19.
お立ち寄りいただきありがとうございます。
今回…女性蔑視の思考や発言、会話もありますが、物語とご理解いただき、…広い心で読んでいただけると幸いです。
苦手な方はご無理をされないようご注意ください。
それでも最終話はハッピーエンドですので、再訪いただけると作者は泣いて喜びます。
「ふーん、後継者ねぇ…。この男はこう言ってるが、それは本当かい?……クリスティーナ」
(えっ?…ええぇえーーーーっ!そこで私に振るの?いえっ、ブロワ家に関わる事ですから当然と言えば当然過ぎますが……この状況で名指しされるなんて…)
そう…クリスティーナは未だフェルベールの腕の中に囲われているのだ…。
フェルベールの顔をキリッとした表情で見上げ、細やかな抗議の意を込めつつ覚悟を決めた。
フェルベールと離れ、二人と向かい合ったクリスティーナは、強い意志のこもった瞳でマルコムとソフィーを順に見て口を開く…。
「ハンセン伯爵令息…お久し振りにございます。……
早速ではございますが、先程の貴方様の発言について訂正と…大事なお話がございます…」
「ちょっ!…ちょっと待ってください、久し振り?…
ヴェントラー公爵令息、質問があります…先程貴方はこちらの女性をクリスティーナと呼ばれましたが……まっまさか…彼女は…クリスティーナ・ブロワ?……そっそんなっ!クリスティーナ!君なのかっ?」
「はい、ブロワ伯爵家のクリスティーナでございますが…それが何か?話を進めてもよろしいですか?」
「なっなっ…クリスティーナ!本当にお前なんだな?ならその口の利き方はなんだっ!私に向かってその様な口を利くなど…それにそんな格好で私以外の男と一緒にパーティーに参加した挙げ句、婚約者でもない男の腕に抱かれるなど有り得ない!以ての外だ!
伯爵はご存知なのだろうな?事と次第によってはハンセン家から正式に抗議するからなっ!」
ザワザワと周囲が騒がしくなるが、クリスティーナはそれらを一向に意に介さず、冷静に話を続ける…。
己の持てる自信と公爵家での教育の賜物であろう。
「仰いたい事は以上でございますか?
ならば…抗議云々は結構ですが…貴方様にクリスティーナと名を呼ばれるのは不快なので、どうぞブロワの姓でお呼びくださませ。
では続けます、ハンセン伯爵令息は……」
「待てっ!お前本当にクリスティーナか?……その態度…一体どうしたと言うんだ、どもりもしないし…顔も出し堂々と平気そうにしているだなんて…おかしいだろう?何故いつもみたいに私に従わない…」
マルコムが疑うのも無理はなかった…容姿が違う事に加え、ここ数年のクリスティーナはマルコムの前では「はい」か「いいえ」だけで…後は消え去りそうな小さな声で二言三言しか話せず…碌な会話もしてこなかったのだ…。まして視線を合わせるなど幼い時以来で……クリスティーナのスミレ色の瞳に射抜かれ戸惑っていたのだ…。
「……はぁ……マルコム、貴方を慕い…従順で大人しく、何も言えないクリスティーナはもういないの…」
疑い続けるマルコムに、クリスティーナは敢えて幼い時の様に砕けた話し方をするが…こちらを睨み頭を振り、決して認めようとはしない。
「うるさいっ!お前はこれまで通り俺の後ろを黙って付き従い、俺を婿として迎え入れればそれでいいんだ!そんな風に着飾る必要も社交もお前には必要ないっ!」
「ハンセン伯爵令息、言葉が乱れておりますよ。
それで?…貴方はわたくしを脅し、ブロワ伯爵家の婿に入り…わたくしとは白い関係で、そちらの女性とのお子を伯爵家の後継者と据え…我がブロワ伯爵家を乗っ取ると?
