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男人禁制の国アマズ・ハイネ ⑤ 女王 モカ・ナリイ

 ゼノが通されたのは、吹き抜けの二階――ではなく、玄関ホールの右手側の部屋だった。

 扉を開けた先はちょっとした応接間のようだった。手前には対となる低いソファが向かい合って置かれていて、その部屋の奥には扉側に向いた執務机が有る。周囲にはシンプルだが雰囲気の落ち着いた調度品が並んでいて、家主の品の良さを思わせた。

 その執務机の上に座り込んだ女性は、足を組んで垂らした足先をぶらぶらさせながら、細長い煙管パイプを咥えていた。

 ボサボサの金髪頭に、狐のような耳を生やしている。切れ長で鋭い目は眠たそうに半眼開かれているばかりであり、瞳は琥珀、長く生え揃ったまつ毛は人形のように美しい。

 衣類から出ている素肌は褐色。気だるげな様相に対して、健康的な肌色は対称的なギャップを見せていた。

 薄い紫色の長着一枚しか着ていないのか、それはずさんに着崩されていて豊かな胸元、その谷間があらわになっている。布一枚で帯を作っているせいか胸の下で縛り付けられている故に、零れ落ちそうになっているそれを見てゼノは目のやりどころに困っていた。

「女王モカ・ナリイ様だ。挨拶を」

「はっ」

 扉を抜けてすぐの所。リナの斜め後ろで片膝をついたゼノは、頭を垂れたまま口を開いた。

「夜分遅くの訪問誠に失礼申し上げます。またそれに際しての謁見に感謝のほどを――私の名はゼノ・ロステイト。訳ありアクアスト王国より参り、白銀竜ホワイト・エンドを求めて旅をしている次第で御座います」

「知らんな」

 ぶっきらぼうに返される言葉に、まあそう言うだろうとゼノは頷いた。恐らく眠っている所を叩き起こされてこうなっているのだろう。だとすれば誰だって寝覚めは悪いし、そんな所で良くも知らぬ他人の事情を話された所で、知った所かと思うに違いない。

 ふっとモカは勢いよく紫煙を吐き出した後、人目もはばからず大きな口を開けてあくびをした。その後ろでばさっと何かが動く気配がしてゼノは目を凝らすと、どうやら彼女には耳だけではなく尾も生えているのが見えた。

 モカはあくびを終えたかと思うと、突如としてカッと目を見開いた。大きな瞳、その縦に伸びた楕円形の瞳孔が細くなる。次第に、それは鈍く輝いている――そう思わせるほど、怪しい雰囲気を放っていた。

「主の言った事は真実か、否か。どちらか答えよ」

「はっ……真実でございます」

「ふむ」

 言いながら、彼女は口元をにわかに緩める。また煙管を咥えて煙を吸い込むと、それを口から漏らしながら言葉を継いだ。

「良い面じゃな。身体つきも肉感的、綺麗な髪に、顔をしておる。アクアスト……ここからなら西の最果てと言っても過言ではないほどに遠い。無事では済まなかったろう」

「ええ。私ゼノ・ロステイトはアクアスト王国の第一王子、訳あって性別を偽って旅をしております」

 嘘はついていない。だが内心ヒヤヒヤしながら、ゼノは続けた。

「無礼を承知で申し上げます。こちらには白銀竜の鱗を使用した首飾りがあると聞いております。それは白銀竜の居場所を導くとも……可能であれば、それをお借り頂きたく――」

「ふむふむ」

 食い気味に相槌を打つ彼女は、机の上の灰皿に煙管を叩きつけて燃えたカスを吐き出させる。それをそのまま置くと、軽く飛び降りるようにして床に降り立った。

「立て」

「は、はい」

 返事とともに、ゼノは立ち上がる。腰に手を当て胸を反らすようにして立つモカを超えて、彼は彼女を見下ろすような形になった。身長で言えばクロルよりはやや高いが、アンジュよりは小さい程度といった所だろうか。

