想定外の薄皮一枚
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次回の更新は、2/9です。
すこんっとドラゴンの口の中に入ったその瓶は、チラチラ覗く舌の上に落ちたみたい。その衝撃でドラゴンが口を勢いよく閉ざす。かみ合わせの悪い歯の隙間から、バリンッとガラスの割れる音がした。
「あ」
私以外の全員が固唾を飲んで、瓶が割れるのを見守っていた。
ドラゴンが動きを止める。それから僅か二秒後。
『GYAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!?』
うん、でけぇ。
耳を劈くような悲鳴が上がったと同時に、ドラゴンがなりふり構わず暴れ始める。
巨体をくねらせてやたらめったら飛ぶものだから、あっちこっちの岩場に身体をぶつけるんだ。避けるのは簡単だけど、ぶつかって壊れた岩とかが飛んでくるのが危ない。
そういうのを避けるために天与の大盾を張れば、そこにもぶつかってくるから始末が悪い。
「アレ、どうよ?」
天与の大盾に避難した奏くんが話しかけてくる。ノエくんも識さんも、なんか痛そうな顔だし、レグルスくんも紡くんもそう。
「うーん、割れてると思うよ。だって識さんの防具に使った賢者の石の原石、あの人類に早すぎるヤツをぶっかけて砕いたんだから」
「マジで?」
「マジで。辛すぎる調味料は武器にもなるけど、本質的には武器でも魔術でもない。だから武器でも魔術でも傷付けられない賢者の石の概念ごとぶち壊せるんだよ」
そういう説明をすれば、菫子さんの人類には早すぎるアレの、そのほんの初歩を見たことがある統理殿下もシオン殿下も「なるほど」と頷いた。
それに首を捻る人が一人、ニルスさんだ。
菫子さんの人類に早すぎるアレの話をしたことはあるけど、破壊神の賢者の石がどこにあるのかは話したことがない。
ラーラさんに抱えられながらメモを取りつつ、ニルスさんが質問をしてくる。
「結局、石があったのは何処だったんですか?」
「ああ、舌ですよ。埋め込んでたらしいです」
「それはそこが狙われにくいためなんでしょうか?」
「さぁ、どうでしょう? お洒落で舌にピアスを着ける人がいないこともないし」
この辺のことは神様方にもお尋ねしたことはなかったな。だって悪いけど、興味が湧かなくて。倒す相手の戦力は知りたいけど、パーソナルな何某って要らないからね。
そういう話をしていると、大根先生が腕を組んでしみじみ言う。
「鳳蝶殿の予言が当たったな。菫子は世界を救う者の一人になった」
「ああ、そうですね。でもまだまだですよ。菫子さんの研究はこんな風に使うのじゃなく、色んな人を飢えから救うためにあるんですから」
「ああ。それに識やノエ君もアレを倒すだけでなく、他のことでも世界を救う可能性があるんだ。気楽におやり」
「はい!」
「頑張ります!」
ノエくんと識さんはぐっと拳を握って激励に応える。
その間もドラゴンは飛び回ってはガンガン辺りにぶつかって痛そうに呻く。痛みを感じるということは、ダメージを与えられているということ。やはり賢者の石は砕けたようだ。
すらっとひよこちゃんが脇差に魔力を込め始める。
源三さんのというか、無双一身流継承の刀は魔力伝導が高い。レアメタル中のレアメタルであるヒヒイロカネで作られているからだそうな。
まさに抜けば玉散る氷の刃。
美しい刀身がレグルスくんの魔力によってさらに輝く。それをレグルスくんが大上段に振りかぶった。
「ちぇすとぉぉぉぉぉぉぉ!」
気合い一閃、刀身から放たれた光が飛んで暴れるドラゴンの羽根の片方に直撃する。
かと思うと奏くんの弓から矢、紡くんのスリングから綺麗な礫が、それぞれ風を切ってドラゴンめがけて飛んでいく。
『グギャァァァァッ!?』
大きな悲鳴と共に、ドラゴンの羽根から多量の血が噴き出す。見れば大きな蝙蝠のような羽が根元から千切れかけていて。
「とおったね? おちてくるよ」
「おお、上手いことひよ様と同じところに当たったな!」
「ほんとだー! やったー!」
