問題解決の糸はどこに繋がるのか
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次回の更新は、7/12です。
神は不死。
その身は不滅にして不老。
だけど神でなくなることはある。
それこそが神としての死。
『信仰心が一定を下回ったり、神威を使い果たしたり。そういう状況が神から神たる資格を奪う。資格を喪った神は魔獣や霊獣、神獣、大精霊などと呼ばれる存在になるのだ。これを我らは堕ちるとし、神としては死んだものとみなす』
氷輪様の静かな声が沁みる。
心臓が耳の横に移動したみたいにどくどくと大きな音で脈打っていて、妙な汗がぶわっと噴き出して来た。
『エルフの大事にしている世界樹にはかつて神が宿っていた。深山と里山の境界と守護を担っていたものだ』
人間やエルフ、ドワーフ、獣人達。
そういった種族が築いた里山と動物やモンスターたちの過ごす深山の境界を定め、どちらも平和に過ごせるように監督する守護者であるその神様は、他の種族の前に作られたエルフを殊の外可愛がっていたらしい。
エルフもその神様を慕い、世界樹をとても大事に守っていた。
最初はエルフも別に偉そうって訳じゃなく、一番最初に生まれた種族として他の種族の面倒もみてあげてたんだって。
だけどそれが驕りを生んで、次第に自分達こそが万物の霊長という態度で他の種族を虐げ始めた。
勿論、世界樹の神様はそんなエルフの姿を諫めた。その言葉に素直に従ったエルフもいたし、従わぬエルフも世界樹の神様に対しては一定の敬意を払ってたそうな。
でもあんまりエルフが横暴になっていくもんだから、次第に世界樹の神様はバランスをとるために他の種族に守護の力を多く回すことが増えた。
それがエルフ達の不満に……優れた自分達でなく、自分達の劣化版のようなその他種族を贔屓していると言い始めたらしい。
エルフの信仰心の低下、エルフを贔屓してきた世界樹の神様への他種族の怒りと憎しみが、里山と深山の境界を守るために大きな力を使っている神様を、使っている力以上に消耗させていた。このままでは世界樹の神様が堕ちてしまう。
そう考えた祖神様はエルフに警告を発したそうな。
『悔い改めよ。でなくば神罰をくだす』
世界樹の神様を通じて下された予言を、けれど信じたのはナジェズダさんやソーニャさん、ロマノフ先生の御先祖で人間を愛した一握り。
その他のエルフは何だかんだ世界樹の神様は自分達を愛してくれてるから、神罰なぞ下るはずもないと考えて行動を改めなかった。
そうしてあるとき、愚かなエルフの権力者が人間の里を焼き払った。
子どもが生きたまま焼かれる姿に、世界樹の神様の心が完全に折れてしまったそうな。そして神様は堕ちて、つまり神様としては死んでしまった。
世界樹の神様の断末魔の悲鳴を聞いた先生達の御先祖達は、何とか世界樹の神様の完全消滅だけは防ごうとして、その命と魔力の全てを捧げたそうな。それで世界樹の精霊さんとして、神様の欠片が残ったんだって。
そういった経緯があって罰が下された。
『本来は絶滅が妥当ではあったろう。しかしお前の教師達の先祖が命を捧げて、彼の神だったものの消滅を防いだのもたしか。切っ掛けを作った者はその場で魂も残らぬよう滅された。残った者に関しては償いの余地を残した。そんなところだろう。裁いたのは祖神ゆえ真意は解らん。お前の教師連中の直接の先祖は、世界樹に命を捧げた始祖の子達だが、これには世界樹の神の加護が与えられていた。お蔭で呪いがかなり弱くなっていて、始祖と変わらぬ力を保てている』
「なんと、まぁ……」
それ以上の言葉が出てこない。
エルフってさ。
私は先生方やソーニャさんや大根先生とのお付き合いで、聡明で穏やかで優しくて強くてお茶目とか、そういうイメージを抱いてる。
菊乃井に住んでる者は恐らく大体がそんな感じじゃないかな?