「大きいのう」

「生まれつきですので」

 モカは改めてゼノの足元から頭の先まで舐めるように見て、また大きな胸を一瞥した。

「……大きいのう」

 まあいい、とモカは腕を組んでリナへ目をやる。

「風呂に入りたいんじゃが、構わんか」

「ええ、普段どおり入浴の準備は出来ていますが……そちらのゼノは、どう致しましょうか?」

「話はまだ途中じゃからな、風呂に付き合わせながら続ける」

「で、ですが」

「ふむ、ならお前も入るか?」

「あ、いえ、そういう事は……もし何かありましたら、すぐにお呼び下さい。浴室の前で待機しておりますので」

「あいわかった。さ、そういうわけじゃ。ゼノと言ったな、ついてこい」

「あ……はい」

 話もそこそこに、トコトコと途端に気が抜けた風にモカは部屋を後にする。ゼノはそれに戸惑いながら、その背を追っていった。


 風呂、というのはその応接間の反対側の扉の向こう側にあった。

 広い脱衣所には無数の棚が壁に備えられていて、その向こうに何も仕切りがない浴室がある。

 ゼノの目も構わずモカは帯を解く。すると拘束を失った長着は容易くはだけて、床に落ちた。

「じょ、女王様」

「ん、なんじゃ?」

 声を掛けると、彼女はにっこりと笑いながら振り返る。まだ服を脱いでいない彼を見て、む、と歩み寄る。

「服を脱ぎさんせ」

 言いながらゼノの胸に指を突き立てる。鋭く伸びた爪もろとも、それは脂肪の中へと埋もれていく。

「くくっ、よう出来てさんすね」

「なっ……それは、どういう?」

「しらばっくれるなぞ……主さんが、男なのはお見通しさんせ?」

「……それ、は」

 言葉に詰まるゼノへ、そんな事はどうでも良いのだ、と続けた。

「主は黒影騎士に狙われておる。奴は主の容姿を告げ、差し出せと言ってきた。この国が彼奴らに襲われ、疲弊している事実を鑑みれば主を差し出すのが最善だと思うたがの」

「確かに迷う余地は、無いと思いますが」

「話は後じゃ。風呂に入れ、必ず来い。先に入っとるからの」

 モカは突き立てた指を少し力を込めて押す。ゼノはよろめいて僅かに後ろへ下がった。それを横目に見ながらモカは浴室へと去っていく。

 ゼノは大きく息を吐いて、腹を決める。

 そもそも何を気にする必要がある。己は危害を加えるつもりはないし、いざとなればここからなどいつでも逃げ出せる。クロルの事だってアンジュが居ればどうにでも逃げ出せるだろうし、マダムが逃げられると言っているのだから協力だってしてくれるだろう。

 そうだ、何も気にする必要など無い。男であることが見抜かれた上で、女王は裸一貫で話し合おうと言っている。彼女にも、何か考えがあるのだ。

 シャツを脱ぎ、ズボンと下着を脱ぎ捨て、ゼノはモカの後に続く。裸になってさらに揺れが激しくなった胸の存在を邪魔に思いながら、浴室へ入っていった。

 浴室の壁は石造りで天井まで覆われていた。大きな湯船はドラン・グレイグの温泉を思わせるほど広く、すぐ手前に湯船の段差を背に肩まで湯に浸かっているモカの姿を見つけた。

