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JK無双 終わる世界の救い方   作者: 蒼蟲夕也
フェイズ2「デスゲームはじめました」
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その69 正しい生き方

 私(男)と彩葉ちゃんが向かったのは、“所沢航空記念公園”の北東、――“壱本芸大学”と呼ばれる芸術系の大学の分校でした。

 まあ、正確には大学の分校”だったところ”と言うべきでしょうが。


 道中、何事もなく住宅街を歩いていると、ふいに声をかけられます。


「君たち……君たち!」


 どこか、探るような口調。

 見上げると、とある一軒家の二階から、初老の男性が見えます。


「あ、どうもー」


 通学中、社交的な人に話しかけられた時の気分で応えると、


「逃げるんだ。ここにいちゃいけない!」


 その声は、どこか切羽詰っているようでした。


 ……ふむ。


 そこで私は、おじさんの顔に注視します。

 おじさんは、その輪郭に沿う形で、黄色く発光しているように見えました。


――状態:警戒


 なるほど。


 たったいま私が装着しているアイテムは、”臆病者のメガネ”と言います。

 いつだったか、”ゾンビ”に噛まれた際に得た”実績”の報酬ですね。

 効果は、


――“臆病者のめがね”は、装着することで自分に対する他者の感情を読み取ることが可能になります。※レンズに視力矯正機能はありません。


 これ。

 ちなみに、視力はコンタクトレンズで矯正しています。

 これまで、リュックの奥に突っ込んだまま放置していましたが、外見が別人に変わった今こそ、活用すべき時かと思いまして。

 しかしこれ、相手の感情が読み取れるのはいいですけど、普通に視界が悪くなりますね。

 やはり微妙アイテムでしたかー。


 まあ、せっかくなんで、しばらくかけときます。


 とりあえず、呼ばれたまま放置しとくのもアレなんで、おじさんの話を聞きましょうか。

 軽く跳ねて塀を足場にし、おじさんのいる一軒家二階の手すりに掴まって、ひょいっと窓から顔を覗かせると、


「う、うわっ」


 仰天したおじさんが、腰を抜かしました。


「あ。ごめんなさい、驚かせちゃいました?」

「あ、ああ……いや、大丈夫だ。すごいな、君は。体操でもやっていたのか?」

「中国雑技団出身です」


 気まぐれに、まったく意味のない嘘をついてみたり。

 まあ、これから大嘘を吐きに出向くわけですから、その練習です。


「そ、そうか……。まあ、こんな世の中で生き残れるのは、サーカス出身の人くらいだと思ってたよ。あ、いや、それはいい」


 ごま塩頭の男性は、気を取り直して、私たちに言います。


「君たち、ここから先は危険だ」

「危険?」

「頭のおかしくなった連中が住み着いてる」

「ほう」


 ”悪党”だとか、”人さらい”だとか、”ケダモノ”だとか。

 この先にいる人たちのいい噂って、ぜんぜん聞きませんね。

 逆に興味が湧いてきます。


「わかるだろ? 死者が起き上がり初めてから、しばらく経つ。なのに、一向に救助がくる気配がない。……みんなもう、まともじゃいられなくなってきとる」

「それで? どう”まともじゃない”んです?」

「一つ。連中は武装してる。二つ。連中は、女を食い物にする。……わかるか? 君の可愛らしい妹さんのことだよ」


 おじさんは、道端で退屈そうにおにぎりをムシャっている彩葉ちゃんに目配せします。


 っていうか、妹って。

 特に似てないはずですけど。


 まあ、それはともかく、


「連中の、具体的な人数は?」


 おじさんに声をかけたのは、何か有用な情報を得られないかと思ったからでした。


「わからん。……が、喧嘩っ早そうなのが四、五十人ほどいたように思う。もっといるかもしれん。連中のボスがやたらずる賢くて、そいつがとんでもない女好きらしい」

「でも……いろは……いや、妹は、まだ子供ですよ。色気もくそもない」


 なんとなく話題に上がっていることを察したのか、彩葉ちゃんが、「わーい」と、嬉しそうに手をぶんぶん振っています。


「関係ないさ。ここから少し行ったところにいる吉田さんなんかは、まだ小学生の娘を取られたと。気の毒に」

「ほへー」

「”安全料”だそうだ。連中、この辺の”ゾンビ”を殺してくれるからな。……だが、それだって、半分は自分たちのためだろ」


 男性の、吐き捨てるような言葉。

 そこで、おじさんの部屋の扉が、ゆっくりと開きました。


「おじーちゃん……?」


 小さな男の子です。


「うちのは、男で良かった。……まったく、なんでこんな世の中になっちまったんだか」


 男の子は、てってって、と、おじさんのところまで歩いて、その脚に掴まりました。


「おお、よしよし……」


 私は腕を組んで、二人に言います。


「……まあ、もうしばらくの辛抱ですよ」

「そうかい?」


 その言葉が気休めだとわかっているように、おじさんは呟きました。


「生きていれば、きっと良いこともあります。……そう、吉田さんにもお伝え下さい。では」


 そして私は、颯爽とその家に背を向けます。


「お、おい……」


 私達が向かおうとしている方角を見て、おじさんが声を上げました。

 それには応えず、私たちは先を急ぎます。



