その38 襲撃
結局その日は、回収した物資の整理と、目録の作成に忙殺されました。
「なんだかすみません。お姉さまにまで手伝ってもらっちゃって」
「当然のことです。……あと、お姉さまって呼ぶの、止めてください」
「もー、照れちゃって。可愛いなあ!」
ツンツン、と、人差し指で突っつくリカちゃん。
“キャプテン”での会話のあとから、なんかやたらとパーソナルスペース狭くなってませんか、この子。
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その夜。
一仕事を無事終えたことを祝って、小さな宴会が開かれることになりました。
遮光カーテンを閉めきった視聴覚室に、ろうそくが灯ります。
「ひょっとすると、これは歴史上、最小の声で行われる乾杯かもしれませんな」
などと、佐々木先生が音頭を取りつつ。
みんな、思い思いの飲み物を手に、会食が始まりました。
私はというと、こっそり視聴覚室を抜けだした後、
「そんじゃ、レベル上げまぁす」
まとめて、レベルと実績の処理を済ませることにします。
ちなみに、昼過ぎに“キャプテン”での仕事を終えた時点で、レベルが一つ上がっていました。
早朝の分も含めて、これで二つレベルが上がったことになりますね。
――では、取得するスキルを選んでください。
――1、《剣技(上級)》
――2、《パーフェクトメンテナンス》
――3、《格闘技術(初級)》
――4、《飢餓耐性(中)》
――5、《魔法スキル選択へ》
――6、《自然治癒(強)》
――7、《皮膚強化》
そーいや、《飢餓耐性(中)》の効果って確認してましたっけ?
――《飢餓耐性(中)》を取得すると、飲まず食わずでも一月以上活動できるようになります。また、エネルギーの吸収効率を上げ、魔法やスキルの使用による消耗も抑制します。
あらまあ。
魔法の仕様って、ここでちゃんと説明されてたんですか。
それと、予想通りというか。
魔法だけでなく、スキルを使用することでもハラヘリ状態になる、と。
「じゃあそれ」
私は《飢餓耐性(中)》を取得します。
今朝のお説教以来、私はこの《飢餓耐性》の重要性には気づいていました。
さすがにこれ以上みんなに迷惑をかけるわけにはいきません。
続けて、《飢餓耐性(強)》の効果も確認。
――《飢餓耐性(強)》を取得すると、魔法やスキルによる消耗を除き、今後、あなたが食事を摂る必要はなくなります。
へー。
魔法やスキルを使わない限り、ご飯食べなくて良くなるんですか。
……ん? なんかそれ、ちょっと怖くない?
ご飯食べずに済むんなら、おトイレとかどうなるんでしょう。
アイドルはトイレに行かないと聞きますが、それを地で行く感じになるのでしょうか。
そう考えると、ちょっと考えものですねぇ。
万一、私の運命の人がスカトロマニアとかだったら、そーいうプレイに対応できなくなる可能性も……。
……んん?
よく考えてみたら、そんな性癖の人、こっちから願い下げでした。
じゃ、いいや。
「《飢餓耐性(強)》でヨロ」
――では、スキル効果を反映します。
ふむ。
なんとなくお腹の調子が改善された感じ。気のせいかもしれませんけど。
――実績“武装集団”の報酬を選んでください。
――1、せんしのよろい
――2、ニンジャのふく
――3、おどりこのいしょう
あー、なるほど。
一応、防具っぽいのも取り揃えてあるんですね。
――“せんしのよろい”は、鉄製の頑丈な鎧です。
――“ニンジャのふく”は、動きやすい黒装束です。
――“おどりこのいしょう”は、露出度の高い服です。
でたー。
どれも微妙なやつー。
これきっと、どれを選んでもコスプレにしかなりませんよね。
なんか特別な効果があるなら別ですけど、そうでもないみたいですし。
まあ、重い鎧をまとって戦うのも、半裸で戦うのもごめんなので、
「にんじゃ」
――では、アイテムを支給します。
ふぁさっと、私の手元に現れた黒い装束。
……これをどうしろと。
――実績“命より大切なもの”の報酬を選んでください。
――1、ちからのたね
――2、まりょくのたね
――3、カリスマのたね
種系ですか。
『ドラクエ』だと、食べることで能力が上がったはずですけど。
――“ちからのたね”は、食べることで筋力を若干増強します。
――“まりょくのたね”は、食べることで魔力を若干増強します。
――“カリスマのたね”は、食べることで他者に与える印象を若干良くします。
うん、こっちはわかりやすい。
少し悩んだ末、
「“ちからのたね”で」
一番扱いやすそうなものを選びます。
――では、アイテムを支給します。
宙を舞うそれを、ぱくっと口で受け止めます。
「…………(こりこり)」
アーモンド……よりは食べごたえがある。
ちょっとだけ甘みもあって、緑茶が合いそうなイメージですね。
ごくり。
飲み干すと、心なしか……力が、ついたのかな?
あんま実感ないですけど。
まあ、そこは幻聴さんの言葉を信用しておきましょう。
黒い衣装を小脇に抱えて、とりあえず三年三組を目指します。
すると、少し顔色の悪い康介くんと、バッタリ出くわしました。
「……あら」
「ども、センパイ」
康介くんが律儀に頭を下げます。
「センパイは、宴会に参加しないんですか?」
「参加しますよ? ただ、ちょっと自室にものを置きに」
「そっすか……」
康介くんが、心底困り果てた様子で眉を八の字にしています。
「センパイ、その。……一つ、相談聞いてもらっていいすか」
「なんでしょう?」
心のなかでは、リカちゃんの顔が浮かんでいました。
そういやコヤツ、これからリカちゃんの純潔を散らそうと画策していやがるんでしたね。
無害そうな顔しやがって。許せぬ。
彼もまた、一匹の餓狼ということですか。
「勇雄が、……ちょっと参っちゃってて」
「竹中くんが?」
話題は予想していたものとは違いました。
やせっぽっちの彼の姿を思い返します。
「あいつ、なんか、――」
その時でした。
「みんなッ!」
話題の竹中勇雄くんが、息を切らせながら階段を降りてきます。
「勇雄。……お前、休んでなきゃダメじゃないか」
たしなめようとする康介くんを遮って、竹中くんは叫びました。
「出た、出たんだ!」
「出たって?」
「紀夫さん……コースケの親父さんが言ってたやつ。……豚の“怪獣”だよ!」
「なんだと?」
「今度は幻覚じゃない! 一緒に朝香先生も見たんだ! 早く! みんなに知らせてくれ! もうすぐそこに……」
勇雄くんが悲痛に叫んだのと、
ぎ、ぎぎ、ぎぎぎぎぎぎぎぎごぉーッ!
世界がひっくり返ったみたいな轟音と共に、雅ヶ丘高校を囲うフェンスが引き裂かれたのは、ほとんど同じタイミングでした。




