策士が溺れて、シュールな開き
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顔を突き合わせて考えること暫し。
攻撃しても完全にダメージが入らないのでなく、皮一枚何か挟まっているような感じがするのだ。
試しにジェネリック破壊の星を食らわせれば、それなりにダメージは入る。
お蔭で縫い留めているにせよ、破壊神が痛みにドタンバタンと身体を揺するので地面が揺れるのだ。酔いそう。
原因が分からん。
破壊神は息絶え絶えかつ血まみれになっている。
咳も鼻水もクシャミも止まる気配はないし、じわじわと傷が増えていく。
こっちにそんなつもりはないけれど、破壊神にしてみれば拷問でも受けているような物なんだろう。
泣きが入りだした。
なんか涙声で『イッソ殺セ』とか。
私達だって討伐に来たけど、長く苦しめようと思ってはいない。そんなことするほど暇じゃないし、嫌悪の感情も持ってないんだもん。そもそも倒すモンスター以上の興味もない。
というわけでお知恵を拝借するために、先生達に声をかけた。
すると答えは呆気なく判明。
「うーんとね。賢者の石はたしかに壊れたけど、長年の魔力の蓄積で、防御力がかなり底上げされた状態になってるみたい」
「それでもレグルス君や奏君・つむ君くらいの力を合わせると、致命傷を負うレベルの攻撃になるようだね」
「なるほど……?」
いや、なるほどじゃないな。
ヴィクトルさんの見立てだと、今のままじゃノエくんの攻撃は届かない感じらしい。ではノエくんの攻撃にレグルスくんや奏くん紡くんや私の力を乗せると、どうなのか?
これもちょっと微妙。
力の配分的にノエくんの力っていうより、レグルスくんの攻撃にノエくんの力が加算されたという判定になって、結果ノエくんによるアタックとしてみなされないみたい。
それだとトドメにならないんだよね。
なんという厳密な呪いか。
そんなものを操る才能があるなら、真っ当に生きても一財産築けていたろうに。
どったんばったんと痛みに加えて風邪症状で蠢くものだから、身体に傷も増えていく。それも相まって破壊神はそれこそぼろ雑巾のようになっていた。
『殺スナラサッサトッェッキシュンッ!? コロゲホッゲホッォウェッガフッ!?』
咳をし過ぎて戻しそうな雰囲気さえある。
ここらが潮時だろう。
そんな話をすると識さんが「ですよねー……」と頷いた。
「なんかもう、虐めてるみたいに思えて来ちゃって」
「オレも。オレの力不足が原因だから、余計にこう……」
ノエくんも心なし消沈している。
彼の性格からすると、破壊神に怒りや恨みはあっても、長く苦しませてやろうなんて思いもしないはずだ。自分の力が通用しないなら今回はあっさり引くつもりだったんだろうけど、完全に通用しないわけじゃない。それも彼にとっては判断に困るところなんだろうな。
なんかないだろうか?
先生達にしても、これはちょっと予想外の話だったんだろう。
そもそも長年魔力を溜め込んだ賢者の石が、壊れても防御力をかなり底上げするなんて、今回初めて分かったことだそうなので。
大根先生も初めて見たそうな。
でも現物が壊れたことだし、時間が経てば魔力が抜けて防御力も弱まるだろう。大根先生はそう言った。
だけどここまで来て諦めるのか?
