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男人禁制の国アマズ・ハイネ ⑨ 怪我の功名

『馬鹿がよ、何考えてんだ』

 闇の中で、そいつは声だけを出していた。

深淵ちからを使うなら俺を呼べと、あれだけ口を酸っぱくして言っただろう』

 そんな事を言っていた気がする――夢の中なのに、ゼノは口を動かすことすら億劫だった。そういった説教ごとすら辟易していて、ただぼーっと言われるがままにそれを聞いていた。

『このまま身勝手に使ってりゃ、暴発しちまうぞ。それこそ黒影あいつみたいに真っ黒になってよ、自分も味方も、何もかもわからなくなって、怒りや憎しみのままに暴走することになる』

 そいつもまた、うんざりしたような口調だった。

 また、だから言っただろ、と嘆息する。

『表裏一体なんかじゃないんだぞ。今のお前も、あの時のお前も、全てがお前だ。だからこそ自分が自分である故を、確信を持ち続けろ』

 また男は言った。

『お前は誰だ』

「――僕、は」

 無意識に口が動いた。同時に、昨晩の記憶が蘇る。

 漆黒に染まった腕。怒りによって真っ赤に血が上った頭、視界。激しい闘争本能に、破壊本能。

 そう、あれも紛うことなき己の一部だ。

 これを否定してはいけない。そして普段の自分も、また自分自身だ。

 彼が危惧している事は恐らく、この二つが邂逅せず解離し全く別の二つになってしまうこと。それからなる自我の崩壊。ゼノ自身も、数時間の体験でその悪い予感はあった。

 だから言った。言い聞かせるつもりでもあった。

「僕は、ゼノ・ロステイト。今も、昔も、これからも」

『ああそうだ、馬鹿野郎。お前は寂しがりやで弱虫で、見栄っ張りのむっつり野郎だ』

 言いすぎだろう、と反論しようとした時。

 意識は不意に、プツリ、と途切れた。

 その最後の刹那に『またな』とどこか楽しげな声が聞こえたような、気がした。


     ❖    ❖     ❖


 意識はまだ微睡んでいた。

 身体は冷えていて、温かい布団に包まれているのがわかる。手近に暖かく柔らかいなにかがあって、本能的にそれを抱き寄せて顔を埋めた。

 それはすべすべで、肌触りがもちもちとして異様なほどに柔らかい。

 瞬間、ゼノはそれを理解して背筋を凍らせた。全身を包み込んでいた優しい眠気が一瞬にして払拭され、ゼノは目を見開いてそれから離れようとする。

 が、それとほぼ同時に頭を抱え込まれるようにして拘束される。

 ゼノは慌てて顔を上げるようにして暗闇に包まれた視界を開放する。その先に、穏やかに寝息を立てている褐色の女の姿があった。

 モカ・ナリイである。

 そして必死に目だけを動かして辺りを見渡す。

 どうやらそこは天蓋付きの寝台の上であり、他に人が居る様子はない。

 なぜこんな状況なのか、ゼノにはわからない。そもそもディーネから離れた後からの記憶が曖昧だ。

 血の臭いが無い様子からしてまた風呂に入ったのかもしれないが、それでもモカと同じ布団の中にいる理由は出てこない。

「ふにゅ……」

 そんな事を考えているうちに、モカは呻くような声を漏らしながら大きく息を吐く。甘い吐息が鼻腔を掠めた。

 やがて、長いまつ毛がピクピクと何度か跳ねてから、ゆっくりとその特徴的な大きな目が開いた。

 少しの間ぼうっと虚空を見てから、やがて自身が抱いているなにかに気づいたように視線を落とす。

 ゼノと視線が交錯して、ややあってから、にこっと笑った。

「なんじゃ、主さんや? ふふっ、わらわの布団の潜り込んでくるとはかわゆいのう」

 ふふっ、とモカは笑って、抱きしめる頭をさらに引き寄せる。また胸に顔が埋もれて、ゼノは慌てて身体を引き離した。

「じょ、女王――す、すみませんでした! 記憶があやふやで、なぜここに居るのかわかりませんが……」

 寝台から転がるようにしてモカの手を逃れ、そのまま落ちるようにして床に着地する。

 立ち上がると、ようやくゼノは気がついた。

 あれほどクタクタだった身体はすっかり疲れを消していて、さらに言えば昨晩の傷もまったく残っていない。確か腕を噛みつかれ、背を切り裂かれ、腿も爪で貫かれていたと思っていたが……。

