その336 悪行
勝ったッ! フェイズ3完!
……とでも思ったのかな、浜田さん?( -`ω-)
『――……ぐ、ぬっ!?』
私ってほら、間に合っちゃうんだよなーこういう時。
どうしたって間に合っちゃうんです。
まあ、あとほんのちょっとだけ気付くのが遅かったら危なかったんですけど……。
私は今、”ゾンビ”の中に紛れていた浜田健介さんの腕を引っつかみ、ぎゅっと指に力をいれていました。
《攻撃力》によって強化された握力により、ゴキリ、と、骨が粉砕する感触が伝わってきます。
浜田さんの驚愕する顔と目が合ったのは、ほんの一瞬。
私は彼の身体を掴んだまま、それを振り回す形で周りの”ゾンビ”を吹っ飛ばしました。
するとどうでしょう。
浜田さん、いま私の”武器”扱いなのか、彼の身体にも《攻撃力》の効果が乗っかっている様子。次々と”ゾンビ”たちが粉砕されていきます。
十数秒ほど浜田さんをぶん回すだけで、この辺りの”ゾンビ”軍団はあっという間に鎮圧されてしまいました。
『――――――――――――………………ぐふっ』
人間の能力を遙かに超えた馬鹿力で振り回された浜田さんは、全身あちこちぶつけられ、よりいっそうひどいダメージを負いながらぐったりしています。
もちろん私、それくらいでは容赦しません。
私はさらに、彼を幾度となく壁や床、天井に叩き付けました。
やがて私の手の中で肉が引きちぎれ、ぶちりと浜田さんの腕が引きちぎれます。
ドス黒い血液がチョコレートソースのようにぶちまけられて、すでに事切れた”ゾンビ”たちの上に降りかかりました。
もちろん、それだけで”飢人”が死なないことはわかっています。彼の始末は、ちゃんと首を刎ねる必要があることも。
……という訳で私、倒れた彼を前に《必殺剣Ⅲ》を起動します。
《必殺剣Ⅲ》は、コスパの悪い《必殺剣Ⅹ》を除けば、恐らく対人戦において最大の威力を持つ技。
私は十徳ナイフを構えて、一度だけ深呼吸し、――かつて《レイン・メイカー》と名付けていたはずの技を繰り出しました。
浜田さん、苦しげな目でこちらを見上げますが、最後の言葉を聞いてやるようなこともなく。
彼にナイフを突き立てると、その胴体がミキサーでかき混ぜられたみたいに切り刻まれていきます。
やがて、その右肩から左脇腹にかけてを両断された浜田さんは、その身を大理石でできた壁に貼り付けにされるような形で叩き付け、ぴくりとも動かなくなりました。
「すっ……ご……。超人ハルクみてえ」
ん?
いま、あまり女の子を形容するのにふさわしくないワードが聞こえた気が。
「でも、いくらなんでも、……やりすぎじゃないですか?」
「いえ。”飢人”相手にはこんなものです」
こちとら一度、詰めが甘かったせいで人を一人、死なせちゃってますからね。同じ過ちは繰り返せません。
とはいえ浜田さん、まだ息はあるようで。
”飢人”はとにかく、しぶといのが特徴ですねえ。
トドメを刺すべく、私が再びナイフを構えると、浜田さんはどこか祈るように手を差し伸べました。
そして、こう呟きます。
『……頼む』
命乞いかな?
しかし、彼の視線は真っ直ぐに犬咬くんに向けられていて、
『俺のことを、忘れないでくれ』
犬咬くん、少し顔を背けて、
「……そりゃ、忘れやしないけど」
『これから起こるあらゆることは、俺が計画したことだ。何もかも、俺がやった。お前たちを追い詰めたことも……最初から……』
その口調はどこか、自分の偉業を誇っているようでもありました。
『お前たちは気付いていなかったが、そもそもここに来たのも……』
「は?」
犬咬くん、首を横に振って、
「馬鹿な。そんなことは不可能だ」
と、そこで犬咬くん、はっとします。
「まさかお前、……協力者が?」
そこで浜田さん、会心の笑み。
その表情からはただ、全てが彼のシナリオ通りだという事実だけが伝わってきました。
「ってことは……ああ、そうだよな。――”死者を蘇らせるもの”の仲間ってことか」
『はは、は……』
力なく笑って、浜田さんは頷きます。
私は首を傾げて、
「蘇らせるって……え? まさかこの人、志津川麗華さんと?」
「麗華さんって、ディズニャーの?」
「はい」
もしそうなら、私も他に疑わなくちゃいけない人が。
と、思いきや、彼はあっさり首を横に振りました。
「その人とは違います。俺が言ってるのは”死霊術師”っていうジョブのプレイヤーで」
「”死霊……術師”?」
ありゃ? 私、聞いたことないかも、その情報。
「何者です?」
「それは、――」
と、そこで犬咬くんは言葉を切り、
「ああ、オーケーオーケー。『余計なことを言うな』ね」
ヘルメットの中の声に応えます。
「すいません。ちょっと相棒の口入れで。応えられません」
「はあ」
「それより、――おい、浜田」
犬咬くん、天井まで飛び散った血液が、ぽたぽたと雨のように降り注いでいるのも構わず、ほとんど生首だけになった浜田さんの胸ぐらを掴みました。
「応えろ。……”死霊術師”と共謀して、何をした?」
『何もかもを』
「はあ?」
『今から起こる、君の記憶に永遠に刻まれるであろうこと全てを』
「なんだと」
『だから頼んだよ。……俺のことを、決して忘れないでくれ』
「…………?」
『善行などは凡人のやることだ。……真の勇名は、悪行によって成し遂げられる』
「悪行、だと?」
犬咬くんが、素っ頓狂な声を上げました。
そしてまた、ヘルメットの中の声と、ぼそぼそおしゃべり。
「お前、――」
犬咬くん、もっと話を聞きたかったみたいだけど、私は浜田さんの額に十徳ナイフをぷすっ。
「あっ。あーっ?」
すると、浜田健介さんの生首は、スイッチが切れたように動かなくなりました。
同時に、彼の制御下にあったモール全体の電灯が消失し、辺りが暗闇に呑まれます。視界が悪い中でも、犬咬くんの鎧は不思議と輝いて見えました。
「ちょちょちょ、ちょーっと! ”名無し”さん。そんな、いきなり……!」
私がこのような判断をした理由は一つ。
彼の言葉に、――時間稼ぎの意図を読み取ったからです。
そして、この期に及んで時間を稼ぐ理由は一つ。
”ゾンビ”たちを、少しでもこのモール内に侵入させようという……。
「言い合いをしている暇はありません。彼に仲間がいて、そいつがこちらに攻め込むつもりだとして、――恐らく、この電灯が消えたことが合図になるでしょうから」
私は、もう動かなくなった浜田さんに背を向けて、先を急ぎました。
たぶん浜田さん……まだ生きてる。
彼の命は終わりましたが、彼の意志は未だに私たちを狙っている。
「急ぎましょう。彼が大言壮語の者でないのなら、――少し、マズいことになるかもしれません」




