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JK無双 終わる世界の救い方   作者: 蒼蟲夕也
フェイズ1「ゾンビだらけの世の中ですが、剣と魔法で無双します」
27/433

その27 迫るカイジュウの危機

 学校の玄関口に近づくと、ものすごい勢いで三人の生徒が駆けてきました。


「せんぱぁああああああああああああああああああああああああああいっ」


 明日香さん、理津子さん、林太郎くんの三人です。


「同い年なのにセンパイは……」

「せんぱぁああああああああああああああああああい!」


 むぎゅっ。


「愛してます愛してますぅうううううううううう! もう離しません!」

「…………………センパイッ。良かった!」


 前は理津子さん。

 後ろは明日香さん。

 美少女サンドウィッチです。


「もがもごっ」


 美少女ってすごいんですよ。二人ともしばらくお風呂入ってないはずなのに、なんか良い匂いがするんです。

 ま、もちろん嬉しくともなんともないですけどね。

 なにせ私、れっきとした女の子ですから(さっきのこと、ちょっと気にしている)!


「ちゅーしましょっ、ちゅー!」


 眼前の明日香さんが、熱烈に迫ってきます。

 あれ? いつの間にかこの世界、百合畑の人しかいなくなってました?

 とにかく、初チューを女子に奪われることだけは避けなければなりませぬ。

 明日香さんの唇を、反射的に手で塞ぎます。


「むちゅううううううううううううううううううううううう」


 うわあああああああー。

 手のひらが。

 手のひらがなんか、すっごい吸われてる。


「う、うわぁい。お、お、俺も……っ」


 どさくさに紛れて一緒に抱きつこうとした林太郎くんに、理津子さんが無言で裏拳を叩き込みます。


「もげらっ。ひでえっ」

「……自業自得だ。ばか」


 キツいお仕置きをもらいながらも、林太郎くんは笑みを崩しません。


「でも、みんなマジで心配してたんだぜ、センパイ。昨日はどこいたんす?」


 私は、簡単に“キャプテン”から離れたあとの展開(足を怪我して、ドラッグストアに身を隠していたこと)を話します。


「怪我? 怪我をしたんですか、センパイ?」


 明日香さんが、心配そうに眉を寄せました。


「少し転んだだけです。大したことはありません」

「なら、いいんですけど……」


 そして、悩ましげな吐息。


「とりあえず、コースケと会ってやってください。あの馬鹿、昨日から一睡もしてないんです」

「ありゃ」


 まあ、ある程度は予想していたことですが。

 彼、少し思い悩みすぎる性質ありますからね。セカイ系ロボットアニメの主人公みたいに。



 みんなと別れた後、私は会合が開かれているという、二年三組の教室に来ていました。

扉を開けると、


「何度でも言おう。なるべく早く移動をはじめなければ、我々の生命はない。これは……」


 みんなに向かって、見慣れない男性が発言しているところでした。


「センパイっ」


 こちらに気づいて顔を輝かせたのは、会合の参加者の一人、康介くん。


「無事だったんですね。良かった……」


 私の帰還に、その場に居たみなさん全員が、口々に歓びます。


 いやはや。照れますなあ。


 ひとしきり和やかなムードが流れた後、


「君が噂の“彼女”かね」


 先程まで、みんなの前で厳しい表情を浮かべていた男性が口を開きました。

 私は、彼と康介くんを見比べて、ようやく彼の正体に気づきます。

 “キャプテン”の屋上でも一度だけ顔を合わせていましたね。


「康介くんのお父さんですか」

「そうだ。日比谷紀夫と言う。よろしく」


 ぎゅっと手を握られます。ごつごつした、力強い手のひらでした。


 その時です。

 頭の中に、例のぱんぱかぱーんというファンファーレが鳴り響きました。


――おめでとうございます! あなたのレベルが上がりました!

――おめでとうございます! あなたのレベルが上がりました!