 それはおろか、上半身は何も身につけていない事にも気づく。下はパンツ一枚だけといった様相だ。

「なんじゃ、夕べの事を覚えておらぬのか?」

 袖のない薄手の布一枚だけを着ているモカは、その緩い胸元から深く谷間を覗かせている。横たわったまま肘枕をしてゼノへ微笑んだ。

「申し訳ありません、何も……」

「くくっ、案外主さんも初心なんじゃのう。おなごにそういう事を言わせるものではないぞ?」

「え、あ、いや……え?」

 理解が出来ない。だが状況からして、予測は出来る。

 嘘だろう、とゼノは固まった。思考が停止している最中に、またモカがくつくつと笑い始める。

「くくっ、冗談よ。夕べ主さんが帰ってきた時はひどい有様じゃった。竜人の娘の方は魔術師の子狸がなんとかしてくれておったが、逆にそっちで手一杯での。主さんは傷だらけで身体が冷え切っておったから、風呂で温め、こうしてわらわが手ずから人肌で温めてやったのよ」

「……女王様、冗談が過ぎます」

 一瞬で青く血の気の引いた顔に、熱が戻ってくるのがわかった。ゼノは大きく息を吐きながら胸を撫で下ろす。

 またその様子を楽しそうに見て笑い、そうして彼女もようやく布団から抜け出してきた。

 布一枚に、ひどく丈の短いショーツだけという格好で目のやり場に困る。だがそれも気にせず、彼女は手近なテーブルに畳んで置いてあった衣類を、ゼノへ投げ渡した。

「それを着んさい。竜人の娘らは、ここの対面の部屋におる――それに、主の事はリナと、看守のエミリにしか話しておらん。館から人は払っておるが、外には出ないほうが得策じゃな」

 彼女は言いながら、近くの窓から外を眺める。そこからは館から伸びる道、そして町の門までが見下ろせた。

 ゼノは服を着ながら、その後ろについて外を見る。

 門を抜けてすぐにある広場には、大勢の人が集まっている。

 皆が皆一様に黙り込んでいて、彼女らの前に年老いた老婆が杖を掲げ、何かを唱えているようだった。

「……あれはなんですか?」

「葬儀じゃよ。黒影騎士は倒された……一段落した所で、散っていった者たちを弔っておる」

「……」

 ゼノはそれに対して、返す言葉を見つけることが出来なかった。

 己のせいだ、と思ってしまう。どうやって連中が己の行き先を知り得て、アマズを巻き込んだのかはわからない。だが奴らは間違いなく己を狙っていて、彼女たちはただ被害にあっただけなのだ。

