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白豚貴族だったどうしようもない私に前世の記憶が生えた件 (書籍:白豚貴族ですが前世の記憶が生えたのでひよこな弟育てます)  作者: やしろ


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世にも奇妙な殴り込み

いつも感想などなどありがとうございます。

大変励みになっております。

次回の更新は、2/6です。

 さて、夕飯を食べ終わって暫く。

 新月だから当然月のない闇夜が訪れた。


「爺やさん、連れて来なくて正解だったな」


 奏くんの言葉が示すように山の頂は、広いには広いんだけど、中央が火山口になっているためドーナッツ状で石がゴロゴロ。

 かといって身を隠すような場所もそう多くない。

 現状気配遮断の魔術を使っているからか、破壊神(偽)はこちらの存在に気付いていないようだ。

 火山口と言っても休火山。上空に覆いかぶさる屋根のようなものもないから、飛ぼうと思えば外に出れそうなもんだ。けどノエくんの一族が強固に施した結界は、上空をほんの少し飛ぶことは出来ても外には出られない。大概そういうのは禁呪なんだよなぁ。人道に反する術じゃなく、自分の命を縮める類の。

 闇に紛れて頂へ。

 切り立った巨岩の下には砂利の足場、その中央には活動を止めて久しい火口。

 そして奈落を思わせる深い穴の上に、不釣り合いなまでに長閑にぷかりと浮かぶ黒く大きなドラゴンの影があった。

 セオリーは奇襲。

 しかし、今回はその有利さを棄てる。

 何となくその方が良い気がしたからだけど、ノエくんはそれを喜んだ。彼は真正面から、両親の仇であると同時に一族の宿敵の顔が見たいらしい。

 なのでちょっと間抜けな構図だけど、奴の目を掻い潜って顔が正面切って見えるポジションを探す。


「なあ、こんだけ近付いて気付かねぇってなんなんだ?」

「識とご領主様の結界が優秀だからじゃない?」

「うーん、どうかなぁ?」


 奏くんの疑問にノエくんが真面目に首を捻る。識さんもノエくんの傍で屈みながら首を捻っていた。

 結界が優秀っていうならそうなんだろうけど、だとしてもそれなら破壊神って私や識さん以下の魔術の力量ってことだ。

 戦士は自分より格上の相手の気配は読みにくいらしいけど、魔術師も同じく自分より優れた魔術師の魔力放出に気づきにくい。

 それって、要するに。


「やめよう。それ以上は良くない」

「うん。これから戦うんだし、正面切って乗り込めば理由も分かるよ」


 いけないいけない。破壊神が先生達はおろか私達よりも、大分もしかするとアレっていう事実に気が付くところだった。これ以上はいけない、やる気も士気も落ちてしまう。

 誰ともなくすっと目を逸らして深呼吸を一つ。

 ござる丸がゴザゴザ鳴いて指……枝? 指す方を見れば、トカゲの鼻先から口へのラインが見えた。


「じゃ、行こうか」


 声をかければニルスさんと大根先生と三先生以外が、切り立った岩場に立ち上がる。私の背後は転ばないようにタラちゃんとござる丸ががっちり支えてくれて。

 識さんと顔を見合わせて気配遮断の結界を解く。

 弾かれたように空飛ぶトカゲが牙を剥きだしにした。


『ナニモギャッ!?』


 不気味に低い声で、多分『何者ダ!?』とか言いたかったんだろうけど、指を鳴らしたヴィクトルさんに阻まれる。

 カッと私達の背後が光ったのだ。今回先生達が手伝ってくれるの、これで終了。

 いきなり暗闇から朝が来たのかと思うぐらいの光に晒されたトカゲが、目を覆ってのたうつ。そこに翼を広げたノエくんが、真正面から向かい合う。


「破壊神! この顔に見覚えがないとは言わせないぞ!?」

「あ、あ、ノエくん!? 逆光だから多分アイツ見えてない……」

「えー……収まるまで待った方が良かったかな?」


 識さんが同じくエラトマを翼にして、空でノエくんに並びつつ告げた。まあ、私らの背後から光ったからね……。

 毎度のことながら、なんで菊乃井式殴り込みってこう恰好が付かないのやら。

 生温かい空気の中、岩場から少し下がった砂利の足場へと皆飛び降りる。私はタラちゃんに乗せてもらって下りたけど。

 というわけで、武士の情けだ。

 こっちは私が全員強化の付与魔術を使う以外、様子見。

 そうこうしていると呻いていたドラゴンが大きく牙を剥きだしに吼えた。


『オノレェェェッ!? 何者ダ、コゾ、ハ、ハ、ハックチンッ!?』


 これも『小僧』って言いたかったんだろう。しかし続く言葉が出て来ることはなく、代りにその大きな口からクシャミが出て来た。ついでに大きな鼻の孔からタラリと鼻水が滴る。

 どういうこと?