 おっと、このタイミングですか。

 しかも、二度もレベルアップするとは。こりゃ幸先いいですね。

 とりあえず、スキル選択はあとでじっくり悩むとして、今はみなさんとの会話に集中しましょう。


「――話によると、君は命の恩人らしいな」

「ええ、まあ。そうらしいですね」

「……ところで、小早川さんは?」


 私は眉をひそめます。


「コバヤカワ、というのは?」

「君も、“キャプテン”で顔を合わせていたはずだ。我々をここまで連れて来てくれた自衛隊員の男性だよ」

「ああ。あの人、小早川って名前だったんですか。彼は……」


 事情を説明します。

 絶体絶命の危機に、その小早川さんが現れて、私を救ってくれたこと。

 そして、自らの身を捧げるようにして“ゾンビ”の餌食になっていったこと。


 話し終えると、紀夫さんは見るからに落胆した様子で肩を落としました。


「そうか……自分から……」

「どうも、軽く錯乱してるみたいでしたけど」

「若いが責任感の強い男でね。だが、キャンプでの一件で仲間をたくさん喪ったらしく、ずいぶん気に病んでいたようだ」

「キャンプでの一件? ……それに、さっきの話も。ここを出なければならない理由っていうのは?」


 尋ねると、佐々木先生が口を挟みます。


「それなんだが……ウウム。あたしァ、ちょっと信じられんのだが。……君、“ドラゴン”を目にしたというのは本当かね」


 先生は、訝しげな視線を私に向けています。


「見ましたけど」


 正直に答えると、教室内の大人たちがざわつき始めました。


「それは、いつ?」

「一週間と少し前。私がこの学校に来る前のことです」


 佐々木先生は、深く深くため息を吐いた後、


「他ならぬ“彼女”が言うのだ。間違いなかろう」

「ええと。話が見えないのですが。最初から順番に説明していただけます?」


 すると、日比谷紀夫さんが苦々しい表情で言いました。


「豚が出たのだ」

「豚? 食用だったり、意外ときれい好きだったりする、あの?」

「そうだ。その豚だ」


 ちなみに、豚肉はカツレツにするのが好みです。


「もちろん豚と言っても、ただの豚じゃない」


 日比谷紀夫さんは、自分の言葉を世界中に知らしめるように、両腕を広げました。


「――こぉーんなにでっかい、豚の“怪獣”だ!」


 その時の私の顔は、さぞかしぽかんとしていたことでしょう。


 同時に、何故だか、みんなの視線が私に集中します。

 「だ、そうだけど。どう思う?」と。

 そう訊ねられている気がしました。


「ええと、……どうぞ。続けてください」

「うむ」


 重々しく頷く日比谷紀夫さんは、少なくとも正気に見えました。


 その後の紀夫さんの話を要約すると、こうなります。


 ここから十キロほど向こうに、頑丈なフェンスに囲われた、大きめの工場がある。

 そこに、自衛隊員が指揮するキャンプ地があったそうです。

 日比谷さん一家は、そのキャンプにしばらく世話になっていたようでした。

 そんなある日のことです。

 ぶぎぃー。ぶぎぎぃー、という、下手くそが吹くラッパのような音が、どこかから聞こえてきました。

 その、数十秒後。

 女性の悲鳴のような鋭い異音と共に、“何か”がキャンプ地に襲来します。

 “何か”は、鋼鉄のフェンスを安々と引き裂き、数人の自衛隊員を血祭りに上げました。

 いち早く事態に気がついた紀夫さんは、その“何か”の正体を目にします。


 それは、――巨大な豚の“怪獣”でした。


 体高は3メートルほど。口からは、二本の巨大な牙が生えていたそうです。

 そこから先は、滅茶苦茶でした。

 破壊されたフェンスから侵入してきた“ゾンビ”と、豚の“怪獣”に蹂躙されたキャンプ地の人々は、散り散りになってしまったそうです。

 家族を連れた日比谷紀夫さんは、自衛隊員の小早川一等陸士と共に、軍用トラックで逃げ出し、――息子が無事かもしれない、という一縷の望みにすがって“雅ヶ丘高校”を目指しました。