 謝って済むものではないし、逆にその行為で相手を煽ってしまう事もある。

 許してくれなどとは、口が裂けても言えない。許しは請うものではないと、ゼノ自身思っているからだ。

「ほれ、主さんは生きていて、先へ進む者じゃ。後ろを向くのは似合わんよ」

 ばん! と彼女は力強くゼノの背中を叩いて、にっこりと笑ってみせた。

「もし弔ってくれる気持ちがあるのなら、それは、主さんが目的を果たす事がそれに繋がると、わらわは思うよ」

 目的を果たす――それは、深淵を終わらせる事。

 ゼノは彼女の言葉に小さく頷き、また、小さく頭を下げた。

「ありがとうございます、女王」

「モカで構わんし。ほれ、竜人も、子狸も心配しておる。見舞ってさんし」

「はい。何から何まで、ありがとうございます」

 ゼノはその言葉だけを残して、部屋を後にする。

 ふー、と息を吐きながら、モカはまた寝台に腰掛けた。

「ゼノ・ロステイト……主さんの旅路が、せめて安らかであるよう……」

 既に無い彼の背中を思いながら、モカは小さくそう呟いていた。


     ❖    ❖    ❖


 言われた通りに向かった先の扉を開いた時、アンジェリーナは大きな口を開けていた。

 部屋は客室のようで、手広い空間に二つの寝台が置かれていて、その他にもタンスやテーブルなど適当な調度類が設えてあった。

 奥の窓際にある寝台に居るアンジェリーナは、顎がはずれそうなほど大きな口を開け、やがてクロルが差し出すスプーンを咥えていた。

 まるで小鳥が親鳥から餌を貰うようだ、とゼノは思う。

 ただ――。

「アンジュ」

 ゆっくりと進み始めた歩調は、気づくと半ば走っているような速度になっていた。

 呼びかけによってようやくゼノの存在に気づいた二人は驚いたように肩を弾ませるが、ゼノは構わずアンジュの傍らまで駆け寄り、

「アンジュ!」

 眉根を潜め、瞳を潤わせたゼノを見て、アンジェリーナはただひたすらに困惑していた。

 アンジェリーナは上肢を起こしていたが、見えている範囲のほとんどが包帯でグルグル巻きにされている。顔などは鼻から頬が重点的に分厚く包帯で覆われていて、額もしっかりと固定されている。

 痛ましい姿だ。

 だが、生きている。血色は良く、表情も普段通り彼を見るなり嫌そうな顔をして、開いていた目を半眼にしている。

「アンジュ――」

「――うるさい! うるさいんだお前は! ブロッサムさんと呼べと言っているだろうが!」

「無事で何よりだ、怪我は酷いが……生きていてくれて、ありがとう」

「はん、あの程度でわたしが死ぬわけ無いだろう」

 それに、と彼女は言った。

「怪我の見た目は酷いが、そこまで深くはない。クロルのお陰だ……それでも、一ヶ月は安静にとの見立てだが」

「良かった……」

 言いながらゼノはひざまずき、アンジェリーナの手を握る。だが彼女は即座にそれを振り払ってみせた。

「触るなすけべ」

 キッと睨みつけるようにゼノを見てから、少し頬を緩めて嘆息した。

「ま、お前のお陰で助かった訳だ。その点は感謝するが……お前の撒いた種だ、お前が相手するのは当然だよな」

「ああ。君には迷惑を掛けてしまって申し訳ない」

 言いながら、寝台の向こうに座るクロルを一瞥する。彼女はスープの入った皿を膝の上に乗せたまま、表情を暗くして俯いている。

 アンジェリーナへ視線で問いかけるが、彼女もわからないようで首を傾げて肩をすくめた。

「クロル……? 君も、アンジュの治療をしてくれてありがとう。夕べの状態からここまで持ち直せたのは君のお陰なんだろう?」

「……はい、まあ」

 恐る恐る、と言ったように声を掛けると、そんな歯切れの悪い言葉が返ってきた。

 訳は知らないが、あまり機嫌が良くなさそうだ、とゼノは思った。既に彼女と出会って一ヶ月近くが経つが、そんな表情を見るのは今日が初めてだったものだから、ゼノとしてはどう対応すべきかわからない。

