視える景色と潜む歴史
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そんなこんなでエイルさんと別れて、改めて私達はマルフィーザの観光に繰り出した。
去年行ったマグメルとは違って、マルフィーザの市は昼間も賑やかだそうで。
「まあ、魔女狩りだの魔術師狩りだのやってた頃の名残でね。魔術に関わる物は殆どでないよ。ただ普通の品物を売ってると見せかけて、実は魔石の加工物だった……とかはあるね」
「それって、合法です……?」
「今はね。百年くらい前は怪しかったけど」
「Oh……」
ヴィクトルさんのにこやかな言葉に、視線が明後日に飛んでいく。
いや、でも、笑い事でないんだけど、こっちの大陸は未開の地が多いんだそうな。
正確にいうと、人間が切り開いた土地が少ないというのか。
事前情報をくれたキリルさんによると、獣人やドワーフ、ちょっと珍しいところではエルフが切り開いた土地というのはあるけど、こちらの人類は魔術を自身の武器の選択肢から外したせいで、魔物に生活領域を狭められているんだって。
強い魔物って大体物理攻撃に強い。そこで魔術を併用して倒すんだけど、その魔術を自分達で捨てたのだから結果はお察し。
そこに荒天や地震なんかの災害が続いて、みるみるうちに人類が減っていき、そこでようやく生きるために魔術を取りもどしたわけだ。
まあ、なんだ。災害は恐らく神様のお怒りのせいだろう。ロスマリウス様が流したって言ってたしね。
それでも一度根付いた偏見というのは根深くて、つい百年くらい前まで魔術に関わる物は暗黙の禁忌とされていた……という。
それで魔術が解禁になった現在の品揃えはどうかと言えば、玉石混交。
なにしろ知識まで根こそぎ禁忌になってしまったので、鑑定が出来る人間も僅かなら、加工できる人間も僅か。それでも隠れて技術は受け継がれていたり、極まれに大昔の逸品が掘り出されて売られたりってのがあるそうで。
ヴィクトルさんの説明を聞きつつ、露店に目をやればたしかに珍しいものがある。
魔法のランプと言われて思い浮かべるソースポッドに似たランプやら、ガラスモザイクのランタン、本と見せかけて中に薬瓶を入れて置ける置物、背中に羽の生えたうさぎを咥えた熊の木彫りの像とか。
全体的に面白雑貨というんだろうか。
露店の棚を覗いていると奏くんが笑う。
「モッちゃん爺ちゃんに見せてやりてぇ。あの熊とか、好きそう!」
「ああ、たしかに」
用の美を愛する鍛冶屋のお爺さんの顔を思い出して頷く。すると反対側から手をぎゅっと引っ張られた。
「あにうえ!? いしでできたおはながあるよ!?」
「ほんとうだ! ひかってる!?」
レグルスくんの言葉と続く紡くんの声に、彼らの指差す方向を見れば、たしかに淡く光るパールホワイトのひだが花びらのように折り重なる石がある。若干光ってるんだけど、目を凝らすと何かが上に乗っているのが見えた。
その何かっていうのが。
「えー……? 角に花が生えた鹿? めっちゃ小さいのがいるんだけど?」
何じゃ、ありゃ?
じっと見ていると、極小……手のひらサイズの鹿がこちらに気が付いたようで、ぴょいっと跳ねてこちらにやって来た。
え? なに? どういうこと?
戸惑っていると、もっと戸惑うような声が背後から振って来た。
「え? あーたん、視えてるの?」
ヴィクトルさんの声に、さっと血の気が下がる。これ、この鹿、視えちゃいけないやつか!?
驚いている間にも、鹿はぴょいぴょい跳ねて私達に近付いて来る。
焦るままに振り向くと、ヴィクトルさんが慌てて首を横に振った。
「ああ、大丈夫! 悪いものじゃないから。ただちょっと、アレが視えたってことは、目がもしかしたら僕らの方に寄って来てるのかも、みたいな?」
みたいな、とは?
