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JK無双 終わる世界の救い方   作者: 蒼蟲夕也
フェイズ1「ゾンビだらけの世の中ですが、剣と魔法で無双します」
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その25 たった一日のスローライフ

 ……いけない。こまった。どうしよう。


 時刻は朝の六時過ぎ。


 お布団を頭までかぶりながら、私は、一切の身動きが封じられていました。


 めんどい。

 どこにも行きたくない。

 ずっとここでこうしていたい。


 それは、本心から出た気持ちでした。

 まるでベッドに縫い付けられたかのように、私は横になったままでいます。

 全てはこの、電気毛布とかいうやつがいけないのです。

 布団の中がぬくぬくすぎて、朝の冷気を肌に晒すのが耐えられません。

 ぐむむ。


 やむなく、私は布団の中にくるまったまま、この部屋の持ち主が収集していたと思しき廉価版(コンビニとかでよく売ってるやつ)の『名探偵コ●ン』を読み始めます。


 一瞬にして数時間が経過しました。


 すごい。

 終末の世界にいて、なお面白いぞ『●ナン』。

 それにしても青●剛昌先生、ご無事でしょうか。こんな状況ですが、なんとか生き抜いてちゃんとお話を完結させてほしいですね。


 きゅるるとお腹が悲鳴を上げて、私はようやく立ち上がることに成功します。

 のそのそとキッチンへと向かい、冷蔵庫の中身を腐りやすそうなものを選んで、取り出します。

 とりあえず卵。そして野菜。

 牛肉もいただきましょう。どうせ長居はしないのです。たぶん。


 そして私は、一人暮らし流奥義を発揮します。


「秘術、とりあえず焼肉のタレと一緒に炒めればなんでもオカズっぽい味になるの術~」


 それに、インスタントの味噌汁とご飯。あとたくあんのお漬物。


 味噌汁を一口。

 そして卵を絡めた牛肉野菜炒めを一口。

 こりこりとたくあんを口に含んで、どんぶりいっぱいのご飯をかっこみます。


 しあわせ。

 え? 朝からこの献立は重すぎるって? 私もそう思います。いたいけな女子が口にして良い量ではないこともわかっています。


 ですが、今の私の身体は、ものすごい量の栄養を必要としていました。正直、自分の身体によくこんな量の食べ物が入るな、と感心するほどに。

 絶対、胃袋の許容量以上のものを食べてるはずなんです。

 あるいは、謎の幻聴がもたらしたスーパーパワーの副作用なのかもしれません。


 食事を済ませて、またベッドにごろり。

 ちょっとだけ眠ってから『コナ●』をキリの良いとこまで読み終えた頃には、私の中にとある考えが浮かんでいました。


 我ながら、大胆な試みです。

 世間様に対する冒涜と言っても良い悪事です。


「……お風呂、入ってみようかな……?」


 つまりはそーいうことでした。


 (貯水槽にはまだ十分な蓄えがあるとはいえ、)早々に水道が使えなくなった今、学校においては節水が心がけられています。

 この一週間、シャワーを浴びることが許されたのは、たったの二度だけ。それも冷水のシャワーでした。少しずつ暖かくなってきたとはいえ、まだ二月の末のことです。みんなは半泣きになりながら、それでも久方ぶりのシャワーを浴びていました。


 そういう状況下で。

 私は、湯船に浸かるという恐るべき贅沢な計画を企てていたのでした。


 幸い、ここには十分な量のお水があります。飲料用ですけど。


 さっそく私はカセットコンロと電気ポットを利用し、湯を沸かし始めます。


 それと平行して、着ていた服を全て洗濯機に突っ込み、バスタオル一枚の姿になります。


 準備には、一時間ほどかかりました。

 ちょうど洗濯が終わったと同時に、湯船が熱い湯で満たされます。

 私はほとんど半裸の状態で服を干してから、お風呂にどぼーんしました。


「お、おおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉハンパネェ…………」


 至福。


 ひょっとすると、もう二度とこのような贅沢は許されないかもしれません。


 だからこそ、その時私が感じた幸福は、何ものにも代えがたいところがありました。


 ……と、その時。

 ぶつんっ。

 と音がして、お風呂の電灯が消えます。


 どうやら、電気を使いすぎたみたいです。

 その後、スイッチをいくら操作しても電気がつくことはありませんでした。


 まあ、いいんですけどね。むしろここを出る踏ん切りがつくというもの。


 お風呂を出て、冷蔵庫の中のもので最後のお昼ごはんを作って。


 その頃にはちょうど乾いていたジャージを身にまとい。

 ドラッグストアの中から、かさばらない程度の食料と水、その他諸々の必需品を確保して、準備万端です。


 ちょうどこの店に転がり込んでから、丸一日が経過していました。


 ――また来よう。


 心の中で、そう決心します。

 とにかく、今は学校に戻らなくては。

 あんまりぐずぐずしていると、学校の人たちが私を探しに来ないとも限りません。

 責任感の強い康介くんあたりなら、ありえそうな話でした。


「……ふう」


 身も心もリフレッシュした私は、小さくため息をつきます。

 正義の味方の辛いとこですね。


 私は、刀を持ったまま、建物の屋上に立ちます。


 見下ろすと、十数匹ほどの“ゾンビ”が、『オーウオォー』と飽きもせずこちらに手を伸ばしていました。


「……こほん」


 私の手には、一枚の楽譜。タイトルは“死神のうた”。


 多分ですけど、これを使わなくても、今の私なら連中と真っ向勝負ができる気がします。


 それでも。


 私は、できることなら身奇麗なまま、この場を切り抜けてしまいたかったのです。


 何故か、ですって?

 だって女の子ですもの☆


「では……みなさん! 聴いてください!」


 私は、ステージに立つアイドルのような口調で、両手を広げました。


「――るーるららー♪ るらるらー♪ 死ね死ね死ね地獄に堕ちろ♪ みんなくたばれー♪」


 …………。

 ………………………。

 ……………………………あれ?


 なにも起こらない? 歌詞間違えた? ひょっとして、私がオンチだから効果が現れないとか?

 そんな馬鹿な。

 お一人様カラオケを嗜むという高機動型ぼっちぶりを発揮して、日々誰に聴かせるわけでもない歌唱力を磨いてきた私の歌が――


 ぼん、ぼん、ぼぼぼぼん、ぼん! ぼぼぼぼぼぼぼぼぼぼ!


 瞬間、眼下に見える“ゾンビ”たちの耳から、ものすごい勢いの血液が噴出しました。

 よくわかりませんが、“ゾンビ”が次々と斃れていきます。


 お陰で、ドラッグストアの看板が血染めになりました。

 こんな毒々しい看板の薬局、誰も入りたがらないでしょうね。


――おめでとうございます! 実績“ターミネーター”を獲得しました!


 ついでに実績もゲット。

 一度にたくさんの“ゾンビ”を始末したことと関係あるのかな?

 ただ、今は先を急ぐことを優先したほうが良さそうです。


 報酬の選択は、学校に着いてからの楽しみにとっておきましょう。



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