 彼女も年頃の女の子だ。女性同士にしかわからないことがあるのかもしれない、そう考えて、ゼノは一歩後ろ退った。

「アンジュ、食事中に失礼した。また少ししたら来るよ、何か欲しいものはあるかい?」

「ん? あ、いや特には……でも折角お前をコキ使えるチャンスか。勿体無いな」

「ははっ、無いなら無いでいいよ。また来るし、その時にでもお使いくらいならするから」

「んん……そうだな。あの黒影騎士をどう倒したのかも聞きたいし、その時に」

「うん」

 言って、手を上げ別れを告げる。背を向けて扉に手をかけようとした瞬間に、後ろからガチャン! と食器が叩きつけられたような大きな音がした。

 ゼノは驚いて振り返る。するとクロルは俯いたまま、堅く拳を握ったまま、立ち上がっていた。

「ゼノさんは……今回、亡くなった方達に手向ける言葉はないんですか……?」

 ――クロルは考えていた。

 昨晩、ゼノが女王と入浴していた時。いかがわしい事をしていたとしても、自分が口を出す理由も資格もないと思っていた。

 だがその後駆けつけた場所では、多くの死体があった。リナは既にそれを経験していて今回は二度目だったから冷静そのものだったが、そんな彼女でさえ悲痛な表情を浮かべていた。

 あの血の臭いが、まだ鼻についている。

 あの敵は、ゼノを狙ってきていた。その話は恐らく女王と共に居る時点で聞いていた筈なのに、彼は呑気に風呂に入っていた。

 その間に、あの死体が出来上がったのだ。

 嘘だ。

 本当はわかっている。

 確かに直接的な原因はゼノだったかもしれないが、深淵はニ五年前から如実にその領域を広げてきている。故にいずれ、確実に今回のような事は起こっていて然るべきなのだ。

 外野が口を出すことではない。わかっている。理解は出来ている。

 だが納得が出来ない。

 心に棲みついた不思議な不信感と、猜疑心とが拭えない。

 だから、わかっている。わかっているのに、口に出してしまった。言ってはいけないだろう話は、半ば衝動的に放たれたものだった。

 だからこそ、それはまるで堰を切ったように溢れ出てしまった。

「ゼノさんが女王とお風呂に入っている時に、亡くなったんですよ」

「ちょ……クロル!」

 呆気にとられていたアンジェリーナが、慌てた様子で彼女を遮る。だが構わず、言葉は続いていた。

「あなたを追ってきた人たちが仕掛けたんですよ。アンジュさんだってあんなに酷い怪我をして」

「……ああ、僕のせいだ」

「ロステイト! クロルも、そんな事言ってももうしょうがない――」

「今までだって! さっきだって、女王さまと眠っていたんじゃないですか? もうお昼過ぎですよ……あれから帰ってこないから、心配、してたのに」

 止めようとするアンジェリーナの声を塗り替えるように、クロルは声を大きくして、やがて膨らみすぎた袋に穴が空いたように、徐々に小さく絞られていく。

 言葉はやがて止み、静寂が訪れた。

 だがそれも長くは続かない。

 クロルはコツコツと踵を鳴らしながら歩き出す。間もなくゼノの脇を通り過ぎ、あれほどまで饒舌に紡がれていた言葉もなく、彼女は部屋を後にした。静かに閉まる扉の音だけが、妙によく部屋の中に響いていた。

 ややあってから口を開いたのは、アンジェリーナの方だった。

「……追わないのか?」

「追うべき、なんだろうね。だけど」

 ゼノにはわからない。

 彼女の言葉を否定して上手く言いくるめることは、きっと出来る。だがその後には確実に、決して消えないわだかまりが残る筈だ。

 受け止め肯定した所で、恐らく今までの関係はこれほど簡単に崩れ落ちてしまうだろう。

「もし彼女が僕に思う所があって、それが溢れてしまったものだとするなら……僕は彼女を、引き止められない」

 だから今回のことで嫌われてしまって、受け入れられなくなってしまっても、仕方がないと思う。

 今回を乗り切ったとしても、恐らくまだ次がある。何度も続く次が。恐らく、きっと、無事に離れられるのは今が良い機会で、最後のチャンスになるかもしれない。

 その選択は彼女がすべきだ、とゼノは考えていた。

 そんな考えを、アンジェリーナは一つのため息で掻き消していた。

「お前のせいで痛い目を見た。お前のせいで酷く怖い思いをして、涙さえ流してしまった――死んだアイツはきっとお前を恨んでいる。責任をとれ、何女とイチャついてるんだ」

 厳しい声色で彼女は言ってから、また茶化すように、ふっと息を吐くように少し笑った。

「一般人ならそう言っても仕方がない。だが連中は兵だ。命を賭して鍛え、死を覚悟して国の為に戦った。あの娘には、まだそれが理解出来ないし、納得出来ない。わかるだろう、お前も軍人なら?」

