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スペシャルスキル

 目の前で姿を消したエリカ。その顔は笑顔であり、なんの心配もしていなかった。だが、彼女が最後に口にしてのは暇をもらうと言う言葉だった。

 彼女は休暇をもらうと言ったのだ。この場には戻らない。つまり、彼女は俺に託していったのだ。


「ふあははっははははっはは。所詮はこの世界の人間。異世界人であり、選ばれた存在である僕には及ばないんだ」


 高笑いを続けるアナグラを観察する。エリカは言った。俺にできないことはないと。彼女がそう言うなら、彼女が信じてくれているなら、出来る気がしてくる。


「さぁ、次はお前だ。魔王、貴様はどこかに飛ばすことも、どこかに閉じ込めることもしない。数は減らしても、まだ半分ほどだ。十分にお前を倒すことができる」


 アナグラは狂気に満ちた瞳で俺を捉える。この世界は人を狂わせる。能力を得て、人を殺し、自分と言う人格を変貌させる。

 そして、アナグラは言った。どこかに飛ばすことも、どこかに閉じ込めることもしない。

 

 飛ばすは【ワープ】だろう。では、閉じ込めるとは?今も閉じ込められている状況なのに、まだどこかに閉じ込めるという。

 ふと、今まで気づかなかったスキルステータスが、アナグラに浮かび上がる。


 スペシャルスキル【空間ボックス】空間スキルの上位。


 俺はじっとアナグラを見続けた。すると、今まで表示されなかった。スペシャルスキルと呼ばれる【空間ボックス】がアナグラの使ったスキルに表示された。


 どうして今まで表示されていなかったのか?もしかしたら上位スキルを見るためには特定の条件をクリアーしなければならないのかもしれない。

 今回の条件は相手の力を理解すると言ったところか?とにかく新しく現れた【空間ボックス】に意識を向ける。


【籠の鳥】、【ワープ】に続く第三のスキル。今までと同じく空間を司るものだが、今までよりも上位の能力であることがわかる。


【空間ボックス】異空間に能力を持った者しか開け閉めできない部屋を作り出すことができる。その部屋は同じ能力を持つ者しか開けることはできない。入ることができる人数はレベル次第で増えていく。


【籠の鳥】が空間と時間の固定。【ワープ】が移動。【空間ボックス】が異空間に自分の部屋を持てるということだ。


 ここまで聞けば、アナグラがチート能力を手に入れて驕り高ぶる気持ちも理解できる。異世界小説物では、最強に位置する能力ばかりだ。一つの能力で主人公になれることだろう。


「獣人たちよ。邪魔な悪魔族は消え失せた。最後の仕上げに取り掛かろう。魔王は虫の息だ。君たちは強い。魔王などに負けるはずがないんだ」


 アナグラの言葉に戦意喪失していた獣人たちが立ち上がる。多くの命を散らしたというのに、彼らの目は死んでいない。

 魔王に向けるのは憎悪であり、むしろ先ほどよりも殺気が上がっている。


「フィナーレだ」


 アナグラが合図を送り、獣人たちが俺に向かって飛びかかってきた。


「【ワープ】」


 瞬間移動とは違う。瞬間移動は見えている範囲しか移動できない。だが、ワープは言った場所に戻る。劣化版なので一日に移動できる回数が限られているようだ。

 使えるのは三度。魔王城に戻り辺りを確認する。突然現れた俺に妖怪族のメイドは驚いているようだ。


「魔王様どうされました?」

「すまないが、エリカはいるか?」

「いえ、エリカ様は出張中とお聞きしています」


 エリカが帰って来ていれば、城中の人間が知ることになるだろう。どうやらここではなかったらしい。俺はアナグラたちが居た場所にワープを使う。


「なっ!」


 俺が居なくなって獣人たちが戸惑っていたみたいだ。どうやら【籠の鳥】で空間や時間を保存されても、【ワープ】ならばその空間から抜け出すことができるらしい。


「瞬間移動」


 すでに空間の大きさを把握し終えている。瞬間移動で移動できる範囲。ミャンパーの下へ出向いて一撃で消し飛ばし、レンレンを助け出す。

 

