その61 スーパーマーケットにて。
里中さんと、彼女と一緒だった高田さんという五人家族の方のため、晩ごはんは作り直しになりました。
作り直すといっても、レトルト食を片っ端から開けるだけですが。
「今日はね……彩葉ちゃんが喜ぶと思って、……ほら」
里中さんは、とっておきのプレゼント、といった具合に、缶詰を取り出しました。
「うおお! やったー! プリンの缶詰だ!」
喜ぶ彩葉ちゃん。それを見て、高田夫妻がにっこりと笑います。
「実は、少し歩いたところに缶詰がたくさんある倉庫を見つけてね。それが最後の一個なんだ。みんなで、彩葉ちゃんのために残しておこうって。好きだったろ?」
「おー! 大好きだ!」
彩葉ちゃんは、食前だというのに缶詰を開け、早速食べ始めました。
「よーし。今日は再会の記念に、一杯やってもいいかな。……な、母さん?」
「ふふふ。まあ、今日くらいなら……」
「えーっ! 父ちゃんばっかずるいよ!」
「オマエにはまだ早い」
私は、談笑する彼らの様子を、少し離れた場所で見ています。
このご時世、幸せそうな人を眺めているだけでほっこりできますね。
まあ、びみょーに蚊帳の外っぽくなってはいますけど。
世界がこうなる前は、ずっとそういう立ち位置だったので気になりません。
「でも、なんで今になって戻ってきたんだ?」
彩葉ちゃんの質問に、里中さんが答えました。
「そうそう、それなんだよ! ……ちょっと前から、この辺でとんでもない化物が現れてねぇ!」
「化物?」
「そりゃもう、山みたいにおっきい虎の“怪獣”さね! あいつが近くにうろついてて、朝な夕な吠えまくるもんだから、私らもう、怖くって怖くって……。もっと北の方に逃げてたのさ。でも、彩葉ちゃんとまた会えるかもってんで、意を決してこっちまで戻ってきたってわけ。そしたら、ここらにいた“ゾンビ”は一掃されてるし、調理場からは女の子の声が聞こえてくるじゃない! もう、あの時は年甲斐もなく泣きそうになったよぉ」
里中さんが、ものすごいマシンガントークでまくし立てます。
高田さん(父)が、少しやつれ気味の顔をしかめて、続けました。
「なにせ、あの怪物の手にかかれば、鉄筋の建物だってむちゃくちゃにされてしまうんだからね。……ただ、今はどこかに行ってしまったらしい。静かだからな。あの“怪獣”、数時間に一度は、訳もなく喚き散らすんだよ」
「あーっ。あれな~~……」
彩葉ちゃんは、必要以上にタメた後、
「やっつけたぜ」
「……………は?」
その場にいた全員の眼が点になります。
なかなかグッドなリアクション。頑張った甲斐がありますな。
「やっつけたって……、彩葉ちゃんが?」
「あーしと、そこのねーちゃんでな!」
視線が私に集中します。
「ひょっとして、……その。あなたも、不思議な力を?」
「そうだよー。ねーちゃんは剣で戦うんだ! かっこいいぞ!」
昨日の夜は私を成敗しようとしていたことなど、彼女の記憶からは完全に消滅しているようで。
「彩葉ちゃんだけじゃなかったんだ……」
「じゃあ、おねーちゃんも魔法使えるの?」
そう尋ねてきたのは、十歳くらいの女の子。眼がキラキラしています。
「見せて見せて!」
「いいでしょう」
少しだけ得意になって、
「――《ファイア》」
指先に火を灯しました。
「おお……おお……」
みなさん、ちょっとだけどよめきます。
でもなんか、あんまり驚いてはいないような……。
「彩葉ちゃんと同じやつね」
里中さんが、率直に感想をいいます。
あー。
そういや、彩葉ちゃんも《火系魔法Ⅰ》は覚えてましたね。
あんまり驚いてないのって、ひょっとして二度目だからですか。
しょぼん。
「それなら、あーしの方がもっといい魔法が使えるぜ。――《電気スイッチ》!」
彩葉ちゃんが声を上げると、スーパー内の電灯という電灯が、一斉に点灯しました。
みんなが、やんややんやと喝采します。
「いやー、彩葉ちゃんのそれ、ほんと便利よね!」
「さすが彩葉ちゃん!」
「へへーん。まーね」
なんでしょう、この流れ。
一瞬、この場で自慢をするためだけに魔法系スキルを取得してやろうかとも考えましたが、ギリギリ思いとどまります。
べ、別に、悔しくなんてないんだからね!
▼
その後、食事を終えた私は、すぐに寝床に潜り込みました。
彩葉ちゃんは、どうやら里中さんという女性に懐いているようです。
彼女と里中さんは、ずいぶん遅くまでおしゃべりしているようでした。
途中、何度か、彩葉ちゃんの泣き声が聞こえていた気がします。
このスーパーマーケットに避難してきた人たちで、生き残ることができた人たちは多くないようでした。
なーんか、“雅ヶ丘高校”に残してきたみんなの安否が不安になってきましたが。
まあ、考えても仕方ないことは考えないことにしましょう。お腹痛くなるだけです。
昨日今日と、慌ただしい一日でしたね。
ってか。
そーいや私、何しにここまで来たんでしたっけ?
まあ、いっか。
ぼんやりと記憶の糸を手繰っているうちに、いつの間にやら、夢の中へと落ちていました。