 ゼノはゆっくりと湯に足をつける。少しぬるめの湯だったが、身体が冷え切っているせいかひどく熱く感じた。

 やや時間を掛けて胸のあたりまで湯に身体を沈める。身体の染み込んでくる熱気に堪らず吐息を漏らすと、にやにやと怪しい笑みを浮かべたモカが肩を寄せて来た。

「良い湯じゃろう?」

「ええ……」

「しっかし」

 言いながら、モカは突如としてゼノの豊かな胸を鷲掴みにしてみせた。

「っ!?」

 驚いて肩を弾ませる。それでもモカは手を離すこと無く、言葉を継ぐ。

「生意気な乳じゃの。上を向いて、形も良い。これが男の乳かの」

「申し訳ありません……仲間の術によって、女性の姿をとらせて頂いておりまして」

「まあ良い。だがの……対称的じゃな、ヒドい身体じゃ」

 そう言って、胸を掴んでいた手は離れ、また胸元から腹部までなぞるように滑らせていた。

 モカの見るゼノの身体は、傷だらけだった。無数の傷は他の肌とは色素をやや薄めていて、皮膚が薄くなっているように見えてわかりやすい。刀傷に、裂けたような裂傷。ミミズ腫れのように残っている部分も多い。お世辞にも綺麗な身体とは言えないそれに、モカは楽しそうに指を沿わせていた。

「わらわはの、魔法が使えるんじゃ。主さんが嘘をついてるかどうか、薄暗い気持ちを持っているかどうか。またそれはどんな程度の気持ちで、どういった方向性なのか。主さんは性別を偽っては居たが、害意は見られなかった。そういうわけじゃ」

「女王様、改めて申し訳ありませんでした」

「構わんと言うとろうに」

 またモカはゼノの乳房を掴む。まるで赤子が安堵を求めるように揉み始めるのを感じながら、ゼノは少し身体をよじった。

「何を――」

 抵抗しようとした瞬間、その胸が突如として縮む。起こった異変はそれだけに留まらず、髪は伸びた分だけが切られたように落ちて霧散。身体つきは途端に骨ばって、筋肉が蘇ってくる。

 大きな目はやや小さく涼し気な目元に戻り、間もなく男性であったゼノそのものへと戻っていった。

「なっ、嘘だろ!?」

 クロルに術を掛けてもらったのは日が沈んだ頃。今が深夜だと考えても、まだ六時間も経っていない筈だ。彼女が全魔力を注いだと言っていたから、少なくともニ、三日くらいは保つと思っていたが……。

「くくっ、やはりじゃ。良い男じゃのう……あれほど強い黒影騎士に狙われておるということはの、強さも兼ね備えているのがよく分かる」

 ふー、とモカはゼノから少し離れて、天井を仰ぐように湯に浸かり直した。

 ゼノは戸惑いながらも、深呼吸を繰り返して落ち着きを取り戻す。女王に視線がいかないように前を見据えながら、口を開いた。

「女王様」

「水臭い、モカと呼びなんし。裸の付き合いをしてるじゃろう?」

「語弊がありますが……モカ様」

「ふむ、まあ良い。なんじゃ」

「私が黒影騎士を倒します。ですが、また私が旅立った後にそれらが来ないとは約束できません」

 可能性は低いとは思いますが、と付け足し、

「しかし、その折には白銀竜の鱗を用いた首飾りをお借りしたいのです」

「ふむ」

 短く、簡単な返事に、ゼノはまともに聞いていないのではないかと少し不安になった。

 暫くの間、無言が続いた。天井に溜まっていた水滴が落ち、湯船に波紋を作る。すっかり身体が芯まで温まってきて、頬が熱を帯びてきた。

 ドラン・グレイグでは結局、まともに湯に浸かることは出来なかった。まさかこんな所で、こんな上等な風呂に入れるとは思わなかったが……。

「ゼノよ。なぜこの国が男人禁制か、知っておるか?」

「……いえ、存じ上げませんが」

 不意の発言に、ゼノは気取られる。モカは彼の返答を聞いて、語り始めた。

「この国の歴史というのは、五百年もない程度じゃ。最初はほんの集落程度じゃったと聞いておる」

 男性から様々な被害を受けた女たちが作った集落だった。それがやがて人を集め、小さな国を作った。子供はどこからか攫ってきたり、男を拉致して子供を作らせ、男児だった際には子ともども処刑するなどして女性だけの国というのを守ってきた。

