誕生は奇跡の積み重ね
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次回の更新は、6/16です。
「まあ、そりゃあ? 破壊の星も天与の大盾もエルフや人間どもにゃ必要かもしれんが、モンスターには必要ないからな」
HAHAHAと豪快にロスマリウス様がお笑いになる。
特訓はこれからも続けるんだけど、天与の大盾も破壊の星も伝授自体は速やかに終わった。
だって原理は解ってる。その姿も見た。魔力も足りてる。
魔術を独学で使えるレベルまで研鑽していたシェリーさんには、これで使えない道理はないんだよ。オマケに変若水で炊いたご飯もお鍋も、非時香菓のパウンドケーキまで食べたしね……。
同時にジェネリック破壊の星とジェネリック天与の大盾も教えたけど、寧ろこっちを隠し札にするための破壊の星と天与の大盾なわけ。
一回戦で当たる相手にワザとらしく両方使う機会があれば、次に当たる相手はそれを警戒してくるだろう。だって伝説クラスの魔術だもん。
そういう作戦会議的な話を、おいでくださったロスマリウス様や氷輪様、イゴール様としていたんだけど。
二つの魔術が遺失した理由をお尋ねしたら「お前の考えた通りだよ」って。そして今ここ。
結局のところ戦いが対モンスターよりも対人方向にシフトしていき、更に大掛かりな対人戦、つまり戦争で使いにくい魔術は遺失していった。そういうことだそうな。
因みに猫の舌の遺失に関しては、使い道をきちんと考えなかったから。シェリーさんのような魔術師の手にあれば、もっと違う使い方も出来るだろう。それこそ人命救助とかね。
真夜中の男子お茶会はちょっと定例会っぽくなってきている。
今回イシュト様が不参加なんだけど、ネタばれ防止のためだそうな。
帝都の記念祭で行われる武闘会に希望の配達人パーティーが出場するから、彼らの武器になる魔術や技の解説を聞かずにご覧になりたいんですって。
なんというか、徹底している。
それだけ希望の配達人パーティーに期待してくださってるってことかな?
遺失魔術に関してのアレソレは置いておいて、私がシェリーさんに教えたジェネリック破壊の星は系統としては破壊の星だけど、別物の魔術となるそうな。ジェネリック天与の大盾も同様で、天与の大盾とは別物扱い。
つまり私は新たな魔術を作ったことになるんだって。
でもそれを預けた相手が相手だから、これから進化していくかも知れない。
ロスマリウス様的にはそっちが凄く楽しみなんだそうな。
ぱりぱりとポムスフレを食べつつ仰る姿を見ていると、本当に娯楽を楽しんでいるって感じ。
帝都の記念祭の武闘会はこれで何とかいけるかな?
菊乃井歌劇団の方はユウリさんやエリックさんから、レビューの内容が上がってきている。
今年は年の初めから疫病だのなんだので大変だったから、より華やかな舞台にしたいそうだ。だから大羽根をと思ったそうなんだけど、こちらはやっぱり菊乃井の記念祭でお披露目する方がいいという話に。
アレは私と姫君様の夢のカタチみたいなものだから、その時まで取っておこうってユウリさんもヴィクトルさんも言ってくれた。
代りに凄い素材を手に入れなきゃって話が出てる。
それに関してはラナーさんにも協力してもらえるし、フォルティスも出動するしね。
夜の男子お茶会はそういう報告会も兼ねてるんだよね。
姫君様は武闘会系統のことには全く興味をお持ちでないそうだから、ロスマリウス様やイゴール様がお訪ねになっても「知らぬ」で終わりなんだって。
今年も帝都のお祭りも華やかになりそうだよね。
ほっこりしていると、ふっと氷輪様が私を見ていることに気が付いた。そして氷輪様も私が視線を向けたことにお気付きになる。
そこにイゴール様の声が。
「あー……僕から言っていい?」
何か言いにくそうな雰囲気のイゴール様の声音に、氷輪様が僅かに眉を寄せる。それは不快とかそういうのでなくて、困惑というかなんて言ったらいいか……っていう雰囲気で。
イゴール様と氷輪様の間で視線をウロチョロさせていると、ロスマリウス様も言い難そうな雰囲気で天を仰がれた。
気にはなる。でも【千里眼】に変なざわめきはない。
なんだろうと首を捻っていると、氷輪様とイゴール様の間で何かが決まったみたいで、イゴール様が「えぇっと」と唇を解かれた。
「ここのメイド長のことなんだけど」
「ロッテンマイヤーさんですか……?」
なんでイゴール様の口からロッテンマイヤーさんの話が出るんだろう。
胸がきゅっとする。もしかして、なにか病気とかそういう……!?
