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JK無双 終わる世界の救い方   作者: 蒼蟲夕也
フェイズ3「鏡の国の冒険」
323/433

その317 宴の夜

「と! いうわけで! 一時の安住と退屈を与えてくれた”鏡の国”に……乾杯ッ!」


 浜田さんのかけ声と共に、「カンパーイ!」の応答が、天井の高い建物内に響き渡ります。

 そしてここにいた避難民、三十名ほどが、一斉にグラスを傾けました。

 同時に、夜の居酒屋から漏れ聞こえる、あの騒がしい喧騒が辺りを満たします。

 脱出の目処がついて、みんなほっと一息、って感じ。


 とはいえ、――ちょっとだけ、がぶがぶ飲みすぎているのが気になりますけど。

 明日に響かなければいいんですが。


 私は念のため、栓の閉まったミネラルウォーターと、しっかりと煮沸消毒され、”ゾンビ毒”が死滅したことを確認したスープを啜りながら、注意深くみんなを見守っています。


 ちなみに、味の感想はというと……うん。

 何もかも、離乳食みたい。特別、味が変だというわけではないのですが、固形物がなさすぎて、あんまり長期間ここで過ごしてると歯が弱ってしまいそう。

 とはいえそれが、不思議な味わいを生み出していると言えなくもなく。


 私は、スープをいちいち丁寧に口へ運びながら、繊維状にほぐれた牛肉をもにゅもにゅしました。


「あっひゃひゃははははははははははは! んもー! マツさんったら!」


 避難民の中心にいて、麦わら海賊団の宴シーンみたいに笑っているのは、ナナミさん。

 私たちの中ではぶっちぎりに明るくてノリのいい彼女は、さっそくみんなの注目を浴びているみたい。

 ナナミさん、ちょっとお尻を触られたりしていることなどこれっぽっちも気にせず、オッサンたちの群れに溶け込んでいます。


 それと一緒に場を盛り上げているのは意外にも、七裂蘭ちゃん。

 彼女、案外こういう空気が嫌いじゃないらしく、数人のオッサンに囲まれて、いろいろとお話を聞いているようでした。


 生活がきっと良くなるという確信は、普遍的に人を喜ばせるものなのでしょう。

 皆が皆、その顔は希望の光で輝いています。


 そんな人々の中で、浮かない表情の少年が一人。

 高谷興一くんでした。


「この手の、明るい宴会系のシーンが物語の中に登場するたび、――我輩、こう思うんですな。『きっとこの中に、自分の居場所はないだろう』と」


 のっけから後ろ向き全開のご挨拶。実に同感です。


「それで、犬咬くんは?」

「見つかりました。あれからすぐに」


 それはよかった。


「ここに来ているんですか?」

「いや……その」


 興一くん、ちょっと気まずそうにして、


「それが、どうにも会いたくない、と」

「会いたくない? 何故? 何か後ろ暗いことでもあるのですか?」

「それは……その。うーん。なんと言いましょうか。ちょっとしたすれ違いが起こっているようで」


 それはどこか、彼なりに丸く収める説明を考えあぐねているようでした。

 私は顔をしかめて、


「もし本人が顔を出したくないとしても、片っ端から《スキル鑑定》すればわかることですよ?」

「それは……その。我輩、正直あなた方の世界のことはよくわかりませぬが、うまいこと誤魔化す手段があるそうで」


 確かに、スキルの中には、自分が”プレイヤー”であることを隠匿する類のものもあると聞きます。


「しかしそれでは、我々も安心して救助活動を行えません」

「それはご安心を。その時までには犬咬どの、必ず正体を明かすと言っております」

「その時って……具体的にいつですか。何時何分何曜日? 地球が何回回ったとき?」

「それはわかりませぬ。ただ一つだけ言えるのは、犬咬どのは犬咬どのなりに慎重になっている、と。それだけでござる」


 ギリギリまで優位な立場でいたい、と。

 まあ、……それなら、納得はできます。


「とにかく、犬咬どのに悪意はありませぬ。それは我輩の命を賭けてでも保証しましょう」

「……ふむ」


 私は小さく頷いて見せて、席を立ちました。


「あ……どちらへ?」

「寝ます。もう、ここでやることもないみたいなので」

「……左様、ですか」

「それでは」


 私は足早にその場を去り、寝所として割り当てられた、モール内の家具屋へと向かいます。

 そこでは、私たち四人分の完璧なベッドメイキングが出来上がっていて、私はその中の一つにぽすんと倒れ込みました。

 NASAが作ったとかいう、六万円もする快眠枕に顔を埋めて。


――神サマとか、そーいうクラスの《加護》を受けたヤツがイル。


 この世の中は、不確定な要素が多すぎますねえ。

 一つ不安の種があると、ぽこぽこと色んなところから、嫌なものが芽吹いてくる気がします。

 どうにも、何者かの手のひらで踊らされている気がして、気に入りません。



 その後も、あれこれ思い悩みながらベッドの上でころころしていると、少しだけお酒を飲んだのか、頬を赤く染めた舞以さんが現れます。


「おつかれっ」

「お疲れ様です。残りの二人は?」

「蘭ちゃんはまだみんなの話を聞いてる。……ナナミは……」


 彼女は、ふーっと長くため息を吐いて、


「いい男見つけたって、どっかに消えたっぽい。人気のないところにね」

「人気のないところって……まさか」


 舞以さん、指で作った輪っかに、人差し指を出し入れします。


「明日の朝には、骨抜きの男が出来上がり。”遊び人”の《性技》は、――すごいんだから」

「……マジですか。エロ漫画の世界じゃん」

「可哀想なのは、ストレス解消に使われた男の方だよ。……ナナミと一夜を共にしたら、もう二度と普通の女は抱けなくなるって話だ」


 へえー。

 なんというか……それ……。

 後学のためちょっと、どういう感じか見てみたい。


「それじゃ、昼過ぎにした”取引”は、――」

「ああ、――『ナナミとの仲直り』は、後回しになるねぇ」


 ですか。残念。

 二人の仲を取り持つことで、彩葉ちゃんの情報を集めてもらう約束だったのですけどもねー。


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