「今では男は入国こそ出来ぬが、女が外へ出て恋愛するなり、子を作るなり自由に出来る事にしている。たったそれだけの事をするのに、二百年もの時がかかった。わらわが女王になってから、ごく最近の話よ」

 まだそれを批判するものが居るが、今の時代、前時代的な行いは国の廃退を招く。彼女は続けた。

「これだけの事で二百年。だが文化を変えたことで、喜ぶ者も多かった。わらわがそうしたのは、何よりこの国に住む者たちの笑顔が少しでも多くなることを望んだからよ。わらわのような亜人は、人より長く生きる。何かに夢中にならなければ、それはあまりにも長すぎるからの」

「偉大、ですね」

「くくっ……その大切な民を容易く傷つけた黒影騎士は、わらわは許すことは出来ぬのよ。何人かは死に、多くのものが傷ついた。やめよと言っても、夜間の警戒に割かれる人員は増え、疲弊は増していく。そこに、主さんが来た。わらわの気持ちがわかるか?」

「……」

 モカの言葉に、ゼノは息を詰まらせた。

 飄々としている様子だったが、言葉は重かった。次の一言によって、首を締め付けられても抵抗することは出来ない……そう思っていると、モカは静かに続ける。

「しょうもない奴だったらたたっ斬ろうと思っておったわ。だが主の目を見て、思った。ああ此奴ならば、奴を殺してくれる……そう思ったのよ」

「何故、そう思ったのです?」

「くくっ、直感のようなものよ。裏付けするならば、まずリナが敵意を主に持っていなかった。奴の人の見る目は中々に良いからの……それにその傷を見て、腕っぷしを推し量れた。それにその目じゃ、蒼い瞳の奥に揺れる炎が見えた」

「炎?」

「強い意思を持っているという揶揄じゃよ。何が起こってもどうにかでもして突き進んでいく……主さんの目にそれを見た」

 そっと、モカは湯の中を滑るようにして肩を寄り添わせる。身体は肩だけではなく、腕、腿、その足先さえも触れてきた。

「主さんが黒影騎士を呼び寄せた原因じゃ。だが我々も、主さんを射殺そうとした。今回の件はお互い様ということにせんかの?」

「ええ……それは、こちらとしても願ったりですが――近すぎ、では」

 柔らかい肌。耳元にかかる吐息。甘い声色。緊張と興奮に心臓が激しく動き出す。いつもの痛みなどない、純粋な拍動だった。

「その目じゃ、男子おのこの目よ。たとえ主さんの顔が焼けただれていたとしても、その身が無残で醜い状態であったとしても、その目に、魅入られてしまった……主さんがにくいよ」

