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人魔大戦 近所の悪魔殺し(デビルスレイヤー)【六章連載中】  作者: 村本 凪
第三章 血河駆けるは銀の風

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地平一新の銀世界

「この私相手に啖呵(たんか)を切ったのよ。形成が悪くなったら後ろに下がれるなんて思わない事ね!」


 ラウラが、ドン!っと地面を強く踏みしめる。


 すると恐るべきことに、地面にパキンと高く乾いた音が響き、次の瞬間には平地全面が白い(しも)(おお)われたのだ。


 地面の表面だけとはいえ、一瞬のうちに凍結させる魔法。それだけでも十分に脅威と言える魔法だが、何もラウラは自分の魔法をひけらかしたり、不甲斐ない翔を追い込むために魔法を使って見せたのではない。


 地面が凍ることによる副次効果、それを狙っていたのだ。


「なっ!?足がっ!」


 そう、本来この場所は、大木によって陽光がさえぎられる森の中。太陽という熱が届かない大地は、湿気を多く含んでいる。


 そんな場所を数分とはいえ、激しく動き回ったのだ。当然、靴には泥が大きく付着していた。凍り付かせるにはもってこいの、水分を多く含んだ泥を。


 翔は凍結によって、両足を地面に()()められてしまったのだ。


「何驚いて隙を(さら)しているのよ。みっともない」


 身動きを封じられたことで生じた隙。それをラウラが見逃すはずもない。


 一気に翔の元まで距離を詰めると、左手をピンと伸ばし、手刀の構えを見せる。


(マズい!ラウラさんが自分に叩きつけられた木刀を一瞬で凍らせた時点で気付くべきだった!

 今のラウラさんは、物体を凍結させる能力を持っている。触られたりしたらその時点でお終いだ!)


 間接的にしか触れていなかった十数メートル半径の地面を丸ごと凍結させる魔法なのだ。36、7度しかない人体の表面程度であれば、凍らせることなど朝飯前だろう。


 両足を凍らされた時点で、行動の自由を大きく阻害されたのだ。全身を凍らされたら、近接攻撃能力しかない翔は、その時点でジエンドだ。


 こんな(ろく)に構えも踏ん張りも出来ない状態で、ラウラに痛手を与えることは出来ない。そう考えた翔は、木刀を握る右手に加えて左手で先端を握り、払うよりも(はじ)き飛ばすことを優先した動きで迎撃を試みた。


「一度私を弾き飛ばすことで体勢を整える、お利口さんの動きね。

 けれど覚えておきなさい。安直な正攻法は簡単に見透かされる、無謀な奇策にも劣る行動だということを!」


 そう言ってラウラは、あからさまに構えていた手刀をあっさりと解いた。そして、翔に向かって膝蹴りを放ったのだ。


 翔より一回りも小さいラウラによる膝蹴り。その短いリーチゆえに通常のものであれば、翔も手刀が膝蹴りに変わっただけと考え、あっさりと防御に成功しただろう。


 けれど、悪魔と長い年月戦い続け、生き残った真の実力者である大戦勝者(テレファスレイヤー)の攻撃がそんなぬるいものであるはずが無い。


 またも突然鳴り響く異音、今度はビシリと先ほどより低く、そして大きく響いた音によって彼女の攻撃は姿を変えた。


 彼女の膝を起点として、翔へ向けて伸びる氷柱が生えたのだ。


「ごっ!?があぁぁぁ!!!」


 急激な攻撃の変化は、手刀を弾こうと木刀を横向きに構えていた翔では、身動き一つ封じられていた翔では対応しようがなかった。


 腹部に痛烈な一撃を貰い、衝撃で()がれた足元の氷も相まって、大きく吹き飛ばされる。


「ぐうぅああぁぁぁ!!!」


 さらに翔への追撃は止まない。通常であれば彼を優しく受け止めてくれるはずの柔らかく湿った地面、それは今、ラウラの魔法によって霜が張り付く天然のおろし金に変化している。


