後に菊乃井ティーパーティー社交と呼ばれる……か、どうかは定かじゃない Un
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次回の更新は、7/28です。
歌劇団の公演は昼のマチネと夕方のソワレの二回公演の日と、マチネかソワレだけの日を作っている。
舞台ってやっぱり体力勝負だからね。連続で二回公演したら次は一回公演とかそんな感じに調節しないと、お嬢さん方の体力だって保たない。
そんなわけでマチネだけの日、昼公演といっても朝の十時頃から始まって昼には終わる。それで劇団員の皆さんに帝都観光や、武闘会の応援、休養などの自由な時間を過ごしてもらうのだ。
いうて彼女達も有名人だから完全自由じゃなく、護衛をつけて何組かに分かれて行動してもらうことになってる。
護衛は晴さんや彼女と仲良くなったらしいアギレラさんパーティー、他彼女達の友人の腕のたしかな女性冒険者達が務めてくれるのだ。バーバリアンじゃなく、カマラさんだけがその護衛に参加してたりするから、ファンサの側面がないわけでもない。
じゃあその間お城はどうするかっていうと、本日はお茶会なり。
朝から歌劇団の公演の裏側で城の厨房と広間は忙しかった。
帝都の屋敷の家令のジュリアン・スチュワード氏を筆頭に、ロッテンマイヤーさんの前の本邸のメイド長にして母の現在のメイド長であるメアリーさん、菊乃井からは宇都宮さんとオブライエン、料理長が入ってくれている。
お客さんの顔ぶれに関して伝えたとき、僅かに二人の顔が強張った。
けれどお忍び、友人の親御さんとして参加。参加者には平民もいるっていうので、それに関しては菊乃井の流儀でおもてなしする。それは変えない。
きちんとその辺の意向は前もってロッテンマイヤーさんと二人の間でやり取りしてくれたようだ。
因みに菊乃井家はそもそも平民がどうこう言う家ではなかったらしい。曾祖母が嫁いで来るまでは。
自領にダンジョンがある以上、冒険者と上手く付き合わなきゃいけない。なので身分にこだわってる場合でもなかった。けど伯爵家の家格に相応しいことをしようとして、ちょっと大きな家と婚姻したばっかりに……という。くだらないことだ。
閑話休題。
お茶会とはいっても、お菓子は自分達で作る。なのでその下準備としてケーキに使う材料を用意してもらって。
先生達が色んなところで買い付けてくれたバナナやマンゴー、イチゴやチョコレート、うちの家で貯蔵されている蜜柑にクルミに葡萄、蜂蜜。材料はお持ち帰りできるくらいたっぷり。
料理長やテディがフルーツを可愛く切ってくれたり、ホイップクリームを作る準備を。
うさおやうさこもメアリーさんやスチュワード氏や宇都宮さんと、テーブルクロスをかえたり花を飾ったり。
私的なお茶会だから派手にはしないけど、明るくそれでいて落ち着けるような飾りつけを。
城門までの道はそのまま馬車で来てもらって、玄関の前でうさことうさおにお客さんは出迎えられる。
開いた扉の中で私とスチュワード氏とメアリーさんがお出迎え。
うさおとうさこが玄関の扉を開けたようで、光が外から中へと入ってくる。
逆光になるんだけどうさおが「どこそこの誰誰様ご到着~」とやってくれるから、それは気にしなくても大丈夫。
シルエットでも解るしね。
貴婦人のシルエットが三つ、その中の一つはレグルスくんよりちょっと小さい感じ。
今日は私的なお茶会だから。
「いらっしゃい、なごちゃん! まってたんだ!」
「れーさま! おまねきいただいてありがとうございます! すごくたのしみにしていましたの!」
てててと二人が走り寄り、手に手をとってにこっと笑い合う。
その和やかな光景に目を細めつつ、私は和嬢と一緒にいらした艶子夫人とエマさんにご挨拶だ。
「いらっしゃいませ。本日はよくお越しくださいました」
「お招きありがとうございます。楽しみにしていたのは和だけじゃなく、私もエマさんもですよ」
「はい! わ、私も、お招きいただいて、ありがとうございます!」
