お茶会とは、スカウト会場と見つけたり
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次回の更新は、10/3です。
ひよこちゃんが皇居に来るときに一緒に持って来てくれた料理長お手製のお弁当を皆で食べて。
そこから私とひよこちゃんは皇子殿下方のお茶会に出陣。
美しく整えられた庭園に設置された沢山のテーブルに、子ども達がチラホラ。
去年は鬱陶しいことがあったけれど、今年はそれもなさそうでちょっと安心だ。
レグルスくんと手を繋いで招待状を待機していた侍従に渡して、空いているテーブルを探す。
すると見覚えのある令息がいた。
「あ、ノアさんだ」
「そうだね、ご一緒させてもらおうか」
ベルナール子爵家のノアさん。
お隣に座った何処かの令息とお喋りしているところだった。こっちに気付いたようで、手をふれば席を立って近くに来てくれる。
「お久しぶりです、お元気でしたか?」
「はい、閣下もお元気そうで何よりです。レグルス様もお元気そうでなによりです」
「はい、ありがとうございます!」
和やかに迎えてくれたノアさんに二人で挨拶すれば、周りが騒めく。
無礼講だとか子どもだけだとか言っても、やはり貴族社会。ここは小さな社交界で、情報は武器だ。
私がノアさんと友誼を持ったということで、同じように友誼をと親から命じられている子どももいるかも知れない。
ピリつくよなぁ。
内心でげっそりしていると、ノアさんが苦笑いを浮かべた。
「最近僕の周りも探られているようで」
「ああ、なるほど」
ノアさんに探りを入れるのは正解だよ。この人は恐らく統理殿下の学友に決定している。年も聞いてみれば統理殿下と同い年だし、幼年学校入学も同年だからね。
それはまあいいや。
彼とテーブルをご一緒したい旨を告げれば、ノアさんは「大歓迎です!」と早速テーブルへと案内してくれる。
そこにはノアさんと先に談笑していた令息がいたんだけど、彼にも見覚えがあって。
「あれ? 貴方は去年、歌劇団について熱く語ってくださった……?」
「お、覚えていてくださったんですか!?」
「ええ、はい。たしかコルネイユ男爵家のアルマンさん?」
「然様です、閣下! 嬉しいな……!」
いや、顔見るまで忘れてた。
去年の園遊会で劇団に対する萌え語りを披露してくれたんだけど、彼のお家の領地があまりに菊乃井と離れすぎていて……。
それにコルネイユ家ってどちらかと言えば親シュタウフェン公爵家派でな。コルネイユ家の本家の伯爵家がシュタウフェン公爵家の遠縁とかで、繋がりを持つことがあの時点で正解だとは思えなかったんだよね。
しかし、現在はそういうアラート的なものはない。ならコルネイユ家がシュタウフェン公爵家の影響から脱したか、彼個人がシュタウフェン公爵家と決別、ひいてはコルネイユ家と袂を分かってもいいと決意したか。
そんなことを本人に言う必要はないから、にこっと笑っておく。これで大体の人は、その人の良いように解釈してくれるのだ。
閑話休題。
ノアさんとアルマンさんが仲良しなのは、文学の友というところが大きいそうな。
一昨年のお茶会で話して意気投合したそうで、ノアさんが私の友人として空飛ぶ城に招かれた話を丁度本人から聞いていたんだって。
「私の家でも文学に熱を入れすぎるのは……と言われるんです。でも私、四男ですし。いずれ家を出ないといけないんだから、その辺は好きにさせてほしいと思っていて」
「そうなんですか」
「はい。今もノア様の話を聞いて、僕も腹を括ろうと決めたんです。僕は僕の道を生きるって」
ぐっと固めた握り拳を見るに、彼の決意は固そうだ。とはいえ文学で食べていくのは難しいんだよな。余程の才能がないと詰む。
どうするんだろうと聞いていたら、まずは何処かの官吏を目指すそうな。
社会経験を積むのも、他者と関わるのも文学というか「人」というものを書くには必要なことだとかで。
そんな話の最中にノアさんが私を見た。
「閣下、どうかアルマン君の作品も一度読んで」
「くださいませんか」と続けようとしたノアさんを、ハッとした顔でアルマンさんが制した。
「いけません。僕はノア様を僭越ではありますが一番の友人と考えています。貴方の好意は嬉しいですが、そうすることで僕がノア様を利用するために、友人であることを話したと謗られるのが我慢できない」
「閣下はそんなことを仰る方ではないよ!?」
「菊乃井侯爵閣下ではなく、一番に僕が自分を咎めます」
け、潔癖だー!