「ねーちゃん、そろそろ手を縛ったほうがいいんじゃないか?」

「その件ですけど。……この状況で手を縛って連れ歩くというのも少しリアリティがない気がするので、あなたは騙されて私に着いてきた設定にしませんか」

「騙されて?」

「はい。要するに、バカのふりしてて下さいってことです」

「そっかー。バカのふりかー。……ちょっとむずかしいなー」

「ありのままのあなたでいいのですよ」

「な、なぬーっ」


 そんなことを話していると、


「おい!」


 という声。

 さっそくおいでなすったかと思っていると、どうやら声をかけられたのは私達ではなかった様子。


「おい! おら! 来い! ちくしょう。くそっ」


 見ると、一人の男性が、“ゾンビ”に向かって叫んでいるところでした。


「ほら急げ、やられちまうぞ、はっはっは!」

「やーれ! やーれ!」

「おいおいおいおい、これ、はやくなんとかしないと、まずいんじゃないのぉ!?」


 数人の囃し立てる声。

 そっと物陰に隠れて様子を伺うと、二十~四十歳くらいの六人の男の人が、一匹の”ゾンビ”を取り囲んでいるのが見えます。


「ひいっ、ひいっ!」


 ”ゾンビ”と対峙しているのは、六人の中の一人でした。歳は、二十代前半、といった具合でしょうか。髪を茶色に染めた彼は、どうみてもへっぴり腰で、手にバールを持っていました。


「がんばれがんばれ! 噛まれちまうぞ!」


 どうやら、意図的に一対一の状況を作り出されているようで。どういう儀式かわかりませんが、茶髪の彼の分が悪いように思えます。

 遂に、”ゾンビ”が茶髪の彼に覆いかぶさりました。


「ひえっ!」

「おおおおおおおっと、佐嘉田(さかた)くんピ~ンチ! このまま“奴ら”の仲間入りしてしまうのかぁ!」


 必死に藻掻く、佐嘉田くんとやら。


「ねーちゃん!」


 彩葉ちゃんが、険しい声を上げます。


「お任せあれ」


 もちろん、私は駆け出していました。

 十数メートルの距離を一気に駆けて、”ゾンビ”の頭部をはねます。


「うおおお! なんだなんだ!」


 佐嘉田くんを含む全員が、驚きの声を上げました。

 同時に、全員の”状態”が、敵意を示す赤色に。

 どうやこの”臆病者のメガネ“、赤>黄>青という色分けで、相手のおおよその精神状態がわかる感じのようですね。

 まあ、この人らが怒ってることなんて、メガネの力を借りずとも、一目瞭然ですけど。


 彼らのうち何人かは、私に銃を突きつけていました。

 向けられた銃のうちいくつかは、本物のサブマシンガンのようです。

 流石に、少し怖いですね。


「ナニモンだ、お前!」


 あ、……これひょっとして、やらかした?

 少しだけ迷った後に、呟きます。


「ええと。……イジメ、カッコ悪い」


 数秒の、間。

 その後、周囲の人々が、一斉に大笑いします。

 状態も、赤→黄から、緑がかった青色に戻っていきました。


「……………?」


 よくわかりませんが、とりあえず、倒れた佐嘉田くんとやらに手を差し伸べます。


「くそっ!」


 彼は、私の手を払って自力で立ち上がりました。

 その時、笑っていた人たちの中から、代表格と思しき男の人が前に出ます。


「ちょっとした勘違いがあるみたいだな」

「?」

「これは試験なのさ。俺達の仲間入りをするためのな」

「試験……?」

「あんたが今、息を吸うみたいにしたことだよ。”奴ら”を殺すのが、合格の条件だ」

「では……」

「ああ。こいつは不合格だな」


 すると、佐嘉田さんは、跳ねるように飛び上がりました。


「ちょ、ちょっとまってくれよ! 俺も仲間に入れてくれ! いいだろ?」

「あー……どうしたもんかな。……それより、いい案がある気がするんだが」


 みんなの視線が、私に集まります。


「お前、まだガキに見えるが、なかなかやるじゃないか。何かやってたのか? その刀は?」

「祖父の趣味です。使い方は我流ですが」

「とてもそうは見えんな」


 その男性は、興味深そうに、血で濡れた私の刀を見ました。


「お前、見込みがある。俺達の仲間になるのはどうだ? 狩りの仕事をするやつを探してるんだ」


 ……っふ。

 すべて、計画通り(震え声)。


「元々そのつもりでした」

「そうか! なら、細かい説明は省いてもよさそうだな」

「ええ。……手土産もあります。……おーい! 来なさい!」


 彩葉ちゃんが隠れている方向に声をかけると、


「ほえ~い……」


 との返事。


「あいつは?」

「女の子を集めていると聞きましたので」

「……関係は?」

「適当に声をかけたら、着いてきた娘です」

「ふむ」


 代表の男が顎を撫でて、のんびりとした歩調で歩いてくる彩葉ちゃんを品定めします。


「ねー……にーちゃん、どーしたのー?」


 ああ、あの子。バカのふりしろとは言ったけど、ちょっと演技が過剰です。

 内心、はらはらしていると、


「……ひょっとしてあいつ、()()()か?」

「恐らく」


 どうやらバレずに済んだようでした。


「うーん。……まあいいか。バカでも、何か仕事があるだろ」


 そして、その男性は、少し、ニヤリと笑みを浮かべて、私に握手を求めます。



「よろしくな。俺は織田。戦国武将の織田信長と同じ文字だ。……ようこそ、”正しい生き方の会”へ」



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