穏やかな艶子夫人の横で、エマさんはガチガチ。
緊張している様子に、メアリーさんに目配せする。
彼女はそっとエマさんにすでに識さんとノエくん達が来ていることを告げた。エマさんは美奈子先生の助手として研究に携わっているから、大根先生の助手をやってる識さんやノエくんとも面識があって仲がいい。
ちょっとほっとしたのか、エマさんの肩から力が抜ける。
梅渓家の三人が来たので、残るはゾフィー嬢、乙女閣下と皇子殿下方、鷹司シシィさんにベルナール子爵家の嫡男ノアさんだけ。
メアリーさんが梅渓家のお三方を会場に案内しにいって少し経った頃、外から声が聞こえた。うさこの声だけど、若干面白がっているような笑っているような。
何だと思っていると、何処の家か告げる前に扉が開いた。
いたのは。
「やあ! 来たぞ!」
「お招きありがとう」
「本日はお招きありがとう存じます」
「おおおおおお、おま、おまねき、ありがとうございまひゅ!」
片方の肩を統理殿下にがっちり掴まれ、左腕をシオン殿下に組まれ、真ん中で顔を真っ青にしているベルナール子爵家のノアさん。その背後で愉快そうに笑っているゾフィー嬢と。
「……どういう状況で?」
「うん? ベルナール子爵家に迎えに行って、一緒に来た」
「折角デビューなんだから、派手な方がいいかと思って」
「皇子殿下方がご友人も一緒にと仰るものですから」
ノアさんの箔付けのために、皇子殿下方と公爵家のお迎え……。ご家族はさぞや肝が冷えたことだろう。
でもそうなると、鷹司シシィさんは?
出て来た疑問はすぐに解消された。
「あにうえ、ししおうけのばしゃ? みえてきたよ?」
レグルスくんの声に開いたままの扉の向こうを見れば、四頭引きの馬車の船形って言われる種類の車体の天井に、黄金の獅子のオブジェが見えた。
するっと玄関ポーチで止まって、うさおとうさこが魔術で開けた扉から、乙女閣下にエスコートされて貴婦人がしゃなりしゃなりと降りて来られる。
皇子殿下方に挟まれて顔を青くしていたノアさんが、ひゅっと息を吸い込んだ。
「皇妃、殿下……!」
あ、ご存じでらしたか。
ガチガチに固まったノアさんを一目見て、乙女閣下が状況に気が付いたのだろう。それはそれとして「お招きありがとう」とご挨拶。鷹司シシィさんもノアさんに興味をお持ちになったみたいだけれど、それはそれとしてご挨拶だ。
本当なら最敬礼を取らなきゃいけないんだけど、あくまで今日は私人としてのお立場。あまり大袈裟にせず「よくお越しくださいました」くらいで。
それからやっぱり気になったようで、目を輝かせてノアさんをご覧になっている。
「物語をお書きになるそうで、気になったのでご招待したベルナール子爵家の嫡男のノアさんです」
「まあ、ではこれからお友達になるかもしれないという?」
「はい。統理殿下とシオン殿下もそのご予定ですね」
「あらあらまあまあ。私、統理のことはあまり心配してはないの。ほら、朗らかでしょう? でもシオンは気難しいところがあるから……」
「あー、大丈夫じゃないですかね。ああ見えてノアさん、度胸ありますし」
初対面のとき、真っ青になりながら招待状を受け取っていた。けど、その目には野心の光があったんだ。アレを度胸と言わずしてどうする。
「それは素敵ね」
シシィさんの目が細められる。
皇子殿下方にとって有用な人材になるか、否か。母親としての心配以外にもきっと思うことはあるんだろう。
でも今はお茶会なのでぇ。
「今日はお菓子も一緒に作るんですが、ご経験は?」
「そうねぇ。姉から『貴方は食べる専門の方が才能を発揮できるわ』と、真剣に言われたことが……」
「あ、はい。承知しました」
まあ、公爵家のご令嬢からのお輿入れだもんな。
さて、お客様はこれで全員そろったな。
「あにうえ! きょうもたのしくなるといいね!」
隣を歩くレグルスくんの軽やかな足取りが、ウキウキした気分を表していた。
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