 そんな場所を勢いよく転がればどうなるか。聞くまでもない。皮膚や肉が野菜の(ごと)()()ろされることになる。


「く、くそっ!はっ!はぁ.......!」


 おまけに今の衝撃で流れ落ちた血液は、地面と触れることで先ほどの靴と同じように凍り付こうとしていた。


 翔に出来るのは、全身を()()められぬよう、呼吸も整わぬうちに急いで立ち上がることだけだった。


「すぐに立ち上がったことだけは褒めてあげる。けど、結果的にはあなたという盾は、また勝手に下がったことになった。

 これがどういうことか、分かっているわね?」


「分かっています!」


 パキリ、パキリと霜を踏みしめながらラウラが翔に歩み寄る。打撲痕(だぼくこん)(ひど)()り傷、地面を転がったことによって、服までボロボロな翔に対して、被害と言えるのは頭に木刀を受けたことで、帽子に出来た(しわ)程度のラウラ。まさに圧倒的な差だった。


 じわじわと下がっていく周囲の気温に反比例するように、ラウラの怒りのボルテージが上がっていくのが翔にはわかった。


 当然だ。翔はたった今、不本意とはいえまたしても守るべき対象を放ったまま、自分だけ無様に下がってしまったのだ。


 これが本番の戦いだったら。荒い言葉とは裏腹に最低限の手加減をしてくれているラウラではなく、血の魔王との戦いだったら。


 そうなればその後に広がる光景は、翔を信じて攻撃役を引き受けてくれたニナが血の海に沈んでいく絶望の光景だろう。


 翔はそれを実現させるわけにはいかない。そしてそれはラウラも同じだ。


 これは防衛役である翔に役割を遂行しきることを教える訓練であると同時に、血の魔王との前哨戦でもあるのだ。だからラウラは本気で怒る。死なない程度に翔を痛めつける。その裏に隠された本気でニナの命を守りたいと考える想いは、翔にもしっかりと伝わった。


 だから翔も見せてやらねばいけない。格上だろう血の魔王と渡り合えるだけの力量を、ニナを守り切れるとラウラに思わせる可能性を。


(だからこのまま受け身の姿勢を取るだけじゃだめだ!強い魔法ってのは、相手に全容を見破られる前に相手を殺しきるだけの力がある!)


 防衛という役割のみを考えれば、翔の役目はニナが血の魔王を討伐しきるまで彼女を守り切ることだ。しかし、それを実行するには彼の魔法の性質は防衛向きではなく、おまけに純粋な力量も足りていない。


 ならば足りない部分を何か別の物で埋め合わせなければ、ジリ貧になるのはこちら側だ。


(今の俺に出来るのは、相手に近付いて勢いのままに叩き潰すことだけ。なら、それで下手くそな守りの埋め合わせをするしかない!)


 彼に出来るのはひたむきに、ただがむしゃらに攻め込み続けるだけ。しかし、今この場でそれだけでは足りない。圧倒的な力の前では、多少の武道の才能など無きに等しいことが、証明されてしまった。


(そして、その間に考えるんだ。ニナを守る形を、俺の新しい魔法を)


 だからこそ、翔はこの訓練で生み出す必要があるのだ。これまでの自分に足りなかった守りの力を。どっしりと構え、何者も通すことは許さない砦のような魔法を。


 普通であれば、土壇場そんなものを生み出すことなど不可能だ。けれど、翔の魔法は創造魔法、イメージとそれを生み出すに足る魔力さえあれば、無から有を生み出せる。知識の魔王の言を信じるのなら、世界すら生み出すことが出来る。


 出来るというならやらねばならない。成功させなければいけない。そうすることで守れる命があるのなら。


(「あなたが頑張れば頑張るだけ、未来を生きることが出来る人間が増える。だから死ぬ気で突っ走りなさい!」)


 フライト前に伝えられた麗子の言葉を思い出す。


(その通りだ。俺が無茶するだけで救える命があるのなら、無茶程度、いくらだってやってやる!それだけだ!)


 ゆっくりと歩み寄ってくるラウラに、翔は木刀を構えなおした。そうして頭は熱が出るほど回転し、反対に心は外気ほどに低く冷たく、(しず)ませた。


 翔の可能性を見出す戦いが、あらためて始まった。

次回更新は4/6の予定です。

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