その28 魔法剣士(笑)の誕生
会合を終えた私は、ちょっとだけ浮き立つ足を抑えつつ、我が巣、三年三組へと舞い戻ります。
簡易ベッドに横になり。
もろもろの問題は、ひとまず頭の隅に追いやって。
スキル選択の時間だ! こらーっ!!
最近気づいたんですけど、スキル処理は私が望めばいくらでも後回しにできるようです。誰かとの会話中、わざわざ席を外したりしなくていいように配慮されてるわけですね。気が利いてるなあ。
気を利かせついでに、私に超ウルトラスーパーチートスキル的なやつ、恵んでください。
というわけで幻聴さんカモン。
――実績“ターミネーター”の報酬を選んでください。
あー、そういやそんなのありましたね。
“死神のうた”で“ゾンビ”を一掃した時に解除した“実績”です。
――1、レベルだま
――2、スキルだま(格闘技術)
――3、スキルだま(魔術)
スキルだま、ねえ。
どういう効果か、あんまりイメージわきませんが。
――“レベルだま”には、割ることで即座に次のレベルに上昇する効果があります。
――“スキルだま(格闘技術)”には、割ることで五分間《格闘技術(強)》《必殺技Ⅰ》のスキルを得る効果があります。
――“スキルだま(魔術)”は、割ることで五分間《火系魔法Ⅴ》《水系魔法Ⅴ》《雷系魔法Ⅳ》のスキルを得る効果があります。
……ん?
んんんんん?
今なんか、聞き捨てならない言葉が聞こえた気がしたんですけど。
「えーっと。その。なんですって?」
――“レベルだま”には……
「それはいいです! 最後のやつだけ!」
――“スキルだま(魔術)”は、割ることで五分間《火系魔法Ⅴ》《水系魔法Ⅴ》《雷系魔法Ⅳ》のスキルを得る効果があります。
「……ま」
魔法……だと……?
「え。ええええ、えっと。その。魔法? 魔法があるんですか? こう、『ファイアー』っつったら火がボーって出るような?」
幻聴さんの返事はありません。
気がつけばベッドから飛び上がっていて、教室の中をふらふらと歩き回っていました。
確かに、スキルの力にはこれまで何度も驚かされてきました。
スキルには、様々な奇跡を呼ぶポテンシャルがあることははっきりしています。
ですが、ここに来て“魔法”などという心躍るワードが現れるとは。
正直に言います。
私、スキルを自由に選択するタイプのゲームをやる時って、必ず魔法剣士を作る癖があるんですよ。
ええ、ええ。言いたいことはわかります。
大抵のゲームにおいて、魔法剣士はあまり強くないとされています。
魔法は魔法使いに劣り。
剣技では戦士に劣る。
器用貧乏。
それが、魔法剣士の“よくある”立ち位置です。
当然でしょう。
例えば、10ポイントしかないリソースを“物理攻撃力”と“魔法攻撃力”に割り振るとした場合、魔法剣士として育てると、どうしてもどっちつかずなキャラクターになってしまいます。
こういう時、どちらか片方に10ポイントを割り振ったほうが、最終的な戦闘力が高くなることが多いのです。
それでも。
それがわかっていても。
私は、魔法剣士に無限大の浪漫を感じるのでした。
なんていうかこう、色んな選択肢の中から相手の弱点を攻める戦法が好きなんですよ、私。
(日比谷さんの言っていた豚の怪物を目の前にして、不敵に微笑む私)
(『ファイアー』と私が唱えると、一瞬にしてできあがる豚の丸焼き)
(『……ふっ。今夜はみんなで、とんかつパーティーと洒落こみますか』)
なんちゃってなんちゃって!
ひゅー! カッコいい! カッコよすぎます!
