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白豚貴族だったどうしようもない私に前世の記憶が生えた件 (書籍:白豚貴族ですが前世の記憶が生えたのでひよこな弟育てます)  作者: やしろ


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三人三色

評価、ブックマーク、誤字報告ありがとう御座います(^人^)

更新は毎週月曜日と金曜日を予定しております。

 三英雄が後見についていると言うのは、そりゃあもう頼もしいことには違いないけれど、彼らの知る社会と貴族社会は趣を異にするから、それを知る人を味方にした方が良い。

 これは宮廷音楽家の筆頭として、少しは人間の貴族社会を見聞きして知っているヴィクトルさんの発案だそうで。


 「私もね、モンスターなら何とでもできますけど、人間の貴族相手となるとちょっと難しい。何せ人間とエルフでは価値観が違いますし」

 「僕らはそれを埋めるために人間と交流を持ったりするのが楽しいんだけど、大半のエルフはそれをしない。面倒だし……なんだろうな、エルフは全体的に人間をよく知りもしないのに見下してるって言うか?」

 「それを言うなら人間もだよ。エルフを森に住まう世捨て人で、偏屈老人の集まりだと思ってる。だから老人には適当に敬意を払うけど、偏屈さには辟易って感じが透けて見える」


 異文化交流の難しさだよね。

 だからいまだに自分達が理解できない人間の、それも貴族社会やらを知るために、それに詳しくこちらの足元を見てこない隣人の存在が、私には必要だ……と。

 いつだかの皇帝陛下の家庭教師を務めたロマノフ先生をして、人間の貴族社会ってのは難しいというのだから、どれだけ闇が深いんだ。

 本当に権力って怖い。

 眉間にシワが寄ってるのが、玄関ホールに置かれた鏡に映る。

 と、二階の廊下の欄干の隙間から、レグルスくんがこちらを覗いているのが見えた。


 「にぃに!」

 「はい、今日も一人で着替えられた?」

 「できたよー!」

 「えらいねぇ」


 本当は一人で着替えられなくたって、身分的には構わないんだけど、我が家の教育方針は「自分で出来ることは自分でしましょう」だ。

 とは言ってもまだ四歳になったばかりのレグルスくんだから、完璧に着替えられる筈もなく、ちゃんと宇都宮さんが仕上げをしてくれてるんだけど。

 その証拠に、レグルスくんの後ろから宇都宮さんがひょっこり顔を出した。


 「レグルス様、ひよこちゃんポーチをお忘れですよー?」

 「あ! うちゅのみや、ありがとう」

 「はい、どういたしまして」


 ポーチを受けとると、宇都宮さんと手をつないで階段を降りる。

 それを見ながらラーラさんが腕を組んだ。


 「まんまるちゃんは、使用人にお礼を言わせるんだね」

 「何かしてもらったらお礼を言うのは人間関係の基本ですから」

 「雇い主なんだから言わなくて当然のお家、結構多いけどね」

 「そこはそこ、うちはうち。ロッテンマイヤーさんにお願いして、お礼を言われたら『どういたしまして』って言うようにしてもらってるんです」


 仕事だからお礼を言わなくて良いというのは一つの考え方で人の有り様、それを否定する気はないけど、何かしてもらって「ありがたい」と思えばその心のままにお礼を伝えるのだってまた違う人の有り様だ。

 人間は沢山いるんだから、考え方は沢山で良い。

 ロッテンマイヤーさんも最初は「お礼を言われるのは素敵なことですが、『どういたしまして』は違うような」って渋ってたけど、それと「ありがとう」はセットだと説明したら、そういう教育方針なんだって納得してくれたし。


 「まあ、多数派ではないよって覚えておいてもらえばいいかな。お礼を言うのも素敵なことだし、返礼も素敵なことだもんね」

 「はい」


 そう多数派ではない。

 つまり、貴族社会とやらにおいては異端視される可能性もあって、血筋至上主義的な連中にはそれだけで槍玉に上げられることも考えられるってことだ。

 そういう根本的に合わない人たちとはお付き合いしないに越したことないんだけど、それがどこに潜んでるかなんてそれこそ伝手がないと解んない話なんだよ。

 そう言う意味でも公爵の存在はとても大事な訳で。

 冬の大事件が、初夏には好機の先触れに変わるなんて、誰が予想出来ただろう。

 まさしくバタフライ・エフェクトだ。


 「まさかねぇ、あの三人を助けた時にはこうなるなんて全く思わなかったものですが」

 「まあ、ね」


 私と同じ感慨を抱いたのか、先生たちの会話が聞こえる。

 あの三人にとっても、この流れは幸運だったのだろうか。

 それは三人にしか分からないけど、少なくとも初めて会った時よりは顔つきが穏やかになってるように思うのが、私の欲目じゃなきゃいいな。

 で、その三人組の冒険者・エストレージャですが、本日優勝決定戦ですよ。

 そりゃ本戦に八組しか出なくて、二回勝ったら後は優勝決定戦だわ。

 なので菊乃井応援団再び!


 「今日はあーたんとれーたんとかなたん連れてコロッセオに行ったら、ラ・ピュセルちゃんたちとマリア嬢と合流……だったよね」

 「ああ、もうお嬢さん方はエストレージャの控え室に護衛込みで入って貰ってるよ」

 「では転移はコロッセオの控え室にしましょうか」

 「いや、コロッセオの控え室に続く廊下で。勝ち残ったから控え室がかなり大きな場所に変わったんだ」

 「ふぅん、了解」


 ヴィクトルさんはあんまりコロッセオの内部を知らないらしい。

 何か性に合わないって理由で、コロッセオで行われる武闘会にはロマノフ先生とラーラさんと組んで二回くらい出ただけで、後は断ってるそうだ。

 逆にラーラさんはギルドマスターをやってた関係で、デモンストレーションの一種で何度も出ているとか。

 このエルフの三人の関係もまた独特で、ロマノフ先生は芸術にとんと疎く、ヴィクトルさんは魔術師だしそれなりに戦えるけど個人的な戦闘能力に価値を見いださない。その中間ラインがラーラさんだけど、ラーラさんはそもそも独自の美学に従って生きてる。

 合うとこは合わせるけど、合わないものには不干渉だし押し付けないのが、長く付き合いを続けるコツなんだそうだ。

 ぼんやりとそんなことを考えていると、レグルスくんが宇都宮さんの手を離し、こちらに歩いてくる。幼児って頭が重いから割りと歩き方が不安定なんだけど、レグルスくんは剣術を習ってるせいかかなり確りとした足取り。

 同時に開いた玄関から、明るい光と爽やかな風と一緒に奏くんが「おじゃまします!」と元気よく入ってきた。


 「これで全員揃いましたね」

 「はい!」

 「じゃ、菊乃井応援団出発!」


 ロマノフ先生の差し出した手に私が掴まって、反対側にレグルスくん、レグルスくんはヴィクトルさんと手をつないで、奏くんをラーラさんと挟んで。

 ぶぉんっと足元から光が湧いて、一瞬の浮遊感。

 次に足が地面に着いた時には、もうコロッセオの石畳の上にいた。

お読み頂いてありがとう御座いました(^人^)

評価、感想、レビュー、ファンアートなどなど、頂けましたら幸いです!

活動報告にも色々書いておりますので、よろしければそちらもどうぞ( ^-^)_旦~

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― 新着の感想 ―
目上の人に「どういたしまして」は確かに抵抗ある。 お役に立ててなによりです、とかならまだ言いやすいけれど。 菊乃井家に勤めてたら、自分矯正が大変そうです
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