 一同沈黙。

 ちょっと意味が分からないですね?

 そういう雰囲気でいると、背後から「あー……えー……予想外……」という、ヴィクトルさんの声が飛んできた。


「あーたん、かなたんも。ちょっとそのドラゴンのお顔とか全体見てみて?」

「えー……」

「なにー?」


 ご指名の奏くんと顔を見合わせる。

 ドラゴンはなんかまだフガフガとクシャミや咳を繰り返し、その度に鼻水と唾が飛んで大変ばっちい。

 もう、やだー!

 嫌そうな顔をしていると、レグルスくんが怒ったような顔で叫んだ。


「クシャミやセキをするときは、てでくちやはなをおおうんだぞ! マナーがわるい!」

「そうだよ! おかぜうつったらどうするの!?」


 紡くんの追撃に、ふっと目の前のドラゴンの違和感に気が付く。

 自称破壊神の肌色は黒に赤が混じるような色だけど、時折何かが拍動しているように明滅するのだ。それも何かうねる線のようなものが。目を凝らすと、その違和感の正体に気が付いた。


「「の、呪われてるー!?」」


 奏くんも気が付いて、同時に指差して叫んでしまった。

 そう、奴の顔といい身体といい、去年の秋から今年の初めに親の顔より見たあの呪いの赤黒い蔦が這いずっていたのだ。


「ドラゴニュートからの変身だったからか、例の病気に罹患したっぽいねぇ」


 ヴィクトルさんの長閑な声にしんと静まる。

 なるほど、これかぁ。何が何でも今回の新月に討伐を合わせたかった理由は。

 奏くんも解ったのかふへっと変な笑いを浮かべて。


「たしかに『ザマァ』って要素だな、こりゃ」

「ルマーニュってロクなことしないと思ってましたけど、たまには役に立つんですね」

「何がどう転ぶか分からないもんだなぁ。もしかしてこういう時のために、件の病に手を出したのか……?」


 統理殿下がのんびりと、シオン殿下のしみじみした言葉に返す。やめてやれ、ニルスさんのHPがゼロになるから。

 ちらっと背後を窺うと、飛び降りるためにラーラさんにお姫様抱っこされたんだろう。ニルスさんがその姿のまま、顔を両手で覆いつつ震えていた。手の隙間から見える頬は赤いし、耳も赤いよ。ごめんね、うちの蛮族の親玉が。悪気は皆無なんだ。

 クシャンックシャンッゲホゲホ。

 破壊神の風邪症状をBGMに、気を取り直してノエくんが再び名乗りを挙げた。


「オレはドラゴニュートの勇者・シグルドの末裔にして、お前に挑んだアルトリウス・ゼノビアの息子ノエシスだ! お前を倒しに来た!」

『猪口才ナ! クシュッ!? キサゲフッゴフッ、ゴトキコゾウッ! ッェックシッ!? ズル、何ガデキ、ズズ……』


 喋れてない。

 なんか言いたいことがあるのは分かるんだけど、クシャミ鼻水咳に邪魔されて、何も伝わってこない。というか、こっちの耳に入ってこないんだよなー。

 まあ、いいか。

 ノエくんは名乗りが出来て満足したのか、すちゃっとブリリアントピュアホワイトに輝く剣・アレティを構える。それを合図に私達も得物を構えたんだけど、忘れちゃいけない。菫子さんから託された例のブツを、ポーチから取り出して翠のプシュケに持たせる。

 さて、戦闘開始と行きたいんだが。

 まだまだドラゴンの方は巨体をくねらせて咳やクシャミに悩まされている。飛んでくる唾や鼻水が超嫌なんだけど。

 そのうちドラゴンが上を向いた。

 くしゃみが出そうで出ないというか、はっ、はっとちょっと震えている。チャンス到来。

 クシャミが出る一瞬前なんだろう。大量に息を吸い込むために、ドラゴンが鋭い歯が並ぶ口を大きく開く。その一瞬。

 翠の蝶が開いた大口に、中身が赤通り越して黒に輝く瓶を投げ込んだ。

お読みいただいてありがとうございました。

感想などなどいただけましたら幸いです。

活動報告にも色々書いておりますので、よろしければそちらもどうぞ。

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― 新着の感想 ―
あー、破壊神(偽)じゃなくて、破壊神(笑)だったかw
ばっちいばっちい言ってたらほんとにばっちかったって、これ、さっさと消毒しておしまいだな。
まさに 弱り目に祟り目 泣きっ面に蜂 ふんだりけったり その全てが 自業自得 因果応報 悪因悪果 の ざ・ま・ぁ! 長い前フリ伏線やなぁ…
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