「実験は終了だ」

「なっ、何が起きている?」


 俺が【ワープ】を使えるなど、アナグラには理解できないだろう。


「もう、遊びは終わりだ」


 俺は何もない空間に穴を開く。【空間ボックス】劣化版で作れる部屋は小さい。だが、人一人が通るぐらいの扉を作ることはできる。

 閉じられた扉に手を差し込み。探している人物を呼び出す。


「なんじゃ。手だけで出迎えとは随分じゃな」

「やはり、閉じ込められていたか」

「ワシとしたことが、すまんかったな」


 トキトバシが申し訳なさそうに頭を擦っている。


「いいさ。ここを頼めるか?俺は決着を付けなくちゃならない」


 視線はアナグラへと注がれる。


「老人を働かせおるわ。しかし、今回は情けないところを見せてしもうた。真面目に働くとしようかの。任されたぞい」


 トキトバシの姿は言葉を発し終わる前に消えてしまう。次には固定された空間時間を飛び越え獣人たちと共に遥か彼方へと移動していった。

 俺の劣化版と違って、本来のトキトバシは全ての空間時間を突き抜ける。


「さて、残ったのはお前だけだ。数で圧倒することはできなくなったな。どうする?」

「バカなバカなバカな。貴様程度。この世界の魔王程度がこの僕を愚弄するだと、ありえん。ありえるはずがない。この世界に選ばれた存在である僕が貴様ごときに負けるわけがない。そうだ。僕は負けない」


 半狂乱になりかけたアナグラは自分の言葉で気持ちを立て直す。トキトバシによってエリスが積み上げた死体の山もなくなっている。

 アナグラが作り出した空間には俺とアナグラ、そしてレンレンだけしか存在しない。


「決着の時だ」

「調子に乗るなよ。僕こそが選ばれた存在なんだ。ニイミがそう言ったんだ」


 どうやら、メッキが剥がれてきたようだ。アナグラと言う人物の底が見えてくる。いくら優れた能力を持っていようと使う者の技量に左右される。

 使う者の精神が育っていなければ、優れたスキルも宝の持ち腐れとなるだけだ。


「お前はニイミに操られているだけの傀儡にすぎない」

「違う違う違う。僕こそが最強なんだ。出ろ。サイクロップス」


 一つ目の巨人が姿を見せる。先ほどの戦いで随分と数を減らしたと思ったが、現れたサイクロップスは他の者たちよりも大きく。肌の色が黒かった。

 別の空間か部屋に閉じ込めていたのだろう。


「こいつは特別製だ。簡単に勝てると思うなよ」


 サイクロップスの出現に気を良くしたアナグラが勝ち誇ったような笑みを作っている。俺は人差し指に意識を集中させる。


「魔王などサイクロップスの敵じゃない」

「他の奴に頼る性格をどうにかしろよ。お前がニイミの陰に隠れてコソコソする奴だってことは十分に知ってる。だから、誰かがいないと何もできないんだろ。でも、お前を守る奴はいない」


 襲い来るサイクロップスに向かって凝縮させた覇王滅殺波を放った。サイクロップスの身体は真っ二つに裂けて崩れ落ちた。


「魔の王に魔物如きが勝てると本気で思っているのか?」


 威圧を込めてアナグラに問いかける。それまで不敵に笑っていたアナグラの顔が青褪めていく。完全に暗くなった闇の中、魔王の恐怖はアナグラにどのように映っていることだろう。


「決着だと言っただろ」

「う、うわああぁぁぁっぁぁぁぁっぁ。来るな来るなよ。俺はこんなところで死ぬ人間じゃない。【ワープ】」

「瞬間移動」


 アナグラがワープを使う瞬間、俺は瞬間移動でアナグラを捕まえる。アナグラと共に【ワープ】に飛び込み。森の中へと飛ばされた。


「【隷従のジャッジメント】」


いつも読んで頂きありがとうございます。

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