それなのに、そのエルフが人間と変わらないような愚かなことをして、遂には神罰を下されてにっちもさっちもいかなくなっている、なんて……。
いや、こういうの良くない。
そういう種族だから~で片付けるのは思考停止だ。
何故そうなってしまったのか。
それを考えることが、後の時代において同じような愚行を繰り返させないための方針になる。
今のエルフだけでなくドラゴニュートの凋落は、人類、いや、他種族の後の姿ではなんて言いきれないんだから。
煩いほどに鳴る心臓を落ち着けるために、深く息を呼吸を繰り返す。
その私を氷輪様がゆったりと見守ってくれていた。温かな目で。
「……償う方法はあるんですよね?」
『ある。とはいえ、その方法が何であるか解ったとしても、エルフがまだ驕慢であれば滅びる。同じことを繰り返すだけであろうからな』
「それはそうですよね」
当然のことに頷く。
同じことを繰り返せば、今度は有無を言わせず滅亡待ったなしだわな。
とりあえず意識改革は必須。
必須だけど、そもそも人間側ってそこまでエルフに悪感情ないと思うんだけどな。
悪感情って直接関わって嫌なことがあったときに持つものと、知らないことにネガティブな感情が結びついて出てくるものの二種類あって、今の人間が持つとすれば、知らないことからくるほうじゃないだろうか。
痛くなってきた眉間をぐりぐりと指圧する。
問題の規模が大きすぎるんだよ。
ちょっと前まで菊乃井のことでさえ大きな問題だったのに、世界の均衡とか理のほうまで大きくなるとかついて行けない。
でも実例がある以上検証はしておかないと、後々に何かある気がして仕方ないんだよね。これも【千里眼】のせいなのか、単純に私が心配性なせいなのか。ちょっと判断が付かないな。
「あ゛~~~!!」と奇声を発しながら頭を掻きむしると、氷輪様が手を伸ばして背中を撫でてくれる。
『落ち着け。お前が一人でどうこうできることではない。むしろ放置でよい。それにお前以外にもなんとかしようとしている者がいる』
「え? でも、エルフって償い方が解ってないって……」
こてんと首を傾げると、氷輪様がゆったりと首を横に振る。
『エルフではない。世界樹本人だ。自分で何とかしようとしている』
「え!? 残った精霊さんですか!?」
『ああ。本体が動き始めた』
「……それ、愛想尽かされたとかじゃないですよね?」
もうエルフがあまりに動かないから愛想尽かしてお引っ越しなさったとか、そんな?
背中が寒くなるような想像に、さあっと血の気が引くのを感じる。
でも氷輪様が「そうではない」と仰った。
『一度消滅しかけたゆえ、生きていることに執着はないようだ。だから自分をこの世に留めたエルフの子孫達が大人しく滅びる選択をしたのであれば、ともに滅びる気でいたらしい。だが最近少し様子がな……』
「何か変わるようなことがあったんですか?」
『うむ。我は本人からでなく伝聞で知ったことだが、もう少し生きていようかと思うことがあったらしい。そしてそのためにやっていることが、もしかすれば自分やエルフの助けになるかもしれぬと感じたらしい。それで引っ越した』
「えー……」
なるほど、エルフの里から世界樹がお引っ越ししたのってそういう理由があったのか。
なら世界樹の精霊さんは何処に行ったんだろうな?
それが解れば世界樹の精霊さんが見つけた、世界樹の精霊さんとエルフをどうにかする方法に協力できるかもしれない。
何処にお出かけしたか聞いちゃダメだろうか?
そう思って氷輪様を見上げると、ついっと視線を逸らされて何処か遠くをご覧になった。
ということは、これは聞いちゃいけないやつだな。
そう判断して、裁縫道具を開ける。
この話は終わりにしないと、これ以上はご迷惑になりそうだ。
『……お前は実のところ解決法の一番近くにいる』
「へ!?」
『我に言えるのはここまでだ』
「……ッ、ありがとうございます!」
えらいこと教えてもらっちゃったぞ。
それこそ有識者に相談だ!
お読みいただいてありがとうございました。
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活動報告にも色々書いておりますので、よろしければそちらもどうぞ。




