その300 おニューのそうび
その後、”賭博師”さんと別れた私は、”グランデリニア”側の地下倉庫までテクテク歩き、明日の備えのための買い出しを行います。
毎日欠かさずフリーマーケットが開かれているその場所は、おおよそバスケットコート三面分の広い空間で、いつもお祭りのように騒がしく、活気に溢れていました。
売られている品は様々で、そのほとんどは都内から集められてきた、かつての文明が思い起こされるもの。
そして、――その中の一角に、明らかに周囲とは雰囲気の異なる空間があります。
『ゾンビ対策グッズ取扱』と題されたその周辺は、それまでの日本であれば間違いなく違法とされていた武具が並んでいました。
ボディアーマーや拳銃はもちろん、違法改造されたエアガンに猟銃、サバイバルナイフ、お手製と思しき鎖鎌、そしてひのきの棒、などなど。
これが現代の”武器屋”さん、といったところでしょうか。ゲーマー心がくすぐられるぜぇ……。
「ええと……」
しばしの間、自分に似合う洋服を探すJKみたいにあれこれ物色していると、
「アレレー? ”終わらせるもの”ジャーン」
と、一度観たら二度と忘れられない容姿の女性に声をかけられます。
とんがり耳に、褐色の肌。銀色の髪。
エロ漫画世界の来訪者、といった風貌のダークエルフ、――トール・ヴラディミールさん。
私は、その豊満な二つの肉玉をボンヤリ見つめながら、
「どうも」
「お疲れサマー♪ ……あ、コッチでは”名無しのJK”ダッケ?」
呼び名など、どうとでも。
「先日は、ご挨拶もできないまま去ってしまい、大変失礼しました」
「イイノイイノー。ミサイルの対応で急イデタとか、そんなところデショ」
「まあ、そういう感じです」
正確にはもうちょっと入り組んでますが、まあそこをいちいち説明したところで、話が遠回りするだけですし。
「今日、ココニイルってことは、――ひょっとしてアナタも、”無限湧き”のゲートに?」
「ええ」
「ソッカー」
「明日は、――トールさんも同行されるので?」
「いーや。ワタシはお留守番」
あれ? ちょっと意外。
”無限湧き”のゲートに潜るなら、彼女くらいの腕前の人が出てくると思い込んでいたのですが……。
「”無限湧き”は放ってオケナイケド、――一応、麗華サンは、チャント封じ込めてるッテイウシ。《光魔法》でブッ壊スのは、保留中ナンダ」
「それでも、みんなが生活している近くにゲートがあるのは……」
トールさんはそこで、ちょっとだけ煩わしそうに銀髪を手櫛して、
「……ワタシは”最終兵器”ラシイからねー。アンマリ勝手はデキナイんダヨ」
「なるほど」
まあ、彼女ほどの力の持ち主を、”中央府”が好き勝手させておくわけがない、か。
私も”守護”の一員になったら、そういう感じになっちゃうのかな。
うーん。
やっぱり彼らの仲間になるのは、もうちょっと様子を見てからってことで。
「ダカラ! ワタシは毎日、ミンナのタメニ、ザツヨーの毎日ダ! 日本のおリョーリも、スッカリ詳しくナッタゼ!」
「へえ。お世話上手のオッパイ魔人とか、宇宙規模のメチャシコチャンピオンじゃん」
「エ? ……イマ、ナンテ? チョット日本語が……メチャシコ?」
「あっ、ごめんなさい。なんでもないです。つい本音が飛び出しただけで」
「???」
いかん。消えよ。煩悩。
「――それより! 私、トールさんにいろいろとアドバイスしてほしいな! 向こう側では例えば、何が必要になりそうでしょう?」
「エ、アア……ソウダネー」
そしてトールさんは、武器が並んでいる当たり一帯をさっと早足で通り過ぎて、
「マア、ヤッパリ向こうは”ゾンビ”がヤタラいるカラね。”ゾンビ”対策をバッチリするコト」
「なるほど」
「連中の対応策で一番ナノハ、殺すヨリモ、マズ逃ゲルこと。大切ナノハ、パワーよりスタミナ。ダカラ荷物ハ、必要なモノを最小限度に。武器は必要アリマセン」
「あらま。……ここで買えるのを一つくらい、仕入れておこうか思ったんですが」「カサバるモノは、ドーセ向こうに置いてくコトにナルヨ。そして、一度向こう側に落としたモノは、二度と取り戻セナイ」
「そっかぁ」
「ソレヨリ、一本でも多く、――コレを」
そう言って彼女がひょいと持ち上げたのは、――チョコレート・バー。
「コレ、向こう側ではモウ、嫌になるくらい食べるハメにナリマス」
「ふむ」
「アト、渇キは”水系”で癒ヤセルことを忘レナイで」
「ふむふむ」
「髪の毛はイチバン掴マレやすいとこダカラ、チャンとゴムでまとめてオクコト。アト服装は、ダブついたモノジャナク、ピッチリとした格好がイイネ」
「ピッチリ、というと……」
「ジャージとか」
ああ。
ジャージか……。
「ソーイヤ、ココントコずっとソノ制服ダヨネ。トレードマークの赤ジャージはドコヤッタの?」
「それは……ええと」
「ナンカ、コダワッテル?」
「別に、そういう訳では……」
「ドッチニシロ、”ゲート”くぐるのにスカートはマズいよ」
「ですかねー」
と、言うことで二人、主に婦人向けの洋服コーナーへと向かいます。
そこであれこれと協議した結果、新たなる装備は、――
ぶき :じゅっとくナイフ(こうげきりょく +20)
ぼうぐ:ピッチリはんそでシャツ(ぼうぎょりょく +5)
デニムのホットパンツ(ぼうぎょりょく +2)
おにゅーのうんどうグツ(すばやさ +60)
そのた:くろぶちメガネ(めいちゅうりつ +100)
サバゲーようゴーグル(メガネの うえから かけれるよ)
ドクロがらのスカーフ(サブカルじょし ごようたし)
かみどめゴム(すばやさ +9 めいちゅうりつ +5)
どうぐ:チョコレートバー ×100(MPかいふく)
こんな感じ。()内の数字はてきとうです。
「……なんか、チョコバーだけでリュックがぎっしりなんですけど」
「イイジャンイイジャン!」
「それにこの服装も、身体のラインがはっきりしすぎている、というか……」
「むしろソコガ……イイ!」
やっぱりこの人、エロ漫画の世界からやってきた人なのでは……。
とはいえ、端から見て異常なレベルではないですし、実際、機能的であることは間違いありません。
我々”プレイヤー”は、下手に服を着込むよりも、皮膚そのものを晒した方が頑丈だったりしますからね。
「それにしても……」
ガチ勢を極めた結果、人間味が感じられない冒険者が出来上がる、みたいな格好になったなあ。
私の感想とは正反対に、トールさんは満足げ。
「今、”名無し”ちゃんは、理想的な探索者とナッタ! これで明日はバッチリだ!」
えー。
ほんとぉ?




