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JK無双 終わる世界の救い方   作者: 蒼蟲夕也
フェイズ1「ゾンビだらけの世の中ですが、剣と魔法で無双します」
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その26 ただいまー

 血の池地獄と化したドラッグストア前を抜けて、私は商店街を走っていました。


『ぉおおおおおおおおおおおお……』


 と、四匹の“ゾンビ”が眼前に立ち塞がります。

 人を喰らう屍を前にして、自分でも意外に思えるほど、恐怖を感じません。


 ただ、「いける」という実感だけがありました。


「――ッ!」


 祖父の形見の日本刀を、軽く握りしめます。

 今ではそれを、自分の身体の一部のように感じることができていました。

 刀を通して、ものに触れることができていました。

 自分の手の届く範囲を、感覚的に知ることができるように。


 私は、最小限の力で刀を振るいます。


 まず、手前にいる“ゾンビ”から。

 その額を、掠めるように。

 たったそれだけの動作で、頭蓋の一部を裂き、脳の破壊に成功します。

 続けてもう一匹。

 上段に構えた刀。その腹で撫でるように。

 次、間髪容れず、眼球に突き。

 最後。脳天目掛けて一撃。

 ぱぁんと景気のいい音がして、“ゾンビ”の頭蓋が完全に破砕しました。


「……よしッ」


 小声で呟きます。

 《剣技(中級)》のスキルを得た今の私にとって、もはや“ゾンビ”は敵ではないように思えました。

 ……まあ、そんなふうに調子乗ってたら、いずれ痛い目みそうですけども。

 何より、連中には一撃必殺の噛みつき攻撃があるわけですしね。


 慢心、ダメ、絶対。


 とはいえ、昨日は千里の道に思えた学校までの道のりも、いまでは軽く散歩コースの心持ち。


 道中の“ゾンビ”を積極的に仕留めることはしませんでした。

 今の最優先事項は、とりあえず学校への帰還を果たすことです。足の遅い“ゾンビ”どもにかまけて取り囲まれでもしたら、それこそ笑い話にもなりません。


 全体、街にいる“ゾンビ”の数は多くないように思えました。“キャプテン”に集まっていた連中は、うまいこと街のあちこちに散らばってくれているようです。


 ただし、やはり学校に生者が存在していることには“ゾンビ”たちも気づいているらしく。

 徐々に、切り抜けなければならない“ゾンビ”の数が増えていきました。


 学校の正門にたどり着いたころには、十数匹の“ゾンビ”の群れに追われる形になっています。


 とりあえず、正門に張り付いている、二匹の“ゾンビ”を瞬殺。

 同時に、私はできるかぎり大声で、


「誰かいますか?」


 と訊ねます。

 すると、


「……センパイ?」


 門の後ろから、少年の声が。

 痩せっぽちの竹中勇雄くんが、文庫本を取り落としているのが見えます。


「嘘だろ……すげえっ。さすがセンパイだっ。俺、昨夜の花火観ました。やっぱり無事だったんすね!」

「話は後っ! さっさと開けてください」

「ちょ、ちょ、ちょ、ちょ、ちょっと待ってください……」


 そこで私の背後に迫る“ゾンビ”に気がついたのか、竹中くんは慌ててポケットをまさぐります。


「俺ら、センパイがいつ戻ってもいいように、全部の門に見張りを立ててたんす……」


 御託はいいので、早くしてほしいところ。


「えーっ、あーっ。あったあった! 待っててください! すぐ開けます!」


 その頃には、“ゾンビ”たちはかなり肉薄していました。


 あーっ。もう。

 まだるっこしい。


 私は、最も足の速い“ゾンビ”の脛を峰打ちで払って、その頭部をぶった斬ります。

 そして、膝をついている“ゾンビ”の肩上を踏み台にして、棒高跳びの要領で思い切り跳ねました。

 正門の高さは三メートルより少し高い程度でしょうか。


 私はそれを、一飛びで乗り越えます。


「――ッ!?」


 鍵を半ば門に差し込んだまま、呆然とした表情で固まっている竹中くん。


「ただいまー」

