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JK無双 終わる世界の救い方   作者: 蒼蟲夕也
フェイズ3「Too Late Now」
376/433

その370 攻略本

 従業員エリアを抜けて、夢の国の建物が並ぶ空間に飛び出すと、すでに少なくない少女たちで人集りができています。

 とりあえず群れとこうっていうのは人間という生き物の心理なのでしょうか。


「あーっ! いたぁ!」


 中学生くらいの娘が不躾にこっちを指さすと、みんなの注意が私に集中します。


「”名無し”さーん! まってー!」


 と、多くの娘はアイドルの追っかけみたいにニコニコですが、中にはわりとマジになってる子もいます。そういう子に限って手に持っているのは唐辛子スプレーとかスタンガンとか。

 さすがに、彼女たちに絡まれるのは危ないですね。

 私が、――というより、彼女たちが。

 下手に反撃したのが当たり所が悪くて……なんてことになりかねませんし。


「ちょっとだけー! ちょっとだけいいでしょー!? VP山分け! 山分けでいいからー!」

「いや私は三割でいい!」

「わたし、二割!」

「出血大サービスで一割、これでどうだ!?」

「どっこいこっちは蘇生の権利だけでOK! これ以上はまかりません!」


 なんか値切り大会みたいになってますけど。

 いっそ彼女たちに捕まって、たくさんVP稼いで余生を過ごそうかしら。

 そしたらわざわざ麗華さんと戦う必要もありませんし、楽に生きていけるでしょう。

 ……とも思いましたが、止めときます。

 何となく癪ですし。


 もちろん、普通人である少女たちを撒くのはそれほど難しいことではありませんでした。

 素早く辺りの建物によじ登り、屋根から屋根へとぴょんぴょんと飛ぶだけで姦しい声はあっさりと聞こえなくなります。

 ランド中央にあるアビエニア城は、今いるカートゥーン・エリアから歩いて十数分ほどの距離。

 さて、このまま”プレイヤー”に集団暴行を受ける前に、さくっとゲーム終了しますか、――と思ったその時でした。


「…………どもっす、”名無し”さん」


 極端に戯画化され、ぐにゃりと歪んだ屋根の煙突に立つメガネ男子の姿が。

 七裂里留くん。

 女性的な美形に妹の面影を感じさせる彼は、険しい表情でこちらを見下ろしながら、


「アナウンス、聞きましたよ」

「あら」

「一応、俺たちもゲームに参加できるっぽくて。ちょっと遊んでいきませんか」


 ……俺たち、ですか。


 厭な予感がして辺りを見回すと、互いの間隔は十メートルほど離れているものの、トールさんと……あともう一人、”守護”のおじさんが屋根の上で私を見ています。

 トールさんだけがいつものニコニコ笑顔で手を振っていますが、あとの二人は、これっぽっちも「よーし今からJKと鬼ごっこして遊ぶゾ☆」って雰囲気ではありません。


 こちらとしては、かなり気まずい気持ちで彼を見上げながら、


「……私、麗華をやっつけて《魂修復機》を奪取するつもりです。できれば邪魔しないでもらいたいんですが」

「へえ、そうすか」


 その冷淡な口調は、――以前、おいしいもんじゃ焼きをご馳走してくれた彼とは別人みたい。


――二人の感覚がどんどんかけ離れていくのがわかるの。それってすごく哀しいことだわ。


 さっきの彼女の感じ方と、彼の気持ちが同じとは限りませんが。


「そうなるとやっぱり、俺は”名無し”さんを止めなくちゃいけませんね。せっかく、もう少しで蘭の順番が来るって言うのに、また並び直しになっちまうから」

「……じゃ、私が蘭ちゃんを最初に蘇生することにしましょう」

「果たしてそううまくいくかどうか。”名無し”さんは誰にでも平等な人だから、もっと深刻な他の人の事情を聞いたら、そっちを優先してしまうかもしれません」

「でも、約束しますよ。私……」


 言い終える前に、里留くんは哀しげに笑いました。


「すいません。聞き分けてください。……実は、俺たちが戦う理由は、なんでもいいんです。ここで俺たちは時間稼ぎをするって、そういう風に決まってるんですから」

「ありゃ? それまじ?」


 私、眉をくいっと上げて、


「それって、”守護”と麗華さんの取り決めで?」

「いいえ。……もっと上のお達しでした。ぶっちゃけ”プレイヤー”の俺らって、ほとんど指揮権はありませんから」


 そういえば、”無限湧き”の扉の探索にトールさんが参加できなかった時にも似たような話を聞いたような。


「ただし、現場の人間の矜持として、――勝負は一対一でやります。多人数で一人の女子をいたぶるなんて、そういう情けない真似はできませんので」


 私はべつに構いませんけど。


「ところで里留くんって、死ねる人ですか?」

「……二十歳以上か、以下かってことですよね」

「もちろん」

「二十歳以上です。ちなみに、トールと蘇我も」


 つまり間違いは起こせない、と。


「立ち会いは強く当たって、後は流れでお願いしたいんですけど」

「八百長はなしです。残念ながら、――監視の目があるので」


 ふむ。

 どの人もこの人も、私の国家転覆計画には乗っかってくれませんねえ。

 どっちにしろ私、この国の暮らしは長続きしない気がするんですけど。


 やむを得ず、七裂里留くんを《スキル鑑定》。

 気になる彼の能力は……、


ジョブ:戦士

レベル:49

スキル:《格闘技術(上級)》《必殺技Ⅰ~Ⅴ》《自然治癒(強)》《皮膚強化》《骨強化》《飢餓耐性(強)》《火系魔法Ⅰ~Ⅴ》《水系魔法Ⅰ~Ⅴ》《雷系魔法Ⅰ~Ⅳ》《治癒魔法Ⅰ~Ⅴ》《攻撃力Ⅴ》《防御力Ⅴ》《魔法抵抗Ⅴ》


 これは、――なんというか。

 堅実なスキルばっかり取ってるなあ、この人。

 《スキル鑑定》を覚えてないところも、これまでずっとチームで戦ってきたんだろうなって感じです。

 しかも最初から持っている《格闘技術(下級)》を計算しても、取得できるスキルはぴったり全部取ってるみたい。それだけで、彼の真面目な性格を物語っている気がしました。


 ただ、そんな彼を特徴付ける、不可解な点がひとつ。


 彼の手に持っているものが、武器でもなんでもなく、ずいぶんとぼろぼろになるまで読み込まれた、――一冊の本である点です。


 本の帯には大きく、『大丈夫。アリスちゃんの攻略本だよ。』の文字。

 タイトルは『ぼくのわたしの”終末”ガイドブック(最速版)』とのことでした。

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