ゲームスタート
【隷従のジャッジメント】
俺は封じていたスキルを使う覚悟を決めた。このスキルを手に入れたことで、魔王様と契約して、魔王様を殺してしまった。だから今までハーヴィー以降、このスキルを使わなかった。
だが、エリカは言ってくれた。あなたに出来ないことはないと。ならば、どんな方法でも相手を倒す選択をしなければならない。
戦闘に特化したホンダやゴウダならば戦いの中で殺してやるのが、義理だったと今ならば思える。
しかし、目の前にいる男。アナグラはそういう奴じゃない。いつも人の影に隠れ、裏で暗躍している奴だ。そういう奴は最終的に殺すにしても精神を凌駕してやらねば負けを認めない。
「なっ、なんだここは?僕は森に飛んだはずだぞ」
辺りは森ではなく、ジャッジメントが作り出した異空間が広がっている。この場ではどんなスキルも使用不可となり、ジャッジが下されるまで出ることもできない。
「空間スキルを持っているのが貴様だけだと思ったか?ここは俺のスキルで作り出した異空間だ。この空間ではジャッジメントが全てを取り仕切る。判決が出るまでは、この場から出ることもできないぞ」
説明を聞いてもアナグラは【ワープ】や【空間ボックス】使って移動をしようとするが、どちらも発動していない。どうやらスペシャルスキルであろうと【隷従のジャッジメント】からは抜け出すことはできないらしい。
そして、イマリを倒してレベルが上がった影響だろうか?ジャッジメントの姿が青年から成人した男性へと変貌を遂げていた。
「審判の時です。此度のジャッジは何を賭けられますか?」
「スキルの使用不可をかける。どちらが空間マスターか決めようじゃないか」
ジャッジメントの声に俺がベットするものを告げる。未だに状況を理解していないアナグラは、沈黙しながらこちらを観察している。
「アナグラと言ったな。ここは勝負の決闘場所だ。但し、殺し合いではなくゲームで決着をつける」
「ゲーム?」
「そうだ。ジャッジメントが出すお題に挑戦して勝った者だけが権利を得る」
「権利とは?」
「さっき言っただろ。スキルの使用不可。この世界ではスキルが使えないというのは死を意味する。お前とは空間の支配者として、どちらが優れているか決めようじゃないか」
アナグラの中で思考のロジックが組み上がっているのだろう。この男はいつも人の後ろに隠れて自分では判断してこなかった。
そして、戦いというジャンルでは、この男は乗ってこない。逆にゲームという響きはアナグラの心に響きやすいことだろう。
「いいだろう。そのゲーム受けてやる」
やはり乗ってきた。
「ジャッジメント。ルールを説明してくれ」
「ちょっと待て、ゲームは話し合って決めるんじゃないのか?」
「違う。さっきも言ったが、提示するのはジャッジメントであり、俺にもどんなゲームが出されるのかわかっていない。公平だろ?」
ゲームを決められないというのはウソだ。ウソだが、そんなことを説明してやる義理はない。
「そっそれなら」
「承諾してくれて助かる。では、ジャッジメント。内容を説明してくれ」
俺の声に応えてジャッジメントが閉じていた目を開く。
「では、お二人にやってもらうゲームを説明いたします。ゲームの内容は簡単です。ただ数を当てるだけのゲームでございます。ゲーム名は『戦場の死人』」
今回は俺の心理を読んだジャッジメントが独自に作り出したゲームだ。内容は俺自身も知らない。
「ルールの説明に入らせて頂きます。お二人の前に駒を用意します」
どこからともなく赤と青の駒が出現する。大きい駒が二つと小さい駒が九つ。大きい駒はどちらも同じ形をしているが、小さい駒は三種類に分かれているようだ。
俺の呟きに律儀に応えながら、ジャッジメントが続きを話し始める。
「まず小さい駒は百人の兵士。大きい駒は将軍として兵士を圧倒します。
兵士には馬、槍、弓の三種類が存在します。それぞれは三竦みの関係にあり、馬は槍に弱く、槍は弓に弱く、弓は馬に弱いとなります。
ゲームは互いにターンを交換しながら駒を動かしてもらいます。ターンは三度。動かせる駒は二つ。最終的にいくつの駒を残せるか、それを予想してもらうと言うゲームです」
単純に多い少ないではなく、いかに予想した数に合わせるかというゲームだと言うことだ。
「互いのターンを三度。合計六度を終えた時点で、予想に近い方の勝ちとします。では、ごゆるりと遊戯を楽しみくださいませ」
ジャッジメントがルール説明を終えると、巨大な壁と川を挟んだフィールドが展開される。そこはまるで獣人と鬼人の国境沿いに似ている風景だった。
「先行は残る駒の数をこちらの紙に書いて横にあるテーブルに伏せてください」
先行は俺が取り、紙に数を書く。このゲームを提示されたときから、決めていた数字だ。
「質問はしてもいいですか?」
俺が数字を書き終えてから、アナグラがジャッジメントに質問を投げかける。
「なんでしょうか?」
「最終的に当てる数は互いの戦場にいる兵士の合計ですか?それとも味方の兵士だけですか?あと、戦闘は必ず行わなければならないのですか?」
アナグラもこのゲームを理解しているようだ。
「最終的に当ててもらうのはこの戦場にある全ての駒で間違いありません。つまり、合計です。そして、戦闘は必ずしも行わなくてもかまいません」
「わかりました。ありがとうございます」
アナグラはゲームの本質を理解したのか、口元に笑みを作り紙に数字を書いた。
「もう一ついいですか?」
アナグラは、ジャッジメントではなく俺を見た。
「なんだ?」
「このゲーム。スキル使用不可なんて生温いと思いませんか?負けた方が死ぬ。それでよくないですか」
「お前は死ぬことは怖くないのか?」
どうやらゲームで本当に死ぬとは思っていないようだ。
「あなたこそ、僕に勝てると思っているんですか?」
どうやら自分の勝利を微塵も疑っていないようだ。
「いいだろう。死を賭けた戦いを受けよう」
「かしこまりました。権利を変更いたします。スキル使用不可から、命を懸けた戦いへ。では、『戦場の死人』ゲームスタートです」
ジャッジメントが腕を振り上げてハンマーを振り下ろした。
いつも読んで頂きありがとうございます。