血の気が下がっていくのを自覚していると、イゴール様が慌てて首を横に振った。
「あ、違う違う! 危ないとかじゃなく、産着は男女両方を用意しておきなよって話でね!」
「!? ふ、双子なんですか!?」
「そう! そうなんだけど……!」
再びイゴール様が言い難そうに眉を八の字に下げる。
不安になるような表情の変化に、ひゅっと息を吸い込むと背中に仄かなぬくもりを感じた。氷輪様のお手が背中に回されていて。
『落ち着け。悪い話ではない』
「は、はい」
背中を優しく擦られて、詰めていた息を吐く。
するとそれまで天を仰いでいたロスマリウス様が苦く笑った。
「お前にとって悪い話じゃなくて、こっちのバツが悪いって話だな。とくに氷輪とイゴールが」
「え……?」
思いがけない言葉に氷輪様を振り返る。氷輪様は物凄く複雑そうな表情をしておられた。
結構珍しいお顔だけど、いつものようにお美しいので目の保養。
本日の南蛮胴に裏地が緋色の黒マントっていうどこぞの戦国武将っぽいお姿と相まって、何事だろうと余計に緊張してしまう。
固まった私に、氷輪様がそっと息を吐いた。
『お前の守り役の赤子だが、身体に宿っていてさえいても魂がかなり不安定でな』
「は、はぁ」
『魂が身体に定着しなければ、その赤子は流れてしまう』
「そ、れは……!?」
『だが、危機は脱した。お前と守り役が話し合った日から、きちんと魂が赤子に定着した』
よ、良かったぁぁぁぁぁぁ!
氷輪様が仰るには、定着する前の赤さんの魂はお母さんの周りを飛んでいることがあるらしい。今回はロッテンマイヤーさんの不安を感じ取った赤さんの魂が、その不安に共鳴して上手く出来つつある身体に入れなくなってしまっていたそうな。
私が掴めない不安と違和感を覚えたのは、おぼろげな双子の赤さん達の不安を感じ取っていたからなんだって。
ターニングポイントになったのは、私とロッテンマイヤーさんの話し合い。あれでロッテンマイヤーさんの心が安定したから、赤さん達も安定して身体に定着できたとか。
それでなんで氷輪様とイゴール様がバツが悪いかっていうと、ロッテンマイヤーさんというか赤さん達の様子がおかしいのを知っていながら、私に何も言わなかったから。
「役目上、そういうことはいくら親しくても言ってはいけないんだ。ごめんよ」
『すまぬ』
「いやいやいやいや、そんな! そんなの一人に教えたら、皆に教えなくちゃいけなくなりますし!」
今だって大分お助けいただいているのに、これ以上なんてそんな厚かましいことは言えない。
ロッテンマイヤーさんとのことは、私も自分の感情に目を逸らしてた部分はあるし。それに魂の定着が凄く不安定でも、あの日まで何とかなったっていうのはやっぱり神様方からいただいたお水や蜜柑のお蔭なんじゃ?
それをお尋ねすれば、イゴール様が苦笑いしつつ頷いてくださる。
「まぁね。でもあれは時間稼ぎは出来ても、根本的な解決は出来ないものだから」
『お前が惜しげもなくそういうものであっても分け与えることは、もうこちらとて解っている。それであっても大成するか否かは、その者次第。お前が気にすることではない。気にかかるなら、一言「研鑽に勤めよ」とでも言ってやれ』
あ、これ昼間の話のお返事でもあるんだな……。
ワサワサとイゴール様と氷輪様に頭を撫でられる。
ロスマリウス様がにやっと口角を上げられて。
「でもお前、気を付けろよ? 蜜柑にしても桃にしても一度に丸一個食わなきゃ、強化が完結したことにはならんのだ。このまま桃も蜜柑も分け合ってりゃ、効果を延々と伸ばしていけるだろうから、絶対にいっぺんに丸一個食うなよ?」
「え?」
きょとんと瞬けば、ロスマリウス様はお腹を抱えて笑いだされた。
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活動報告にも色々書いておりますので、よろしければそちらもどうぞ。




