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人魔大戦 近所の悪魔殺し(デビルスレイヤー)【六章連載中】  作者: 村本 凪
第六章 怨嗟の煌めきは心すら溶かして

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飛躍する魔法の可能性

 ハプスベルタの反撃が凄まじい衝撃だったのだろう。眼下には見事にひっくり返る大サソリの姿。何かと劇的な演出を好む彼女だが、今回も実に上手くスポットライトの独占に成功したらしい。


「助かった事には感謝しかねぇけど、お前それ、どんな原理で浮いてるんだ?」


 突如現れた援軍に感謝しつつも、翔の目には困惑の色が浮かんでいた。なぜなら、ハプスベルタが大サソリの尻尾を迎撃したのは空中。今の彼女は文字通り、宙に浮かんでいるとしか表現出来なかったからだ。


 いつかの折にダンタリアから教えられた言葉だ。魔法は万能、けれどそれ故に多くのしがらみに縛られる。


 翔やマルティナが空を飛ぶのに翼を必要としたように、あのダンタリアでさえホウキを利用したように。魔法で空を飛ぶにはそれなりの根拠がいるのだ。魔力量に幅を利かせて宙を舞うというのは、絶対にありえない現象なのだ。


「ん? あぁ、ほら」


 そんな翔の困惑を理解したのだろう。ハプスベルタは端的に、己の足元を指差した。


「なんだその足場?」


 翔がハプスベルタの足元に目をやれば、そこにあったのは手の平サイズにも満たない小さな足場だった。


 形は長方形。材質は固い印象を受ける。こんなものが空に自然発生するのなら、世界の航空事故件数は数倍に跳ね上がっている事だろう。つまり、この足場はハプスベルタの魔法によって生み出されたものなのは間違いない。


 しかし翔には、ハプスベルタの魔法と足場の生成が今一つ結び付かなかった。


 ハプスベルタの魔法は配下であり自身の武器にもなる凡百達を、好きに取り出して好きに仕舞う魔法であった筈だ。いくら彼女が白兵戦を好む魔王と言えど、空に足場を生み出す要素とは噛み合わない。


 ならば、存在は聞かされているハプスベルタの根源魔法によるものか。いいや、それも違うだろう。


 なぜなら魔王クラスの根源魔法にもなれば、その性質は本人のアイデンティティをこれでもかと発揮したものになる。見聞きするだけでも、腑に落ちる魔法に固まっているのだ。


 その点を考えれば、目の前の足場はまるでハプスベルタと合致しない。どこかに隠れたダンタリアが、こっそり補助をしているといった方がまだ頷けた。


「うん? まさかこれでも気付かないかい?」


「あいにく、こちとら詰め込み教育の真っ最中な魔法使いの卵なんだよ。一言一句で魔法を読み取れるほど、洗練されてねぇんだよ」


「......そういえばそうだったか。輝かしい戦績にばかり目がいって、翔のキャリアについては二の次としていたよ。これでは察しの悪さを笑うなんて出来ないな。なら、ほら」


「誰の察しが悪い、って、うおっ!?」


 流れるようにハプスベルタが行ったのは、飽きるほど見せられた凡百達の生成魔法。けれど、見慣れた光景である筈のそれは、今回ばかりは違う景色に見えた。いつも手元に出現させていた凡百達が、彼女の上下左右あらゆる周囲に出現したからだ。


「その反応を見るに、剣を手元へ出現させるだけの魔法と思っていたのだろう? 確かに、その要素を一番に活用していると言えば真実になる。だけど、魔法をどう活かすかなんて術者の想像力次第だよ」


 そう言うとハプスベルタは、取り出す寸前である柄の一本へと飛び移った。さらに上空にあった柄を手で掴み、振り子の原理で遠方に生み出した柄へと飛び移る。その活用法はまさに、足場の正体を語っているにふさわしかった。


「......ハッキリ言って驚いてる。けど、それは凡百達に許される使い方なのか?」


 思い返せばハプスベルタの魔法は、出現と抜き放ちの二つの動作で構成されていた。出現時点で触れる事が可能なのなら、確かに活用法は武器だけでは無くなる。だが同時に、彼女の武器は総じて意志を持っていた筈。


 足場という本来の用途からかけ離れた活用法は、当人達も納得しているのか。あまりに自然体な使用故に答えは分かっていたが、翔はあえてハプスベルタに質問した。


「もちろんだとも。そもそも、剣の根源とは生き抜く力だ。その形状故に力で制する事ばかりに目が行きがちだが、邪魔な草木に立ち塞がれた時、地面を掘り返して湧水を探す時。そんな時にだって、生身よりも先に剣を用いるだろう?」


「それは、そうだけど」


「足場にする事も同じだとも。私達の根源は使われてこそなんだ。用途の良し悪しなんて些事なんだ。使われて名を残す。それこそが最大限の名誉であり、それこそが剣にとっての成功なんだよ」


「......分かんねぇけど、分かった気がする」


 要するに、凡百達はまるで気にしていないという事なのだろう。


 そもそもが使い手や環境の問題で、満足に武功を立てられなかった者達だ。足場として使われるだけでも、彼らは使用してもらえたという充足にありつける。そのたった一歩分の足場が勝機を見出せば、自身のアイデンティティ確立へも一歩近づく。


 利益しか無いのだから文句が出る筈も無い。翔が考えていた不満なんてものは、すでに成功した剣の悪魔達レベルの意見であったのだ。


「それに、足場なら刃の不慣れは関係無い」


「なんだこれ?」


 ハプスベルタ指差したのは、翔の足元。彼が下へと目をやれば、そこには似たような形で出現した凡百の柄があった。


「本来は私しか抜き放てないようにしているんだけどね。今回ばかりは特別だ。翔にも空を歩く経験をさせてあげようと思ってね」


「それは......!」


 いくら翔の擬翼が高出力と言えども、空中は水中に次いで不自由な空間だ。曲がるだけでも大きな弧を描く必要があり、ブレーキ一つも余計な動作と時間がかかる。しかし、もしも踏み止まる足場があれば、自身の腕で軌道を変えられる物体があれば。動きは圧倒的に進化する。


「あちらもダウンから起き上がったようだからね。試運転の相手にはちょうどいい。さぁ、準備は良いかい?」


 見ればひっくり返っていた大サソリも、地面に潜り込む形で体勢を立て直していた。どちらにせよ、あのデカブツを倒せなければ悠長に地面の掘削など行えない。凛花のためにも、切れる手札は多い方がいい。


「あぁ! 頼む!」


 大サソリがこちらへ向かって刃と尻尾を振り上げる。


 その瞬間を待っていたかのように、翔とハプスベルタは弾かれたように飛び出すのであった。

次回更新は9/6の予定です。

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