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JK無双 終わる世界の救い方   作者: 蒼蟲夕也
フェイズ2「俺のダンジョンを越えてゆけ」
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その159 秘密のメッセージ

『もし今後、あたしとの連絡手段が失われても……』

『心配しないで♪ きっとメッセージを残しておくから☆』

『大丈夫。わかりにくいものじゃない♪ ――きっとあなたはそれに気づく』


 思えばそれが、春菜との最後の通信だった。

 この期に及んで、まだ秘密主義か。

 ……その時は、そんな風に思ったものだが。


(なるほどな、オレサマに気を遣ってくれたのか)


 “賭博師”の表情に、苦渋の色が混ざる。

 どうやらあのゴスロリ女に、また一つ借りを作ったらしい。


 何気なくPCの画面に視線を遣っているふりをしながら、“賭博師”は脳をフル回転させて、春菜からのメッセージを読み解いていた。

 “戦士”は気づいていないだろう。監視者である“王”も。

 ()()に気づくことが出来たのは、《ペテン》持ちの“賭博師”だけだ。


 “マスターダンジョン”最後の課題である、“ゲーム#4”。

 その中のテキストに、一部、フォントのサイズの違うものが紛れ込んでいる。

 普通であれば気にならないほどの僅かな違いだったが、“賭博師”はその差を見抜き、メッセージを受け取ることができていた。


(『こ』……『れ』……『を』……『よ』……『ん』……『で』……)

『これを読んでるってことは、私と連絡がつかなくなってるってことだよね。』


 おっしゃるとおり。

 ”王”がこちらを警戒するようになってからずっと、――春菜と連絡が取れなくなっている。


(あるいはもう、やられちまったか)


 “賭博師”は、その場の誰にも感情の起伏を悟られないよう、小さく嘆息した。

 そこで、


「よっしゃ! これ、グッドエンドルート入ったでしょう!」


 “戦士”の歓声が上がって、思考が断ち切られる。


「いやー、これ、思ったより奥深いですねえ。恋愛シミュレーションゲームっていうよりは、どっちかっていうとチェスみたいです」

「だろ?」

「まさかこの、背景絵で手持ち無沙汰にボンヤリしているコイツが真田くんだったとは……!」

「プロローグにヒントを仕込んでいてね。真田視点では表示されていないキャラに気づけるかどうかが伏線になってる」


 ……楽しそうでなにより、だ。


 いったんゲームのコツを覚えた“戦士”の快進撃は、大したものだった。

 当初、物語の主人公だと思われた真田義男くんは今、登場する全ての女性キャラクターから侮蔑の視線を送られる糞野郎と成り果てている。


「くけけけけけ! いまさら幼なじみと関係を修復しようとしても無駄だァー! 何せ、みんなお前のことを薄汚いストーカー野郎だと思ってますからねぇー?」


 血走った表情でヒロインを攻略していく相棒を横目に、引き続き、春菜からのメッセージを読み解いていく。


(『さ』……『さ』……『え』……『や』……『え』……『に』……『し』……)

『笹枝や縁さんは、“王”を倒すのにあなたたちが十分な力を持ってると考えてる。でも残念ながら、私はそうは思えない。』


 ゲームの進捗も暗号の解読も、順調に進んでいた。


「ヒャッハアもう我慢できねえ! こうなったらとことん地獄に堕ちてもらうぜぇ! ……肥溜めに落ちやがれェェェェェ!」


 赤髪のご両親の前で緊張のあまり、土石流のような糞便を漏らしてしまう真田くん。

 金髪にぬいぐるみをプレゼントしたら、中にぎっしり縮れ毛が詰まっていることが判明する真田くん。

 青髪の目の前で小学生集団にボコられ、ズボンと一緒にパンツまでもぎ取られてしまう真田くん。

 緑髪に、若さ故の過ちというには少しドギツ過ぎる趣向のエロ本コレクションを見られてしまう真田くん。


 “戦士”はもはや、喜々として真田くんを陥れるべく工作活動に勤しむ闇の化身であった。

 それでも、先へ進むにはそうするしかない。ひどいゲームである。

 もちろんその間も、“賭博師”は春菜からのメッセージを読み解くのに集中していた。


(『す』……『で』……『に』……『つ』……『た』……『え』……『た』……)

『すでに伝えた作戦では、“王”を仕留めるのに、一手、足りない気がするの。

 だから“賭博師”。あなたにもう一つだけ、逆転の切り札を伝えておくよ。』


 逆転、か。

 なるほど春菜らしい。


(『か』……『ぎ』……『に』……『な』……『る』……『の』……『は』……)

