黄金の自由Ⅰ
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ちょっとだけ室内の温度が下がったような気はしたけど、気のせいだ。
控えめなノックの後で書斎の扉が開き、ロッテンマイヤーさんがルイさんを伴いやって来た。
「朝からお呼びだてして申し訳ないですね」
「いえ、菊乃井の大事ですから」
「ありがとう」
空いているソファーにかけてもらうと、退出しようとしたロッテンマイヤーさんも呼び止めて座ってもらう。
彼女は私の秘書のようなものだし、領地に関しては私より知っているから話に加わって貰う方がいい。
「今、軍権を欲する理由を話していたところです」
「では、遂に動かれるのですね」
「はい。そこでかねてより考えていましたが、軍を再編します。その上で最高指揮官は領主としても、軍の指揮権はルイさんに任せたいのです」
私がルイさんに視線を移すと、ざっと室内の目がルイさんへと移動する。
見られた当の本人は、軽く目を見開いて頭を振った。
「我が君、お言葉ですが私は軍人の経験はなく……」
「だからこそです。現場は兎も角、最高権限は最終的には領主が持ちますが、平時は職業軍人でない文官に任せたい。代わりに現場には専門家の教官ないし現場指揮官を置き、軍事や救助活動の専門家を育成しつつ軍務に奨励して貰い、一切の事務的な事柄はその指揮官である文官が受け持つと言う感じで」
「今が平和だからこそ、育成に全力を注いで貰う代わりに、処々の書類仕事の煩雑さを現場に押し付けない……と言うことですか」
「今の菊乃井の軍隊は民兵に毛の生えたような感じですから、大発生が起きても恐らく対処できない。この機会に軍規を引き締めて、有事に備えたいのです。今は幸いにして先生方とエストレージャ、それからバーバリアンもいてくれます。だからっていつまでも頼ってばかりはいられない。まずは自分の足で立つこと。軍規の引き締めと再編はその一歩です」
「なるほど」とルイさんが頷いたのと同じく、周りも頷く。
誰かに頼るのは恥ではないけど、依存は良くない。
それは一個人であろうと、領主であろうと同じこと。
それに他にもしたいことがある。
「私は将来的に菊乃井を『君臨すれども統治せず』の政治体制に持っていきたいのです」
「君臨すれども、統治せず……?」
「そう、領主として君臨はするし最終的な決断にはその責任を負う。しかし、最終的な決断までは領民の代表を領民自身が選び、選ばれた代表は議会での協議を経て、領民のためになる政治選択をしてもらうんです。領民の、領民による、領民のための政治を」
なんか、何処かの国の政治家の演説っぽくなっちゃったな。
この「君臨すれども統治せず」と言うのは、イギリスや昔のドイツだかの政治体制を言うのによく使われるけれど、実際はポーランド・リトアニア共和国のヤン・ザモイスキと言うひとの言葉だそうで。
極めて特異な貴族による民主主義、共和国体制──黄金の自由と呼ばれる政治体制下で出てきたという。前世の俺の知識より。
まあ、正直に言うと難しすぎて理解が追い付かない。
でも、私は領民に政治に参加して、自らでより良い未来を選択して貰いたいのだ。
識字率を上げて色々学べば、自ずと政治への興味が出てくるだろう。
そうすれば領主の仕事を少し肩代わりしてもらっても構わない筈だ。
領主だって人間、肩代わりして貰って出来た時間でちょっとくらい遊んでも構わないだろう。
前世の政治形態の話は抜きにして、そう話すとウパトラさんが小首を傾げた。
「そのために、議会制に持っていきたい……ってこと?」
「その他にも、領主が何かするときも議会の承認がいるようになれば、罷り間違って私がお隣の男爵みたいに人を人とも思わないような扱いをする法律をつくろうとしても、議会が阻んでくれます」
「……君は大丈夫だろう」
「解りませんよ、そんなの。人間だもの、間違うこともあるかもしれない」
カマラさんの言葉に、私は緩く首を否定系に動かす。
私は私を信用していない。
だからストッパーを幾重にも置く。
いや、私だけじゃなく人間は全て間違う生き物だから、ストッパーは確実に必要だ。
と、困惑した顔でルイさんが手を挙げる。
視線で問えば、震えながら唇を開いた。
「我が君、それは……それでは領主といえど議会の決めたことには従うということでしょうか……?」
「議会というか、定めた法律に従う……ということになりますかね。私はね、たとえ王といえど従わねばならぬ普遍の法が世の中には存在すると思うのです」
「王といえど従わねばならぬ普遍の法……ですか?」
「はい。簡単なところで言えば、無意味に命を奪ってはいけないとか、そういう。そんな当たり前に守らなければならない法を明文化して、領主もそれを守らなければならないものとする。ようは領主の権力をある程度法によって制限するんです」
君主を頂く政治形態は、頂く君主のひととなりに左右されて良くも悪くもなる。
しかし、君主でさえ法を守るならば、そのひととなりで権力の方向が左右されることはない。
君主の独断的な政治を人の支配と呼ぶならば、君主でさえ従わねばならぬ法があるのを法の支配と呼ぶ。
そして法の支配下での王の統治を、前の世の中では立憲君主制と呼んだ……筈だ。
この辺が危ういのは、前世の勉強不足と今世の理解力不足のせいだろう。
ちゃんと法律の勉強とか頑張ろ。
辿々しくはあったろうけど、なんとか「人の支配」と「法の支配」の概念を説明すると、ルイさんが唸った。
「我が君……我が君は何故そのようなことを思い付かれるのです?」
「思い付いた訳では……」
ないんだよねぇ。
単にちょっと破片として知識があるだけで。
言い淀むと、ロッテンマイヤーさんが助け船を出すように、口を開く。
「大奥様……若様のおばあ様の日記にそのようなことが書いてあったかと……。若様も同じ志をお持ちになったのですね?」
「え、ええ、そうです。祖母が纏めたのを、私なりに解釈したと言うか」
祖母は日記のなかで、権力は怖いものだから縛らなければいけない、人間には誰でも守らなければいけない法律があるというような主旨の文章を度々残していた。
ロッテンマイヤーさんが言ってるのは多分それのことだろう。
てか、祖母は一体どんなひとだったのか。
日記の文字は綺麗で読みやすいんだけど、書いてあることほとんどが領地経営や自身の思想──これが曲者で、貴族の選ばれた血筋の人間が正しくひとびとを導くっていうのよりは、私の中にある前世の価値観に近く、ひとは生まれながらに自由に生きる権利があるとか、国はそれを保証しなきゃいけないうんたらかんたらっていうのが根付いているというか──を、びっしり細かく。
合間に帝国の歴史について、自分のことなんてほぼ書いてない。家族なんて更々。
本当に謎なひとだ。
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