私も大概融通利かないけど、私の上がいた!
唖然としながらアルマンさんを見ていると、レグルスくんが面白そうな顔を私に向ける。そしてこそっと耳打ちしてきた。
「あにうえ、こういうひとすきでしょ?」
「まー、嫌えるタイプじゃないよねー……」
「うん。おれもわりとすき」
お日様はぽかぽかで、風も爽やか。
とりあえず機嫌よく過ごせそうな日なんだし、ちょっとくらい私が気まぐれを起こしても許されるだろう。
ひよこちゃんと目配せして、苦笑いする。
「貴方がノアさんとの友誼を利用したとは思いませんよ。それに私も評価ができるほど文学に造詣があるわけでもなし。でも菊乃井歌劇団では脚本の元になるような物語を募集中なんですよね。なので、そちらの持ち込みは歓迎しますよ。ノアさんの作品も、菊乃井歌劇団の公演演目の候補に入れてますし」
「オリジナルのミュージカルのげんさく? それがひつようなんです!」
私の言葉にレグルスくんが継ぎ足す。
するとノアさんとアルマンさんが目を見開いた。
「え!? ノア様の作品が!?」
「脚本!? 菊乃井歌劇団は脚本も募集しているんですか!?」
二人とも驚いているけれど、驚く事項が別物だ。
それに気が付いた二人がお互いの顔を見合わせて、手を取り合う。
「アルマン君、チャンスじゃないか!? 君は物語を書くのも好きだけど、お芝居の脚本が書きたいって言ってただろう!?」
「ノア様こそ! 菊乃井歌劇団のような劇団で、自分の作品を公演してもらいたいって!」
「おやおや」
「おー……」
なんか、この二人本当に仲いいんだな。
お互いの成功のカギになる物を知っていて、それが見つかりそうなことを自分のことのように喜んだり驚いたり。
そう言えばアルマンさんもノアさんと同い年だった気がする。
去年頭に放り込んだ彼のプロフィールを思い出す。これだけ潔癖な人であれば、学友にもいいのでは?
社会的階級の遥か上の私にも臆せず意見が言える度胸があるなら、肝の据わりはノアさんとどっこいどっこいな気もするし。
統理殿下の学友には、まずシオン殿下とゾフィー嬢に気圧されない度胸がいると思うんだよね。あとは学業の優秀さ。証明できるものがあるのであれば、それにこしたことはない。
問題はアルマンさんのご実家がシュタウフェン公爵家に寄り気味なことか。
色々考えつつ、キャッキャする二人に声をかける。
「脚本家に関してはかなり本気で探していますね。今は劇団の演出家が脚本も兼ねていますが、彼だけではあまりに負担がかかりすぎる。出来れば専属でほしい。文学の修行に関してはどうやればいいのかは私では解りかねますが、貴方の脚本を読んで演出家から意見を貰うことは可能かな」
「お願いしてもよろしいですか!?」
「はい。そうだな、一度ノアさんの作品を脚本に落とし込ませていただくのは? そうすれば二人で色々意見を出し合えるじゃないですか」
「おれもたくさんおはなしよめるようになるの? うれしいな!」
「僕の作品をアルマン君が脚本に!? 素敵です!」
きらきらと日差しと同じぐらい明るい話声に、周囲がこちらに注目しているのを何となく感じる。
興味があるなら入ってくればいい、別に拒みはしない。
そういう雰囲気でいると、場が少し騒めいた。
明るくなったというのだろうか、入り口付近を見れば女の子が一人。
その子の顔を見るなり、レグルスくんがさっと椅子から立ち上がった。
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活動報告にも色々書いておりますので、よろしければそちらもどうぞ。