「……彼女はきっと、今まで生きてきた中で初めて、あれほど悪意の塊というものを見たんだと思う。理性より本能的な衝動が膨れ上がってしまっても仕方がないし、本能がそう判断させたなら、無理を言っても仕方がない」

「なぜ、諦める方にばかり考えるんだ?」

「僕は彼女を守ると約束した。だがもし、僕と居ない事のほうが安全だと判断でき、彼女がそう決断するのなら、僕はそれを受け止めるしか無いんだよ」

「お前は無闇にクロルを連れ出して、こんな所でほっぽり出す。そんな無責任な奴なのか? あの娘の力が必要だから連れてきたんじゃないのか? それにもう、その程度で終わらせられる関係なのか?」

「クロルは転移術が使えるのを知っているだろう。それに……」

 チッ。

 何かが破裂するような強い音が激しく鳴る。直後に、ゼノは腹部へ強烈な打撃を受けていた。

「ぐうっ!?」

「馬鹿かよ! おいコラァ!」

 アンジェリーナは大きく振りかぶるようにしてゼノの腹を勢い良く殴り飛ばした。直後に全身の痛みに表情をしかめながらも、声と共に覇気を振り絞り、寝台から降りて立ち上がる。

 うずくまるゼノの胸ぐらを掴み上げ、鼻先が触れるほどの距離で啖呵を切った。

「グチグチ言い訳なんざ聞きたくないのよタコ! あの娘は自分の感情を吐き出したんだ! お前のその時の気持ちはどうだったんだ!?」

 良い大人が自分を気持ちよく慰めて満足してるんじゃない! 

 彼女はそう叫ぶと共に、ゼノを強く押し返す。

 見たことのない情けない顔で、ゼノはよたよたと何歩かたたらを踏んだ。

 思ったより弱い男だったと、彼女は思っていた。だがそう告げた時、不意に、そのゼノの瞳に一筋の光が差し込んだような錯覚があった。

「あの娘は泣きながらわたしの身体を治してくれた。そんな娘を連れてきたのはお前だし、泣かせたのもお前だ。尻は叩いてやったぞ、後はお前次第だ」

 ふー、とアンジェリーナは大きく息を吐き出す。それと共に力も抜けたように、寝台へとどっかり座り込んだ。

 上目がちにゼノを見ると、先程よりはまだマシ、と言った程度に表情が冴えているようだった。

 瞳に力がある。あの時、あの黒影騎士の間に割って入った時に見た眼と同じだ、と思った。

「アンジュ、ありがとう。少し席を外すが、何かあったら――」

「うるさい。少し寝るから、どっかいけ」

「ああ。ゆっくりお休み、アンジュ。また」

 ゼノは短く返事をしながら頷いて、踵を返す。

 彼が去り扉が閉まるのを確認してから、途端にアンジェリーナは布団の上でうずくまるように倒れ込んだ。

 顔色が一気に悪く、青くなる。ふうふうと呼吸を荒げながら落ち着かせ、ようやく大の字に寝転んで、また大きくため息を付いた。

 無理をしたせいで身体が酷く痛む。

 だが……。

「世話のかかる奴」

 ゼノの顔を不意に思い出して、ふっと頬を緩める。

 ああいう奴が一人くらい友達に居ても、悪くはない……そう考えながら、まどろみ始める瞳を閉じて、闇に引かれる意識に彼女は全てを任せることにした。

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