その48 れっつくっきんぐ
それでも、即座に行動を起こすわけにはいきませんでした。
色々考えたんですけども、“邪悪な奴隷使い”ってきっと、幻聴さんが言っていた“称号”ってやつですよね。
あれから、試しに幻聴さんに確認してみたんですけど、
「幻聴さん幻聴さん。私の称号はなーに?」
――あなたの現在の称号は、“流浪の戦士”です。
だそうで。
そこでもう一度情報を吟味したところ、この“称号”っていうのは、
カルマ+職業
の組み合わせで決定されるんじゃないかって気づいたんです。
となると、私がこれから相手にしなければならない人は、
カルマ……悪
ジョブ……奴隷使い
ということにならないでしょうか?
どういう条件でカルマが“悪”になるかはさておき、問題は“フェイズ1終了”のアナウンスが鳴った時点で、相手は既に“奴隷使い”というジョブを取得していたということです。
計算してみたんですが、ジョブチェンジが可能な「規定のレベル」って、15みたいですね。
つまり、“邪悪な奴隷使い”は、少なくともレベル15以上の能力を持つ相手だということです。
交渉するにしても、戦うにしても、同等かそれ以上の戦力は手に入れておきたいところ。
もちろん、このまま放置して“クエスト失敗”になるのも危険です。
できるだけ急いでレベルを上げる。
その後、西に向かう。
これが、当面の目的になりそうでした。
現状、一番効率よくレベル上げができるのは、人助けを行うことですが。
これ、親切を他人に押し付けても、あんまり意味ないみたいなんですよねー。
この辺、いまいち判定が曖昧で、よくわかりません。
ただ、以前銃火器をここに持ち込んだ際、レベルが上がった経験があります。
つまり、私の持っているものを誰かに譲渡することでも、レベル上げの足しになるのかも。
ちらりと、教室の隅っこでゴミみたいに立てかけてある“てつのつるぎ”を見ます。
それに、手に入れたばかりの“ガントレット”。
あと、邪魔以外の何者でもない、“肉焼きセット”。
ついでに、“ニンジャのふく”。
……誰にプレゼントするのがいいかな。
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誰かいないかと思ってフラフラしていると、大きな声が廊下に響きました。
「お前……ふざけてんのかッ!」
おやおや?
穏やかじゃないですね。
「なんだ? コースケ、なんで怒ってんだ?」
二人の声には聞き覚えが。
康介くんと林太郎くんでした。
彼らを取り囲む形で、十数人の“雅ヶ丘高校”生徒が集まってきています。
「どうもこうもないだろ……! あいつは、勇雄を殺したんだぞ!」
「勇雄を殺した」というワードに被害妄想が反応し、ちょっとだけドキっとします。
ですが、話題はそういう方面のやつではないらしく。
「別にいーじゃん。誰も強制してねーし」
ぽかんとした表情なのは、林太郎くん。
「そういう問題じゃねえ! あの豚野郎は焼く! 焼いて“ゾンビ”どもの餌にしてやる!」
「“ゾンビ”は豚肉とか食わねえじゃん。そんな当たり前のことも忘れちまったか?」
「うるさい!」
振り上げた康介くんの手を、ぱっと掴みます。
「ええと、なんのお話です?」
「せ、センパイ……」
康介くんの眉が八の字になりました。
林太郎くんの方は、平然とした表情のまま、言います。
「いやあ。あの豚の“怪獣”いるじゃないっすか。あれ、食おうと思って」
「……ふむ」
「なんの理由ででっかくなったかは知らんけど、豚肉は豚肉っしょ? きっと食えますよ」
「一理ありますね」
実を言うと“狩人の肉焼きセット”を手に入れた時、私も考えたことでした。
あれ、結構デカいですし。
食べ甲斐がありそうだと思いません?
「ただ、どんな病気を持ってるかわからないところが怖いですけど」
「だから、試食するのは俺っちと、あと何人かだけっす。でも、解体すんのに手がかかりそうなんで。何人か手ぇ借りれないかな、っつって」
「手伝います。そして私も食べます」
言うと、康介くんは私の正気を疑うように声を上げました。
「せ、センパイ……それって……」
「いいじゃないですか。少なくとも、最初にタコとかイカ食った人よりかは気持ち的にマシでしょう」
「そ、そういう問題ですか……?」
私はというと、都合よく“肉焼きセット”を有効活用できそうなので、ちょっとごきげんです。
しかもこれ、きっと人助け判定になりますよ。魔力の補給にもなります。
いやはや、運がいい。
「れっつくっきんぐ」
ってわけで、“邪悪な奴隷使い”さんとやら。
もうちょっとだけ待っててくださいね。




