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JK無双 終わる世界の救い方   作者: 蒼蟲夕也
フェイズ3「Too Late Now」
421/433

その414 夢物語

 久々に、夢を見た。

 最近では少し忘れかけていた、あの人の夢。


 日比谷康介。


 かつて自分と付き合っていた人。


 夢の中の世界は、素晴らしく平穏だった。

 ”ゾンビ”もなく、”怪獣”もなく、”プレイヤー”もなく。

 二人は、雅ヶ丘高校に通う一般生徒で。


 康介はよく、友だちにからかわれたりしていた。


 理由は単純。――すっごく可愛い彼女がいるから。

 彼の恋人は、同級生の間でも話題の”護りたい系女子”で、まるで手のひらサイズの子鼠のような娘、だから。


 夢の中での二人は、ずいぶんとお似合いで。

 すれ違う人が、「ああいう青春を送りたかったな」と羨む視線を送ってくるような二人だった。

 

「梨花」

「――ん?」

「幸せだな」


 両頬をぽっと染めながら、小さく頷く。


「俺の命は、お前のものだからな。永遠に。最期の一瞬まで」


 これは夢の世界の言葉ではない。

 実際に彼に言われた台詞だ。

 結婚しよう、と。

 甘いやり取りだった。

 ただ、心のどこかで不安を感じている。


 この台詞の後に起こったことを、麻田梨花はとても良く憶えていた。


 今でも、不意に頭をちらつく最悪の絵面がある。

 掃除の行き届いていない、便所の床の上。

 よく知らない年上の女に向かってゴキブリのように這いつくばる、――彼の、汗でぐしゃぐしゃに濡れたお尻。

 康介くんは、ぎょっとこちらの視線に気付いて、こう言った。


「ええと、その……なんなら、混ざる?」


 トラウマだった。

 やっぱり男の子って、まったく得体がしれない。


「……でしょ? ……だから結局のところ、……男と女が理解し合うことなんて不可能なの。……二つはまったく別の生き物、……なんだから」

「そんなあなたにピッタリなのがそう。百合ックス」


 気がつけば両隣には、親友の理津子ちゃん。あと明日香さん。

 康介くんは、二人にぎゅうぎゅうと押しのけられて、


「ちょ、ちょっと! さっきまで良い雰囲気だったんスよ! お別れの言葉くらい……!」

「……ばーか」「節操のない男は、百年後まで悪評が残るものです」

「そんなぁ」


 康介くん、二人の女子にはいつもたじたじだった。


「でも、聞いて欲しい。

 男というものはですね、可能な限り、自分の子種を多くの子宮に注ぎたいと思うものなんすよ。

 俺は今ここで、従来の結婚制度に疑問を投げかけたい。

 そもそも人間は、同じ相手と交尾を重ねるたびに興奮できなくなっていく生き物なんだから。

 今後の世の中では男女共、自由に誰とでもセックスできる、そんな社会制度を構築していくべきだと、」


 これはちょっぴり解釈違い。

 彼はあんまりこういうとき、口数が多い方ではない。


「あー、はいはい」「来世でやれ」

「ちくしょう」


 康介くん、「俺の想いをみんなに伝えるには、あまりにも時間が足りない」なんてぼやいたあと、


「で、でもさ! 俺、本当に……マジで、梨花のこと……!」


 そう言って、肩を掴まれる。


「本当に、馬鹿だったんだよ。……せめて、仲直りしてから逝きたかった」


 やめて。

 言わないで。

 忘れられなくなっちゃうから。


 こっちだって、――結婚したかったのは、本当の本当なんだ。

 あなたが望むなら、何もかもを捧げたって良かったのに、――。



「梨花ちゃん?」


 優しい声が、頭の上から聞こえていた。


「……梨花ちゃん、眠っているんですか?」

「ふえっ」


 ぱっと顔を上げる。

 時刻は午後、七時過ぎだろうか。

 周囲を見る。食料庫前にある作業机の前。

 在庫のチェック中、つい居眠りしていたらしい。

 

 さらに一拍遅れて、困り顔の”彼女”と、目が合った。


「あ、……ああっ。戻ってたんですか」

「ええ。ついさっき」


 ”彼女”、少し気遣わしげにこちらの表情を覗き込んで、


「……哀しい夢を、見たんですか?」


 自分と同じくらい哀しげな表情で、それでも口元だけは薄く笑みを浮かべている。


「ええ。……――いやでも、最後の方はちょっと、ギャグっぽい夢です」

「そうですか」

「それより、それより! ちゃんと記憶は戻ったんですか?」


 以前、約束した。

 次に会ったときは、”麻田さん”ではなく”梨花ちゃん”と呼ぶと。


「ええ。戻りましたよ。”梨花ちゃん”」

「良かった!」

「良くは、……ありません」


 ”彼女”、少し視線を床に落とす。

 梨花は、なんだかとても不安な気持ちが広がってきて、


「旅は、――失敗だったんですか?」

「そうかもしれません。状況は以前よりもややこしいことになってしまいました。成果がなかったわけではありませんが、今後の方針を見失っている状態です」

「大丈夫ですよッ! 万全の状態のセンパイがいれば、百人力です!」

「……強いからといって、選択を誤らないとは限りませんよ」


 そういう”彼女”は、かつて見たことがないほど、その顔色に翳りがある。

 無理もない。

 彼女は今回の旅で、――康介くんを失っている。

 彼女にとっても彼は、大切な仲間であったはずだ。


 もちろん、仲間の口づてに、死者の蘇生がどうとか、魂の修復がどうとか……そういう、夢みたいな話を耳にしてはいる。

 だが、これっぽっちも期待していない。

 亡くなった人は戻らない。

 それが世の中の摂理だ。


「あの……」


 彼女は何ごとか、言いにくい事実を伝えようとしているようだった。

 例えば、こんな内容だろう。


――死者の蘇生は真っ赤なウソ。

――康介くんは蘇らなかった。

――期待させてごめんね。


 わざわざ聞かなくても、とっくに覚悟が固まっていたことを。

 だから梨花は、精一杯笑って、その続きを言わせなかった。


「それよりもそれよりも! ……以前したお願いごと、叶えてもらっても?」

「え」

「記憶喪失のセンパイに、言ったじゃないですか。新しいボードゲームをいっぱい仕入れてきたって。だから一緒に、……遊びましょ?」


 すると彼女は、……ほんの少しだけ、荷物を降ろした表情になって、頷いた。


「もちろん。喜んで」


















――――――――――――――――――――――――――――――――――


 本日、『JK無双3 終わる世界の救い方』

 明日の4/9漫画版『JK無双 終わる世界の救い方』発売です!

 いろいろ加筆したりもしたので、よろしくお願いします!


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