そうと決まれば話は早い。
“スキルだま”に、格闘技術のスキルの存在が明示されていることから、魔法関係のスキルもまた、自力で取得できることは想像に難くありません。
では、いかにして魔法スキルを手に入れるか、ですが。
私は、震える手を落ち着かせ、適当なノートと筆記用具を引っ張りだします。
そして、これまでに取得してきたスキルから予想される、スキルツリーの大まかな予測を始めました。
☆【剣技系】で、すでに確認がとれているスキル。
《剣技(初級)》、《剣技(中級)》、《剣技(上級)》
《オートメンテナンス》《スーパーメンテナンス》《パーフェクトメンテナンス》
★【剣技系】で、今後取得できると予測されるスキル。
不明。
☆【格闘技術系】で、すでに確認がとれているスキル。
《格闘技術(初級)》
★【格闘技術系】で、今後取得できると予測されるスキル。
《格闘技術(中級)》、《格闘技術(上級)》
《必殺技Ⅰ》《必殺技Ⅱ》~
※これは、“スキルだま(格闘技術)”に『《必殺技Ⅰ》を覚える』という効能があったための推測です。《必殺技Ⅰ》があるなら、《必殺技Ⅱ》もあるでしょう。ひょっとするともっとあるのかもしれません。
☆【飢餓耐性系】で、すでに確認がとれているスキル。
《飢餓耐性(弱)》
★【飢餓耐性系】で、今後取得できると予測されるスキル。
《飢餓耐性(中)》、《飢餓耐性(強)》
☆【治癒系】で、すでに確認がとれているスキル。
《自然治癒(弱)》、《自然治癒(中)》、《自然治癒(強)》
《皮膚強化》
★【治癒系】で、今後取得できると予測されるスキル。
不明。
学校の授業に対するものとは別種の熱心さで、私はノートを埋めていきました。
「と、なると……」
考えながら、この中のどれが魔法関係のスキルに繋がる可能性が高いかを予測します。
シーンキーングターイム。
チッチッチッチッチッチッチッチッチ。
ちーん!
というわけで、今後の方針が決定。
もちろん、確証があるわけではありません。
ひょっとすると見当違いのスキルを選ぶ羽目になるかも。
ですが、どんなスキルを取得したとしても、それが無駄になるとも限りません。
使い勝手の悪いスキルなんてない。
ただ、使い方の悪いプレイヤーがいるだけ。(byわたし)
「“レベルだま”を下さい」
――では、アイテムを支給します。
すると、ぽよーんと、金色のガラス球のような物が手元に飛び込んできます。
いったんそれを横に置いて、次の処理へ。
――では、取得するスキルを選んで下さい。
――1、《剣技(上級)》
――2、《パーフェクトメンテナンス》
――3、《格闘技術(初級)》
――4、《飢餓耐性(弱)》
――5、《自然治癒(強)》
――6、《皮膚強化》
うーん。
今のところはまだ取るつもりはありませんが、一応《剣技(上級)》のスキルを確認。
――《剣技(上級)》を取得すると、あなたがこれまで生きてきた人生と同時間を剣道場の鍛錬に費やした場合と同程度の技術が即座に身につきます。
私の人生と同時間……というと、十八年ですか。
たしか《剣技(中級)》が十年だったから、まあそんなもんでしょうね。
しかし。
前述の通り、今回のお目当ては剣技系のスキルではありません。
私も、そろそろ長期的な視野をもってこの終末世界を生き抜く時がきたということです。
できれば、この先に素晴らしい未来が開けますように……!
