次はどんな地図を探しますか?」
「そうだな……」
夜が考える。
「今度は、音楽に関係する地図とか、あったりして」
「面白そうですね」
「ああ。きっと、この町にはまだまだ秘密が隠されている」
「はい」
二人は、月を見上げる。
満月が、二人を優しく照らしていた。
月読峠の夜は、まだまだ続く。
そして、新たな冒険も、まだまだ続く。
龍は月に溺れず、地に足をつけて、人々を見守り続ける。
それが、この町の新しい物語の始まりだった。