そういう思いもある。
ラストアタックがノエくん限定でさえなかったら、それこそ猫の舌で心臓を一突きしてやったのに。
つらつらとそんなことを考えてハッとする。
まあ、ダメで元々。これで駄目なら撤退しても良いだろう。
そう考えて、大根先生を呼んだ。
「うん? どうしたね?」
「あの、ドラゴンって普通に胸骨と肋骨を開けたら心臓があるんですよね?」
「ああ。おそらくその辺は普通の動物と変わらんと思うが」
念のためにヴィクトルさんにも破壊神の骨格を視てもらう。やはり胸部は胸骨と肋骨に守られているそうな。
その質問に、先生方もレグルスくん達も不思議そうな顔で。
「あにうえ、どうするの?」
「胸を切り開いて骨を外し、直接心臓を狙うってどう?」
「どう、と言われても……?」
ノエくんが困惑したような声で首を傾げる。
外科手術の胸部正中切開術だわな。
そこまでしないといけないのかって話ではあるんだけど、この場においては一番確率が高いやり方だろう。
一同沈黙。
正直勝てることはもう解ったから、そこまでやらなくてもいいのかも知れない。
破壊神のすすり泣きが聞こえて来た。
『ヒ、ヒトデックシッ!? ヒトデナシ、ゲホッゴホッ、ドモメ! キサゲフッズズ、キサマラニハ、ズル、ヒトノココロガナイノカ!? ゲフッゴフッ! コンナゴホゴホッ、ビョウニンヲコロスナド、アンマリダ! セメテ、病ガ癒エルマデ、ガホッグフッマッテクレテモ……!』
少しカチンとくる。
「今のお前と同様に命乞いした人を、お前は見逃してやったことがありますか?」
『グ、ヌ、ズルッ』
答えはない。つまりそういうことなんだろう。
迷っていたノエくんが、唇を引き結び目を瞑る。
「やります」
目を開けたとき、彼は一切の迷いを棄てていた。
彼が決めたなら、こっちが拒む理由はない。
そういうわけで頷くと、奏くんが弓をひゅっと射た。感覚遮断効果のある矢が破壊神の胸に刺さると、ぴたりとその巨体が動きが止まる。
『ナニゲフ、ズル、スルキ、ダ!?』
「胸を開いて心臓を露出させるんですよ。情けです、痛みは感じないようにしてあげましょう」
ただし自分が腑分けされる光景は見えるだろうがな。
指を鳴らせばプシュケがドラゴンの上に舞う。
「さて、胸部の切開だが。胸の真ん中に胸骨があるから、まず皮膚及び筋肉の切開。その後胸骨を露出して、縦半分になるように切って左右に分ける。これで心臓が露出するはずだが」
「分かりました。視野を広くとるために、開いた後は骨や筋肉を固定した方がいいですね」
「うむ、そうだな」
そんな訳で氷の刃をメス代わりにして、プシュケに破壊神の胸部に切り込ませる。プシュケ伝いに肉を切る感触がするけど、あまり気分のいいもんじゃない。
暴れようとする破壊神を、識さんに引き継いだ猫の舌が締め上げる。
ニルスさんは青褪めて目を逸らしているけれど、それ以外は開胸術を見守っていた。
ある程度肉を切るとタラちゃんとござる丸が、仰向けに縛られたドラゴンに近づいて行く。
あらかじめござる丸が地面に打った杭に、タラちゃんが破壊神の胸の筋肉を固定した糸を結ぶ。胸骨が随分見えやすくなった。
かなりの血が破壊神から流れているけれど、本当にノエくんのラストアタック以外では死ねないようだ。わりと元気に『ヤメロ』だとか『人デナシ』とか喚いている。
というか、うるせぇ。
そう思っていると背後に気配。振り返るとノエくんがむすっとした顔で立っていた。
その目はキッと破壊神に向かってつり上がる。
「そもそも! お前がオレの一族じゃないと止めをさせないなんて、ややこしい呪いを使うから悪いんだろ!? そういうの、何ていうか知ってるか? 策士、策に溺れるっていうんだ!」
ごもっともだ。
そうこうしている間に、破壊神の胸骨が切れて肋骨が観音開きの様相を呈する。それもタラちゃんの糸で牽引して、ござる丸の出した杭に固定すると、拍動する心臓がプシュケを通して確認できた。
何というか、アジの開き。いや、ドラゴンの開き。
そういう状態の破壊神の胸に、ノエくんと識さんが飛んでいく。
自分の腑分けを見せられていたせいか、破壊神は最早身じろぎ一つしなくなっていた。
その胸の上に飛ぶノエくんが、握っていたアレティを構える。
識さんの背中のエラトマが鈍く光り、ノエくんに付与魔術を重ねがけした。
「ノエ君……!」
「ああ、識。見ててくれ! はぁぁぁぁっ!」
裂ぱくの気合がノエくんの喉から迸る。
掲げられた剣に魔力が伝わり、強大な力が渦巻く。
ノエくんの全身全霊かけた力が乗った剣が、一気呵成に破壊神の心臓めがけて振り下ろされた。
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