『鍵になるのは、あなたがひた隠しにしているスキル。

 ――《運命の操作》。

 わかってるよね? 全部秘密にしたまま、”戦士(あのこ)”と一緒に居続けることはできないって』


 もちろん、わかってるさ。

 だが、()()()()()()

 それで、――自分はまた、孤独に戻る。

 薄汚れた自分の心と向き合いながら。



「悪く思わないで下さい、真田くん……悪いのは、何度も何度も、私の可愛い金髪ちゃんを寝とった報いなのです……フヒヒッ」


 『とき恋』は今、”戦士”の策略により真田くんの大好物が美少女のケツに寄生したぎょう虫だということが全校生徒に知れ渡ったところであった。


「ザマァー! このぎょう虫かじり虫が!」


 人が変わったように暗い笑みを浮かべる“戦士”。

 どうやらコイツ、かなり没入してゲームをプレイするタチらしい。ゲームに集中していたせいで辺りが”ゾンビ”だらけになってることにすら気づかなかったほどだから、無理もないか。


「さよなら、真田くん。あなたは悪くありませんが、あなたの非凡なモテ属性が悪いのですよ……」


 画面に表示されているのは、修学旅行中、”偶然”足を踏み外して崖に落ちかけている真田くんの一枚絵。

 選択肢は、


『1、助ける』

『2、見て見ぬふり』

『3、むしろ積極的に落としにいく』


 もちろん”戦士”が選択するのは『3、むしろ積極的に落としにいく』だろう。

 彼女はこの日のために、入念な殺人計画を進めてきていたのである。


「これで、……トドメだぁああああああああああああああああああああああ!」

「待ちな」


 そこで”賭博師”は、エンターキーを押そうとしている相棒の手を掴んだ。


「……わっとッ! ……なんなんですか急にもー邪魔しないでくださいよいまイイトコロなんですから!」

「まあ、落ち着けって」


 友人をなだめつつ。


「ちょいとばかり天啓が下ってな。ここで『3』はマズい」

「てんけー?」


 ぽかんとした表情の“戦士”。

 対して、すぐそばにいた太めの男――”ダンジョンマスター”、仲道縁は、安堵の表情だった。

 やはり。

 どうやら、わざわざ”戦士”を誘導したのは、秘密のメッセージを読ませるためだったらしい。


「当初の目的を思いだせ。ゲームのクリア条件は、――真田くんを地獄に落とすことじゃなかったろ」

「あれ? そうでしたっけ?」


 ぽかんとした表情の“戦士”。

 時々思うのだがコイツ、本当はバカなのかもしれない。


「”いずれかのヒロインのグッドエンドを迎えること”だ。さっきから見てりゃあオメー、ヒロインをないがしろにしちまってるじゃねえか」

「……だってしょうがないじゃん、そうしないとすぐNTR展開に」

「気持ちはわかるが。――もうそろそろヒロインと向き合う頃合いじゃねえの」

「しかしいま、ヤツを完全に潰しておかなければ、いつまた悲劇に見舞われるかわかったものでは……」


 ”賭博師”は、有無を言わせずにマウスを奪い取って、


「オレサマを信じろ。ここは、――」


『1、助ける』


 を、選択。

 するとどうだろう。

 無駄に感動的なBGMが流れ、真田くんが泣く泣く感謝の言葉を述べ始めたではないか。


『ありがとう、ありがとう! なんだかさいきん、悪いことばかり続いていたから、もう死んでもいいかと思っていたところなんだ。でも、君のお陰で生きる勇気が湧いてきたよ!』


 そして、岩の裏に隠れていたヒロインたちがぱちぱちと拍手しながら登場し、主人公を褒め称えるのだった。


『ずっと見ていたわ! 真田くんのようなビチグソ野郎を助けるなんて、あなたは本当に優しい人なのね!』

『カッコいい!』

『男らしい!』

『結婚して!』


 そして、――怒涛の勢いでハッピーエンディングへと突入する。

 ”戦士”は、しばらく硬直した後、


「な、……納得いかねぇー、……このオチ……」


 苦笑する。無理もない。――恐らくこのシナリオは、急ごしらえで作られたものなのだから。

 ただ、それをこの場で説明するわけにもいかず。


「細かいこと気にするなよ。どーせクソみたいな同人ゲーだ。そうだろ?」


 応える”ダンジョンマスター”の目の下には、くっきりと徹夜の痕跡が見えて。


「そ、そうっすね……ははははは……」


 力なく、へらへらと笑うのだった。


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