 そして、今に至る、……と。

 そういうことらしく。


「なるほど。巨大な豚さんですか……」


 その呟きに疑惑の念を感じ取ったのでしょうか。康介くんが口を挟みます。


「センパイ。親父は、嘘をつくような人じゃないっす」

「別に、疑っているわけじゃありません。“ゾンビ”がいて“ドラゴン”もいて、豚の“怪獣”もいる。ただそれだけのことです」


 私は、率直な意見を口にします。

 康介くんは、力ない口調で、「……ですよね」と同意するだけでした。


「ところで、その豚の“怪獣”とやら、全部で何匹いました?」

「わからん。私が見たのは一匹だけだが、他にもいるかもしれん」

「自衛隊員のみなさんは、当然武装していたわけですよね。銃は効いていました?」

「……どうだろう。奴の姿を見た次の瞬間には、一目散に逃げ出したよ。家族をキャンプから連れ出すことだけを考えていた」

「となると、自衛隊に豚の“怪獣”がやられた可能性もあるのでは?」

「そうかもしれん。だが、そうではないかもしれん。だから……」


 ここから一刻も早く動いたほうがいい、と。


 数秒だけ考えこんでから、私は深く嘆息しました。


「しかし、他に安全な場所があるという保証がありません。あるいは、ここを動かないのが最良の選択かもしれません」

「それだよっ。私が言いたかったのは」


 佐々木先生が、甲高い声を上げて立ち上がりました。


「我々もこの一週間、地獄を見てきた。だからわかる。世界のルールは根本から変わっちまった。“ゾンビ”の他にも……その、豚の怪物だかなんだかがいてもおかしくないことは認めよう。……けどねぇ、日比谷さん。あんたの言ってることは無茶ってモンだよ。ここにはお年寄りもいる。急に、あの歩く屍どもの間をすり抜けてどこか遠くへ逃げおおせるとは思えん」

「別に、全ての人間に賛同してもらおうとは思わない。動けるものだけ動けばいい」


 その言葉に一番驚いていたのは、実の息子、日比谷康介くんです。


「なっ……。親父、さすがにそれはないって。それじゃあまるで、ここの人を見捨てろって言ってるようなもんじゃないか」

「康介、お前は黙ってなさい」

「言っとくけど、俺はここを去るつもりはない。俺はみんなと一緒だ」

「その件については、後で話す。今は父さんに任せなさい」

「ガキを諭すみたいな言い方はやめろよ!」


 歯をむき出しにして怒る康介くん。

 私はというと、二人の会話を完全に無視して、訊ねます。


「紀夫さん」

「……なんだね?」

「何か……豚の“怪獣”の弱点のようなものは?」


 紀夫さんは眉を八の字にして、


「弱点?」

「体高は3メートルほどだという話ですが、皮膚の厚みはどれくらいでしょう? 日本刀の刃は通りそうでしたか?」

「なにを……君は何を聞いているんだ?」


 腕を組んだまま、私はぼんやりと応えます。


「ああ、いえ。一応、戦ったら殺せるかどうか確認しておきたくて」


 今度は、紀夫さんがぽかんとした表情をする番でした。


「君は……いつもそんな感じなのかね?」

「……? そんな感じ、というのは?」

「ああ、いや。なんでもない」


 なんか、紀夫さんの好感度が大きく下がったような気がしたんですけど。どっかで選択肢ミスったかな(恋愛シミュレーションゲーム脳)?


「……とにかく。康介も見つかったことだし、ここには短い間しか世話にならないつもりだ。ついてくるものがいるなら拒まない。私がいいたいのは、それだけだ」


 2年3組の教室が、重苦しい沈黙に包まれます。


 そこから先は、特に新しい意見が出るわけでもなく。

 麻田剛三さんの号令により、会合は一時解散となったのでした。


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