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JK無双 終わる世界の救い方   作者: 蒼蟲夕也
フェイズ1「ゾンビだらけの世の中ですが、剣と魔法で無双します」
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その17 助けるか見捨てるか

 竹中勇雄くんが、マーケット“キャプテン”の屋上に人影を見たのは、今から十数分ほど前。

 彼が見たのは、康介くんのご両親と妹さん、それに見知らぬ同行者の男性が一人。

 同行している男性は自衛隊員と思しき人で、なんとか式とかいう自動小銃で武装しているようでした。恐らく、ここまで康介くんの家族を保護してきたのは彼でしょう。


 目的地はこの学校であったと推測されますが、道中、“ゾンビ”の群れに遭遇。命からがら“キャプテン”の屋上に逃げたこんだはいいものの、退路を断たれ、たまたま停まっていたトラックの上に飛び乗った末に立ち往生。……そこを竹中くんが発見した、と。

 そういう流れのようです。


 今、彼らの周囲にはコミックマーケットの壁サークルもかくやという“ゾンビ”の群れができあがりつつありました。


「とりあえず、俺は行くっす。――今すぐにでも」


 康介くんの口調は断定的でした。


「わーかっとる! わーかっとる!」


 佐々木先生が例の甲高い声で言います。


「だが、状況を見てみなさい。ちょっと見ただけでも百匹はいるぞ。どうするつもりだ」


「それでも」


 康介くんの口ぶりは、噛みつくようでした。


「行かなくちゃいけないんす。わかるでしょ?」


「わーかっとる!」


 佐々木先生はもう一度同じ口調で応えます。


「だが、なんの作戦も立てずにいくのは無謀だと言っとる!」

「じゃあ先生は、俺の、……俺の家族を、見殺しにしろっつーんすか!」


 口が滑れば、「ぶち殺すぞ」とでも付け足しそうな剣幕でした。


 対する佐々木先生は、わりといつもどおりに見えます。

 案外、生徒から怖い顔をされるのに慣れているのかもしれません。


「ま、まあ、少し落ち着きなさい、日比谷くん」


 むしろ、隣にいる麻田剛三さんの方がうろたえているようでした。


「もちろん、何か作戦があって、それが安全だと判断できたなら、すぐにでもその案を採用するがね。何も考えずに向かっても、ただの無駄死だとは思わんか? 火に群がる虫けらと一緒だぞ、それじゃあ」

「はあ? そんなの、やってみないとわからんじゃないっすかっ」


 うーん。

 なんといいますか。

 見たところ、康介くんは冷静さを失っているようです。

 佐々木先生も佐々木先生で、もうちょっと言葉選べばいいのに。


「はぁ……………」


 小さく嘆息します。


 まー。

 たぶん。

 きっとこういう時のために、謎の超常的存在から力を与えられたんでしょうね、私は。


 正直気は進みませんが、どうやらここは、私の出番、と。

 そういうことになりそうです。


「そんじゃ、提案してもいいですか」


 手を挙げると、佐々木先生が顔をしかめてこちらを見ます。


「えーと。そこの赤ジャージのお前、名前なんつったっけ。まあいいや」


 やっぱコイツ、ウンコ野郎ですね。


「何かあるなら、言ってみなさい」

「私が囮になって“ゾンビ”を引きつけます。その間、別働隊が日比谷くんの家族を救出するというのはどうでしょう」

「なんだと……?」

「それは、……いくらなんでも、危険過ぎるっす」


 佐々木先生と康介くん、二人ともが同じ表情を作ります。


「危険過ぎるというか……それ以前の問題だ。確かに君は腕が立つかもしれんが、あれだけたくさんの“ゾンビ”を相手にできるわけがない」


 道理でした。

 正面から“ゾンビ”と相対するだけでもリスキーなのに、それを百匹以上相手にするなど、どう考えても無謀だと言えます。


 “ゾンビ”の恐ろしさは、個々の膂力が強いことだけではありません。自分の命を一切考慮に入れずに襲い掛かってくる点にあります。


 正直に言いましょう。

 今の私の腕では、三体以上の“ゾンビ”を一度に相手にする自信がありません。


 現状、“ゾンビ”一匹を仕留めるには、

 「構える→頭部を突く→剣を引き抜く」

 という、三つの動作が必要です。


 一対一であれば負ける心配はありませんが、その方法でたくさんの“ゾンビ”をさばけるかどうか、となると……難しいところでしょう。


 故に、私が提案しているのはほとんど自殺行為に等しい作戦でした。

 ですが、まあ。

 もし、日比谷一家を助けられる者がいるとしたら、私の他にはいないでしょうし。


 「ロボットみたいに悩まない」と噂される通り、内心の焦りを微塵も感じさせずに断じます。


「大丈夫です。勝算はあります。なんとかなりますよ」


 私は平然と嘘を吐きました。


「本当かね……?」

「ただし、同行するメンツは私が決定します。もちろん、その人が『行ってもいい』と言ってくれたら、ですが」

「フム……」


 佐々木先生と麻田さんが、顔を見合わせます。

 「“彼女”がそう言うなら」。顔にそう書いていました。

 なるほど、どうやら私の力は、思っている以上に過大評価されているようで。


 あれ?

 ひょっとして私、鬼かなんかだと思われてません?


「この作戦なら、犠牲になる確率が高いのは私だけでしょう。一人の命で四人救えるならば、考えるまでもないのでは?」


 それに、万一のことがあっても、例の自衛隊員の人がここの防衛について考えてくれるはずです。

 このコミュニティを存続させるためには、私なんかよりも、ちゃんとした訓練を受けている彼の能力が必要だと思われました。


「ちなみに、連れていくのは、誰を?」


 私は答えます。


「少数精鋭で出ます。救出に向かうのは、今野林太郎くんと、君野明日香さんの二人。それ以外の人は、ここに待機していただきます」


 「えっ」という、康介くんの驚く声が聞こえました。

 私はそれを無視して、


「林太郎くんと明日香さんを除いて、異論反論は受け付けません。時間もありません。決めるなら、いま、この瞬間。数分以内にお願いします」


 みなさん、しばらく言葉もなく押し黙りました。


 助けを求める手を払いのけるか。

 仲間を犠牲にして賭けに出るか。

 私が迫っているのは要するに、そういう二択です。


 時間して、たっぷり数十秒の沈黙の後。


 汚れ役を引き受けたのは、大方の予想していた通りの人。

 佐々木葉介先生。


 彼は、泥を吐き出すような深いため息を吐いた後、言いました。


「……わかった。すぐに準備しなさい」


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