にやっとニヒルに笑ったレグルスくんと、いつもと変わらぬ奏くんと大喜びの紡くんがハイタッチする。
血が傷口から噴き出したということは、不壊の呪いは完璧に破れたという証明だ。
流れる血がちょっと惜しいな。あとで売りたいんだけど。
そう思っていると識さんが「エラトマ!?」と叫んだ。
何かと思えば、識さんの翼から何故か影の触手がドラゴンに伸びている。猫の舌だな。
どうしたのか聞けば識さんが「えー?」と残念そうに肩を落とした。
「なんかエラトマが破壊神の血の味見したんですけど『飲めたもんじゃないし、ドラゴンのそれと全然違う』って」
「え? 薬効とかなさそう?」
「はい。血とか内臓は売れなさげです」
「おや、残念」
となると皮や牙や骨や爪だけど、うーん。
若干やる気が削げたな。
それを見越してか、ヴィクトルさんが苦笑いでドラゴンを指差した。
「あーたん、アイツ大分お宝溜め込んでるっぽいよ」
「え!? 本当に!?」
「うん。なんかドラゴニュート時代から黄金集めてたって」
「おやおや、それは是非とも略奪しないと」
お出かけしそうだったやる気さんが戻ってきたところで、識さんとノエくんが天与の大盾から出たいと申し出て来た。
遠距離攻撃は出来るけど、出来たら近くで顔を見てラストアタックを決めたいのだとか。
それに統理殿下やシオン殿下も加わる。
なので天与の大盾にニルスさんと先生方に残ってもらい、痛みに呻いて地面を這いずるドラゴンの方へと近づく。
とはいえ一定の距離は置いておきたい。
というか暴れるヤツの動きを止めた方が速いんだろうか?
考えてゴロゴロと転がるドラゴンの四肢を、その大きな身体の下の影から呼び出した猫の舌の触手で押さえつける。
『ムゴァッ!? ゲホゲホッ!? オノレ、卑怯ダゾ!? ヒトガ風邪ヲヒイテイルトキニックシュンッ!』
「いやぁ、体調管理は自己責任ですよ。赤ん坊とか子どもじゃあるまいし」
唾と鼻水がまたとんだ。ばっちいな。
物理障壁で唾も鼻水も避けてはいるけれど、ドラゴンの大きさが大きさなので飛沫の飛び方が尋常じゃない。
これ、厄除けされてなかったらもれなく移りそうな気がする。
っていうか逆にこの破壊神レベルの大物が罹患して、その飛沫が風に乗ってあっちこっち行ったせいで、件の病がこっちの大陸に蔓延してるとかないよね? まさかね?
首を振って嫌な想像を追い払う。
そんな私に統理殿下やシオン殿下が声をかけて来た。
「鳳蝶、ちょっとどうしたもんだろう?」
「うん? なにかありましたか?」
「僕らも羽根を攻撃したんだけど、飛膜が破れただけで深手までいかないんだ」
「あれ?」
言われて統理殿下やシオン殿下の攻撃するところを見せてもらう。
するとたしかに統理殿下の剣による鎌鼬も、シオン殿下の氷結魔術を纏ったクロスボウもきちんと当たってはいた。それも羽根の付け根あたり。
しかし飛膜が破れることはあっても、レグルスくんや奏くん紡くんの攻撃のように、羽根の根元を折るには至っていなかった。
「え? なんで? 強化しまくったのに?」
「うん。たしかに普段より力が溢れているんだ。でも、アレだ」
「手ごたえはあるんだけどね。これって僕らがレグルス達より弱いから、かな?」
三人で首を捻る。
強弱の問題で言えばレグルスくん達のほうが、そりゃ殿下方より強い。
でもだとしたら……?
確かめないといけないと声をかけるより早く、空から魔術で攻撃を仕掛けていた識さんとアレティを振るって衝撃波をドラゴンにぶつけていたノエくんが動きを止めた。そしてこっちに降りてくる。
「なんか、イマイチイマニくらいまだ硬いですね」
「うん。思うより刃が入らない感じだ」
これは困ったことになったかも。
そういう話をしていると、レグルスくんと奏くん紡くんも傍にやって来て首を捻る。
「なんか思ったようにダメージが入ってない気がする」
「おれも、いつもよりきれない」
「つむも。あたってるのにあたってないかんじする」
どういうこと?
お読みいただいてありがとうございました。
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