「《飢餓耐性(弱)》で」
――では、取得するスキルを選んでください。
――1、《剣技(上級)》
――2、《パーフェクトメンテナンス》
――3、《格闘技術(初級)》
――4、《飢餓耐性(中)》
――5、《魔法スキル選択へ》
――6、《自然治癒(強)》
――7、《皮膚強化》
「おっほwwwwwwwww」
これはwwwwwww
拙者、思わず声を上げてしまったでござるwwww失敬wwwww
普段は草など生やさぬ性分の拙者でもwwwww本日ばかりはwwwww
……こほん。
私が《飢餓耐性》を選んだのは、単純な消去法でした。
【剣技】、【格闘技術】関係のスキルは、もちろん魔法とは対極のものに思えましたし、そう考えると、【治癒】関係のスキルも怪しい気がしていました。
そこで白羽の矢が立ったのが、これまで見向きもしなかった《飢餓耐性》のスキル。
最初のころ、この《飢餓耐性》から派生するスキルを「サバイバル系ではないか」と予測した記憶があります。
その延長で“火をおこしたり”“水を生み出したり”“電気を発生させたり”するスキルがあるのではないか、と考えたのでした。
しかし、ここまで考えた通りにいくとは。
勝算はあったとはいえ、我ながら運が良かったと言う他ありません。
「魔法スキルを選択しまーす♪」
――では、取得する魔法スキルを選んでください。
――1、《火系魔法Ⅰ》
――2、《水系魔法Ⅰ》
……ふむ。
最初の選択肢としては、こんなものですか。
さっき見た感じだと、この他に《雷系魔法》もあるようですが……恐らく、それを習得するには、何か別の条件があるのでしょう。
とりあえず、魔法の効果を確認してみます。
――《火系魔法Ⅰ》は、任意の呪文を唱えることで魔法を使えるようになります。
――《水系魔法Ⅰ》は、任意の呪文を唱えることで魔法を使えるようになります。
あらま。
できれば、どの程度の威力かだけでも知りたかったのですが。
残念ながら、魔法関係は、実際に取得することで効果を確認するしかないようですね。
「では、《火系魔法Ⅰ》を」
――では、スキル効果を反映します。
「ちょっと待ったあ!」
すかさず幻聴さんに声をかけます。
「倍プッシュだ……!」
手に入れたばかりの“レベルだま”、いま使わずしていつ使う。
ラスボスまで貴重なアイテムを温存する作戦は、ゲームの世界だけにしておきましょう。
私は、金色のガラス球のようなものを手に取り、床に叩きつけます。
同時に、モワモワモワっと白い煙が上がり、私の周囲を包みました。
――おめでとうございます! あなたのレベルが上がりました!
――では、しゅとくす……
「《火系魔法Ⅱ》で!」
食い気味の注文にも、幻聴さんは冷静に応えます。
――では、スキル効果を反映します。
……ふむ。
……むむむ。
むむむむむ?
《剣技》系のように、大きな変化が起こった実感はしませんが。
なんというか、頭の中に……新しく物を入れておける棚ができた感じ、とでも言いましょうか。
うーん。
とりあえず、小声で呟いてみます。
「《火系魔法Ⅰ》」
するとどうでしょう。
私の人差し指の先に、ライター程度の火力の火が灯っているではないですか。
「うわぁ……」
感動です。思ったより出力が低かったことは問題ではありません。
正真正銘。
手品でもなんでもない。
いま、現実として目の前に存在している魔法なのです。
私はしばらく、その火をつけたり消したり、火をつけたまま教室を走り回ったりして遊んでいました。
その結果、わかったこと。
どうやら、魔法は特定のキーワード(要するに呪文です)を唱えることで発動するようです。
そしてそのキーワードは、自由に決められるようでした。
とりあえず、《火系魔法Ⅰ》の名前は《ファイア》に決定。
では、次です。
「《火系魔法Ⅱ》」
唱えると、今度は私の手のひらの上に、こぶし大の火球が生まれました。
「わ、……わ、わ……」
少し焦ります。どう取り扱えばいいかわかりません。間違ってこぼしたりしたら、小火になりかねませんでした。かと言ってこのまま持っていても、手を火傷してしまいそう。
やむなく、窓の外に手を出して、軽く地面に向けて落としてみます。
ひゅー……、ぼっ。
地面に着地すると同時に火は消滅しました。
あ、ちょっと地面焦げてる。
うーん。これは、室内で使うのはちょっと危険そう。いつか、誰も見ていないところでこっそり練習することにしましょう。
とりあえず、《火系魔法Ⅱ》の名前は《ファイアーボール》にしときます。
「……ふう」
一人、興奮冷めやらぬ気持ちでいると、扉をノックする音が。
招き入れると、林太郎くん、理津子さん、明日香さんの三人組。
「そろそろ晩ごはんにしようと思うんです。いつものレトルト食品ですけど……一緒に食べません?」
「ええ、よろこんで」
みんなに続いて、部屋を出ようとした時のことです。
林太郎くんが、ふと、くんくんと鼻を鳴らしました。
「センパイ、なんか部屋で火でも焚いたか?」
「……。イイエベツニ?」
「そっかー。なんかちょっとだけ焦げ臭ぇなって思ってさ」
「キノセイデハ?」
「ならいいんだけどさー。……それより、さっさと飯にしようぜ! 俺、えびピラフのやつだかぁんな! ゆずらねーかんな!」
おお、危ない危ない。
林太郎くんの嗅覚、侮りがたし、です。




