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JK無双 終わる世界の救い方   作者: 蒼蟲夕也
フェイズ3「つよくてニューゲーム」
195/433

その189 夜久銀助

 ”キャプテン”の店内を覗き込むと、中はすっかり閑散としていました。

 どうも、ここの食品棚は全て分解された上、バリケードに再利用されたようで。


「へーっ。商品がなくなったスーパーって、こんなふうに見えるんですねーっ」


 無邪気にそう呟きながら、私はだだっ広い店内を見回します。


 ”キャプテン”の内壁は今や、子供の落書き帳のようになっていました。

 雑多に描かれた絵の上から、大きく書き殴られた一篇の詩の如きものを、私はぼんやり読み上げます。


「この世は所詮、ドタバタ劇。――ここに悲劇はなく、喜劇があるだけ、ですか」


 悲観的なような、それでいて前向きなような。


「事態はどんどん良くなってますから。あんまり気にしないことですよ」

「ふむ……」


 そーいわれましても。

 こっちの主観では、昨日までフツーにゲームしてアニメ見て漫画読んで、次に実装されるソシャゲのイベントについて考察したりしていたら、――ある日突然、世界がこんなふうにひっくり返ってた感じなわけで。


 私の心にもやもやが生まれつつあります。

 えらいことになってきたなあ、と。


「バーキソは」

「?」

「近所にあった、バーガー木曽は、もう……」

「それは、その。……残念ながら」


 これには、がつんと頭を叩かれたような気持ちになりました。私、あそこのハンバーガー大好きだったのに。もう食べられないなんて。


「でも、設備は残ってますし。うまくすればあの味を再現することはできるかも」

「本当ですか?」

「バーキソは雅高生(みやこうせい)の憩いの場所でしたからねー。きっと賛同者が現れてくれるかと」

「終末世界における就職先が決まったようですね。――我が人生をかけてでも、あの味を再現する、という……」

「ふふふ」


 麻田さんは困ったように笑って、


「戦わないセンパイは、そういうことを考える人だったんですね」

「喧嘩が強くたって、根っこは変わりませんよ」

「だったら良いんですけど。――それじゃ、そろそろ次へ……」


 と、その時でした。

 しばらく車を走らせていなかったであろうアスファルトの道路を、一台のバイクが爆走しているのを観たのは。

 ブロオォオオオオン! と、ガソリンが爆発する音と共に、私たちの前をバイクが横切ります。

 私は目を丸くして、


「おおっ、かっこいい」


 と、少々脳天気な感想を漏らしました。


 ライダーは、ベージュのコートをなびかせた肩幅の広い男性。

 ぱっと見てわかる、彼の異常な点は三つ。

 まず、バイクに乗っているにも拘わらず、ヘルメットを被っていないということ。

 もう一つは、このクソ暑い状況にも拘わらず、ずいぶん温かい格好であること。

 そして最後に、――サバゲー屋さんでしか見たことがないようなフルフェイスのマスクに黒いゴーグルを装着していて、その顔面が完全に隠れている、ということ。

 サバゲーマーとゲーム実況者を除いて、ここまで厳重に顔を隠す人間を私は知りません。


 男性は、バイクをその場でぐるりと回転させて、キュルキュルキュルキュル、と、人気のない道路にタイヤ痕を残します。

 そして、格好良い感じの角度でバイクを止めて、


「ようっ!」


 と、お気楽なご挨拶。


「あ、ども」


 ひょっとすると前の私の知り合いでしょうか……とも思いましたが、麻田さんの険しい顔つきを見るに、初対面のようです。


「”終わらせるもの”で間違いないな?」


 その渋い声質からして、歳は四十過ぎ……といったところでしょうか?


「――は?」

「一応、名乗っておく。俺は夜久。夜久(やく)銀助(ぎんすけ)だ。やっさん、あるいはギンさんとでも読んでくれ」

「はあ」


 そして私に突きつけられたのは、――映画の中でしかみたことがない、黒光りする鋼鉄の筒。

 それが機関銃と呼ばれる武器であることに気付くまで、かなりの時間が必要でした。

 よく遊ぶFPSに登場するため、その正式な名称まで知っています。

 トンプソン・サブマシンガン。

 禁酒法時代のギャングがよく使っていたとされるその銃の別名は、――シカゴ・タイプライターと呼ばれていたそうです。

 コート姿の男に銃火器を突きつけられる、という。

 まるで、ギャング映画のワンシーンを切り取ったような状況に晒されて。


「ほへ?」


 きっとその時の私は、まさしく”鳩が豆鉄砲を食ったよう”であったに違いありません。

 事態を正確に把握していたのは、むしろ麻田さんの方でした。

 彼女は唇を真一文字に結び、私の盾になるように立ち塞がります。


「あなた、何者ですか? 何の目的で現れたの?」


 男は麻田さんの質問を完全に無視して、真っ直ぐ私だけを注視しています。

 気のせいか、彼の目がゴーグル越しに蒼く輝いたように見えました。


「おいおい。……ずいぶんのんびりしたプレイヤーもいたもんだな! 武器もなしで普通人とお散歩か!」

「失礼。――おっしゃる意味が……」

「あんただって気付いてるはずだろ? ”()()()()3()()()()()()()()()()()()()()?」

「フェイズ……?」


 何それ。

 ゾンビだとか怪獣だとか、そういうワードは聞いていますが……。


「全ての”プレイヤー”にクエストは言い渡されているはずだ」

「クエスト? ……なんです? それ」


 そう、私が問いかけた瞬間でした。

 どこかで聞いたことがあるような、男でも女でもない中性的な声が、


――”終末”以降のあなたの記憶を消去しました。

――記憶を取り戻してください。

――手段は問いません。


 と、応えてくれます。


「で、――俺のクエストが、嬢ちゃんを殺すか、”従属”させるって話さ」

「え……あ…………」


 すっかり狼狽している私の様子を見て、夜久さんは蕩々と説明します。


「まぁ、――そっちに勝負するつもりがないってんなら、”従属”してくれりゃあ許してやる。どうだい?」


 私はというと、


――え、殺されないで済むの? やったーじゃあその”従属”ってやつしまぁす!


 と応えようとして、……その時でした。


「ふざけないで!」


 布を引き裂くような声で、麻田さんが反駁したのは。


「どこともしらないマスクのヘンタイさんに、センパイが”従属”するもんですか!」


 えっ?

 ちょ。

 相手、銃持ってる。

 この娘、さすがにそれは。


 すると銃火器を掲げた男性は、映画の登場人物のようにわざとらしく肩をすくめました。


「まあ、だよな。――楽に済む仕事じゃねえことはわかってたさ」


 そして、トミーガンの安全装置を解除して、


「そんじゃぁ、いっちょうやるか!」


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