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JK無双 終わる世界の救い方   作者: 蒼蟲夕也
●書き下ろしSS
422/433

SS1『新しいルール』

※このお話は、単行本に付属したショートショートをWEB用に改訂したものです。

 死者が地上を跋扈するようになってからというもの、


 『救助は来ない』


 という現実を避難民たちが受け入れるまで、それほど時間はかからなかった。


 世界のルールは、根っこから壊れてしまっている。

 だからこそ我々は、新しいルールに順応しなくてはならないのだ。


――それは、わかっている。


 わかってはいるのだが。

 佐々木葉介は、深く嘆息する。




「……そーれ、オイッチニー、オイッチニー!」




 運動場では、鈴木先生の元気なかけ声が木魂していた。




「お次は、コンバット・キックだ! ワンモアセッ! ワンモアセッ!」




 いま、雅ヶ丘のコミュニティでは、エコノミークラス症候群に対する予防策が施行中。老若男女問わず、身体を動かすことが奨励されている。

 とくに教職員は全員参加が義務づけられていて、――中でも、ぶくぶくに太り散らかした自分の姿は、よほど滑稽に見えることだろう。




「さらに腰を落として、――カラテ・パンチ! イヤーッ! イヤーッ!」




 葉介は、全身からにじみ出る汗をタオルで拭いながら、必死の想いで若者達についていっていた。ここで、コミュニティ代表の一人である自分がみっともなく脱落するようなことがあってはならない。朝の体操もこなせない男に、”ゾンビ”の対応を任せられる訳がないのだ。




「それじゃーお次は、校庭をジョギング! いくでー♪」




 ところでこの、――若き女教師は、「健全なる精神は健全なる身体に宿る」と信じているタイプらしい。そんな馬鹿な。いかにも、体育会系の若者が考えそうな、青臭い理屈だ。もしそれが事実なら、プロのスポーツ選手は不倫などしないはずではないか。




「ほらほらみんな! フェンスにしがみつくゾンビたちにごあいさつしてー!」




 だが今は、そういう青臭さも必要だった。

 暗く、落ち込みがちな避難民の表情が、少しずつ変わってきているのがわかる。







「うっす。佐々木先生、先、行きます」




 葉介の先を、一人の男子生徒が駆けた。

 日比谷(ひびや)康介(こうすけ)というその生徒は、いかにも好青年めいた白い歯を輝かせながら、軽快な足取りで先を進む。

 彼は、精力的に”ゾンビ”狩りを行っている生徒の一人だ。

 彼のような好人物が、ひたむきに努力する様は、多くの避難民に勇気を与えている。




「おらぁー! 待てよコースケ! 競争しようぜ!」




 そう言って康介の後ろを追いかけていくのは、今野(こんの)林太郎(りんたろう)

 かつて集団生活に馴染めずにいた彼は、”終末”になってからむしろ生き生きしているように見える。

 友人も増えたようだし、何よりだ。




「いえーい、スキップスキップ♪」




 この女生徒は、君野(きみの)明日香(あすか)という。

 彼女は、――たしか、声優志望らしい。

 果たして、そのような仕事が再びできるようになるまで、人類は文明を復活させることができるだろうか?

 気が遠くなるような話だが、……今こそ思う。

 彼女が夢を叶える日がくればいい、と。







「はあーい! 今日はここまで! ……それじゃあみんなでー……! ヴィクトリイイイイイイイイイイイイ!」




 鈴木先生の号令で、朝の運動が終わった。

 もちろん、まだ一日は始まったばかり。

 あとは、各自で水分補給と休憩を行い、それぞれ割り当てられた仕事場へ向かうのだ。




 行き交う人々の顔には、新たな生活に向けた、様々な表情が浮かんでいる。


 何とかなるさという、気楽な顔。

 先の見えない生活を憂う、苦渋の顔。

 生きがいを求める、貪欲な顔。

 そして、――どこかウスボンヤリとした、寝ぼけ顔。


 佐々木葉介は、その中でも最も気の抜けた顔つきの娘を見つけ出し、声をかける。




「よう」

「……ども」

「調子はどうだ」

「どうもこうも。あっちこっち”ゾンビ”だらけだし、”怪獣”はいるし、ドラゴンは都内を飛び回ってるしで、――気が重いですね」

「そうか」

「聞きたいことは、それだけですか」

「うむ」

「では、失礼します。今日もたくさん、”ゾンビ”を殺さなくてはならないので」

「うむ。あんまり無理せんようにな」

「はあ」




 それだけ言って、彼女は日本刀片手に、運動場を横切っていく。

 その後ろ姿に、佐々木葉介は時折、たまらないものを感じてしまうことがある。

 だから今日も、彼は彼女に、こう言うのだ。




「なあ」

「……まだ、何か?」

「私ァ、お前を誇りに思うぞ。我が教師人生の中でも、特別にな」

「さいですか」




 いつ、永遠の別れが訪れるかもわからぬ、こんな世の中。

 我々は、新しいルールに順応しなくてはならない。

 あるいはその言葉が、一さじの救いになることを願って。

 すると”彼女”は、少しだけ鬱陶しそうにこちらを振り向き、




「では、――いってきます」




 そう、応えるのだった。

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