その計画の為にも…わたくしが意思を持つ事を良しとせず、外との繋がりを持つなと、そう仰いたいのですか?」
「んなっっ!!だっ誰もそんな事は言っていない…。いくら私に相手にされていなかったからと、被害妄想はやめるんだ!」
「あら…わたくしは貴方の口からお聞きしましたよ?そちらの女性も一緒に、とても楽しそうに計画されていたじゃございませんか…。畏れ多くも、その時の様子を証言してくださる方が、ちょうどこちらにいらっしゃいますので…言い逃れは無駄です。
あぁ、それと誤解されてる様ですが…わたくしは貴方の婚約者ではありませんし、貴方を婚約者に選ぶ事は……プリンが卵に戻ってしまうぐらい有り得ないので、二度と公言しないでくださいませっ!」
ツーーンッと顔を背けるクリスティーナだが、その言葉を投げられたマルコムも、その場で事の行方を見守っている野次馬に近い観衆達も、みんな?マークにポカン顔をするが…フェルベールだけは「ブハッ!」と盛大に吹き出した。
クリスティーナの腕を取り、体ごと自分の方を向かせる…
「クリスティーナ!…フフッフッ…君って人は…こんな時でも可愛いなんて反則だろう!それにしても…まさかプリンを例えにするなんて……ククッ!確かにプリンは卵に戻らないな…すなわち君達の関係も絶対に元に戻らないと言う事か!なんて冴えてるんだっ!」
フェルベールが満面の笑みで、クリスティーナの頭を撫でくり撫でくり撫で回していると…当然周囲の女生徒達が悲鳴に近い喜悦の声を上げるが、それらの声に負けじと最も近い場所から不満の声が上がった。
「何よっ!わたくしを除け者にしてっ!
貴女がマルコム様の相手のクリスティーナなら…何故フェルベール様とそんなに親し気なのよ!それに婚約者じゃないとか、婿入り出来ないとか…一体どう言う事かちゃんと説明しなさいよっ!」
ソフィーが興奮気味に声を荒げる、フェルベールは「なんだお前まだいたのか?」的な冷たい視線を向けるが、貴族言葉もどこへやら…ソフィーの暴挙は止まらない…。
「マルコム様に相手にもされず、捨てられた地味子のくせに…フェルベール様の同情を買って取り入ったのね?人の優しさに付け入るなんて…なんて卑怯なの!
マルコム様の隣でオドオドしてたのもどうせ演技なんでしょ?そんな似合いもしないドレスなんか着ちゃって…父親に泣きついて買ってもらったんでしょうけど、成金伯爵家だと触れ回ってるのも同然よっ!
そんな跡継ぎもいない成金伯爵家をマルコム様が継いであげると言っているの、あんたなんてこれまで同様大人しく言いなりになってればいいのよっ!」
言いたい事を言い切り肩で息をするソフィー…そのあまりの内容にシーーンッと周囲も息をのむ。
「貴様…俺が言った事が理解出来なかった様だな…
ハンセン伯爵令息…クリスティーナを傷付け、蔑ろにしてまで手に入れたパートナーがコレとは随分とお粗末だな?」
フェルベールの言葉に、かなり悔しそうに顔を歪めるマルコムだが…ソフィーの失言などよりも、クリスティーナの言葉が気になって仕方がなかった。
「フンッその通り過ぎて反論も出来ないか…。まぁいい、それよりもこの女のふざけた言動から説明してやろう。この女はクリスティーナに飲み物をかけ、暴言を吐いた。そして一度ならず二度までも俺の名を呼んだな…俺自ら忠告したにもかかわらず、だ。
その女がどこの誰かは知らんが、そいつの実家とパートナーであるハンセン家には、ヴェントラー公爵家より正式な抗議文を受け取ってもらう。フフ…貴様らの親がどんな判断を下すか楽しみだ…」
「待ってください!あっあれは事故だったのです!故意でない上に…その女のドレスは汚れてもいない。それに学生同士、親しみを込めて名前を呼んだだけなのに…何が悪いと言うのです」
「待たない、それとお前如きの訴えで俺の判断は覆らない。分からないのであれば、そこにいるパートナーか…家に帰って親にでも聞け、果たして無知が罪だと教育し直してもらえるかな?」
「フェルベール様…もう、いいのです。わたくし…その方に何を言われたとて気にしておりません。平気です…ですからそれ以上は……」
「何を言うクリスティーナ!俺が許せないんだ。君は地味でも捨てられたのでもないっ!君がこいつを……
いや、この制裁はブロワ伯爵家の為と思って目を瞑ってくれ」
(俺はクリスティーナがこの男を見限って捨てる事に対して、この男に抱くだろう罪悪感さえも残したくはないんだ…。それに…これだけでは済まさない…)
俺の服の裾をおずおずと引っ張るクリスティーナの仕草は可愛いが…俺にはまだまだやらねばならない事が残されている、クリスティーナを納得させた俺は制裁を続けるべく、二人に向き直った……。
もう少しだけフェルさんのターンにお付き合いください。