イマイチはっきりしないヴィクトルさんに切り込んだのは、我らが勇者・奏くんだった。
「僕らのって、エルフ方向ってこと? 人間とエルフの目ってなんか違うの?」
純粋な質問に、ロマノフ先生とヴィクトルさん、ラーラさんがそれぞれ目線を交わし合って頷く。
「ボクらの目は、普通のエルフの目ともちょっと違うからね」
「そうなんですよ。なので、ここでいう『僕ら』は旧いエルフだと思ってください。始祖エルフ、ですね」
「うん。僕ら始祖の血を継ぐ旧いエルフの目には、精霊が視えるんだよね。あーたんが視たのは大地の精霊だね。それも原初の精霊に近く強いタイプ」
きょっとーん、だ。
いや、私だけでなくレグルスくんも奏くんも紡くんも。
そんな私達の様子にヴィクトルさんが苦笑いする。
「いやー、たまにいるんだよねー。魔術の研鑽しすぎて、今どきのエルフ超えて、僕らの側に寄っちゃうタイプが。あーたんの目はそっちタイプだったかぁ」
「そうですね、【透かし見】か【鑑定】のどちらかに行くと思っていましたが、これは定着すると違う物になりそうだ」
「本当だね。【鑑定】になるとしてもヴィーチャよりの【鑑定】じゃない?」
先生達の話を聞いていると、先生達は普通に精霊が視えてるっぽいな?
同じようにレグルスくん達も考えたようで、素直にそう聞いてみると答えは「否」だった。いや、「否」というか場合による。
弱い精霊でもあまりにも強すぎる精霊でも、ヴィクトルさん以外ははっきり見えないそうな。
理由としては、弱い精霊だとはっきりこちらに解るほどの姿をとる力がなく、強い精霊だとその姿を視えないように魔力で隠してしまうのが殆どだから。
その理論で言うと、私に姿が見えた精霊はやっぱり強い方なのだ。
なお、菊乃井邸の精霊王はかなり強い。ヴィクトルさんでもその姿の残滓しか視えないとか。レグルスくんのひよこちゃんポーチのピヨちゃんも強いけど、タイマンで勝てなかったそうだから格の違いは推して知るべし。
そんな話をしている間に、角に花を咲かせた鹿の精霊は私の匂いを嗅ぐだけ嗅いでぴょんぴょん跳ねてどこかに行ってしまった。
「多分だけど、まんまるちゃんから百華公主様の気配を感じたんじゃないかな? 大地の精霊は、姫君の眷属だもの」
「ああ、なるほど」
ラーラさんの言葉に頷く。
そう言えばあの鹿は石の花、多分デザートローズかな? それに乗っかってた。アレが好きなら、手元に置いておけばまた会いに来てくれるかも知れない。
そういう訳で、そのデザートローズを売っていたお店に行ってみる。
木で作られた棚に、沢山の鉱石や変わった形の石、仄かに魔力を感じる水晶、そういった物が所狭しと並べられていた。
けどやっぱり一番魔力を感じるのはデザートローズで。
その割に、値段がお安い。
店番をしていたお婆さんによると、この辺ではデザートローズはそう珍しいものじゃないというか、よくドロップする魔物がいるそうな。
「えー……そうなんですね」
「まあねぇ、観光客の土産にはよく売れるけど。それだけさね」
いかにもつまらなさそうに溢すお婆さんだけど、そういう物に興味を示したお客に高く売ろうとしない辺りきっといい人なんだろう。
鹿の精霊が乗っていたデザートローズがほしいと言えば、オマケに小さな光る石を付けてくれた。
「レグルスくんは和嬢に買わない?」
「うーん、おれはねぇ……」
色々興味を惹かれるのか、レグルスくんは棚に視線をさ迷わせる。そのうち、棚の一点に視線を止めて「あ」と呟いた。
彼の視線の先にあったのは、卵型の石。
「これがほしいな!」
「それも単なる卵型の石だからね、安くしておくよ」
そういう訳で、私のデザートローズにレグルスくんの卵型の石、それから奏くん紡くんもデザートローズを購入。
お婆さんはついでだからって、美味しいお菓子の屋台まで教えてくれて。
私達は宿屋までの道を、買い食いとウィンドウショッピングを満喫したのだった。
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