 湯の中で、手と手が重なり合う。

 声は続いていた。

「主さんは強いんじゃろう。どれほどの悪意の海を越え、刃を受けてきたか知れぬ。だが故に儚ささえ覚える。……ひどいクマじゃのう、疲れている顔をしておる」

 風呂の中から出た手が、優しく頬に触れる。目の下の深いクマを撫で、さらに距離を縮めた。柔らかな胸が腕に押し付けられ、思考がまとまらなくなる。

「主さんや、わらわは主さんの話が聞きたい。まだ夜は長い……わらわは長湯で知れとるのよ、話を聞かせてくりゃれ?」

 女王の威厳は消え去り、先程の余裕さえも失われていた。彼女はさながら幼い子供のような口調で、甘えるように言っていた。

「ええ、じゃあ……」

 ゼノはままならぬ思考をとりとめないまま、ゆっくり話し出す。

 彼が語り出すのは、つまらない幼少期の話だった。


   ❖    ❖     ❖


 女王らが入浴してからすぐの頃。

 浴室前で待機していたリナは、慌てた様子で玄関から入ってきた一人の女を見て驚いた。

 彼女は額から血を流しており、虚ろな瞳は今にも閉ざされそうな疲弊しきった顔でその場に跪いてしまっていたのだ。

「ど、どうした!? おい、大丈夫か!」

「どーしたも、こーしたも……黒影騎士だよ。ははっ、なんてこった」

 自嘲気味に笑う女に、その痛ましい傷を見てリナは苦悶の表情を漏らす。

「なんだと……! クソッ、こんな時に――他の連中はどうした!?」

 倒れ込む女を抱き抱えるようにして、リナは問いただす。大きい声に顔をしかめながら、彼女は途切れ途切れに説明を始める。

「みんな、逃げてる。森で遭遇したアイツはまっすぐこっちに向かってて、あたしらなんかにゃ目もくれてない。だから矢で牽制しながら……でも、間に合わない奴らも居た。死んじゃ、いない……と、願いたいケドね」

「ちっ。今他の者を呼ぶ、少し待て」

 リナは彼女から離れ、浴室に向かおうとする。だがその扉に手をかけた所で動きを止めた。

 ――女王に報告してどうなる? 余計な心労をかけるだけだ、それにまだゼノへの詰問の最中だろう。ここで余計な騒動を起こしても結果は変わらない。

 今己が出来る最善の行動は戦力を集めること。

 考えて脳裏を過ったのが、ゼノに同行していた二人の女。その内の一人、四肢に鱗をつけている竜人が居た筈だ。竜人の戦闘能力は筆舌に尽くしがたい。彼女の協力さえ仰げれば――考えて、リナは牢へと走り出す。

 扉を抜け、鉄扉を蹴り開ける。驚いた看守が椅子から転げ落ちるのをよそに、また鍵を掠め取って牢をこじ開けた。

 布をかぶって眠っているクロルに構わず、その奥で膝を立ててよだれを垂らしながら小さくいびきをかいているアンジェリーナの肩を揺さぶる。

「起きてくれ、頼む!」

 ぶんぶん頭を前後に揺さぶられれば、さしものアンジェリーナも目が覚める。

「な、なに、なに、ちょっ……んがっ!」

 力任せに揺さぶりかける腕を掴み、動きを止めさせる。アンジェリーナはリナを鋭く睨み、嫌悪の眼差しで告げた。

「ぶち殺すぞ」

「失礼したのは後で謝る。今は緊急事態だ」

「ど――どうしたん、ですか?」

 少し後ろで、眠そうな目をこすりながらクロルが口を開く。リナはそちらに目もくれずに、アンジェリーナを見据えて簡単に言った。

「黒影騎士の襲撃だ。竜人と見込んでお前の力を借りたい」

「ふわぁぁ……ったく。あいつは? ロステイト」

「女王との謁見中だ」

「ったく――強いのか?」

 未だ肩を掴んでいる腕を振り払い、アンジェリーナは立ち上がる。軽く身体を伸ばしながら問う言葉に、リナは頷いた。

「協力してくれるのか?」

「愚問だな。わたしの力が欲しいんだろう? 時間がないと見るに、この問答すら惜しいはず」

「ああ。案内しよう」

 リナの微笑みに、アンジェリーナが笑う。

 戸惑ったままのクロルに、彼女は短く命令した。

「女王の謁見中だか折檻中だか知らないけど、その武器を叩きつけて後を追うように伝えて。クロルは後から、ロステイトと一緒に来ればいいわ。ま、その頃には終わってるだろうけど」

 言いながらリナと共に牢を出るアンジェリーナに、クロルは不安げに言葉を返した。

「だ、大丈夫なんですか?」

「言っておくけど、これでも我は強いんだぞ?」

「もういいか? 急ぐぞ、黒影騎士に関しては向かいながら説明する」

「はいはい」

 不敵な笑みだけを残して、背中越しに手を振りながらアンジェリーナはリナの後を追うように走り去っていく。

 まるで嵐のような騒がしさの後には、ひっそりと怖いくらいに静まり返った静寂が空間を支配していた。

 胸の奥底に残る奇妙なほどの不安と、嫌な予感。それを覚えながら、アンジェリーナに言われるがままに、ゼノがその場に残してった剣を抱えて、クロルもその牢を後にした。

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