「えっ……あっ……ハイ。……ドーモお疲れ様でした、センパイ」


 ぼんやりとした返答。

 一拍遅れてから、竹中くんはいつもの調子を取り戻したらしく。


「みんな心配してましたよ。俺も、寝ずの番です」

「あら、そうだったんですか。なんか悪いことしましたね」

「とんでもない!」


 竹中くんは心底驚いたような口調で言います。


「俺、センパイやコースケと違って戦えないですから。この程度はやらせてください」


 いやまあ。

 彼が寒空の下で凍えている間、私『コ●ン』読んでたりしてたわけですし。

 そう思うとちょっとだけ罪悪感。


「で、康介くんのご両親は?」

「三人とも無事です。康介に会ってください……きっと大喜びっす」

「はあ」


 私としては、やるべきことをやっただけで、大した実感はないんですけど。結果的にですが、良い思い(お風呂)もできた訳ですし。


 まあ、知らないおっさんのちん●ん見せつけられる羽目になったりもしましたけど。


「その後、他に何かありました?」

「ええっと、大したことは。……あっ、でも、小さい事件が一つだけ。センパイは中田ってやつ、覚えてます?」

「中田……中田。うーん、そんな人いました?」


 新キャラかな?


「一応、センパイとも顔合わせてたはずですけど。ちょっとシュッとした感じの男前で……背の高い」

「その中田くんが、どうかしました?」

「先週から、三人の女子それぞれにシャクさせてたらしくて、女子勢から袋叩きにあいました」

「……? シャク?」

「シャクってのはその、尺八のことす」


 ……尺八?

 中国を起源とする伝統的な木管楽器の話題が、何故ここで?

 よくわかりませんが、なんか男女の諍い的なことが起こったとか、そういうことでしょうか。


「公然とリンチが行われた、と? 穏やかじゃないですね」

「ああ……いやいや。そういうんじゃなくて。あ、でも一発くらい平手打ちはもらってたかな……とにかく、批判の的になったって意味です」

「なるほど」

「俺たち男子からすると爆笑案件ですけど。『中田氏なのに口でさせんのかよ』っつって」


 はっはっは、と快活に笑う竹中くん。

 そこでようやく、彼の言葉の真意を察します。

 さすがに顔をしかめました。


「……そういう話って、あんまり女子に対して、喜々として話すようなことではないのでは?」


 すると竹中くんは、慌てて弁明のような何かを始めます。


「あー、いや。でも、俺が知る限り、事件っつったらそれくらいしか……」


 なるほど。極めて平和だった、と。


「それになんか、センパイってそういう話題でも気軽に受け止めてくれそうなオーラ、あるじゃないですか」


 どういうオーラでしょうか。

 っていうかそれって、褒められてるんですかね?


「ほら、センパイってちょっと、精神的に男子っぽいとこあるし」


 がーん、がーん、がーん……。

 その言葉に、私は静かに傷つきました。


「だ……だだだだ、男子っぽい……?」

「ああ……っ。えーっと。違うんです。俺、センパイはすっごくチャーミングだと思ってて……。でも、なんつーか、自由なメンタリティを備えてる感じががするっつーか、男友達みたいになんでも話せちまうっていうか。あーくそ、俺、なんでこんな話してんだ……」


 どうやら、竹中くんも混乱しているようで。


「とにかく、そういう話しやすいとこも含めて、俺、センパイのことが好きです。……ええと、もちろん、みんなもそう思ってると思います」


 竹中くんは必死にフォローしてくれている様子ですが、大した慰めにはなりませんでした。

 私は深く嘆息した後、校舎へ足を向けます。


 ふと、竹中くんが先ほどまで読んでいた文庫本が目に止まりました。


 太宰治の、――『人間失格』。


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― 新着の感想 ―
折角「歌」を使ったのに結局白兵戦になってしまって、歌もったいなかったですね。
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