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キングライガーは立派な男だ。俺は自然と目を瞑り黙祷を捧げた。友人の一人として誇らしくもあり、そして悲しみが生まれている自分の心に少なからず、喜びも感じていた。


 同じ異世界人を殺しても、なんの感情も生まれなかった。少なからず、自分の中に変化が生まれていることは気づいている。だが、今はそのことに目を向けている余裕がなかった。


 キングの死はそんな俺に感情を呼び覚ます。


「キングは立派な男だな」

「はい。私は父を誇りに思います。だから、父がドラモン教と敵対することを選んだなら、私もそれに従いたい」


 彼女が俺に従ってくれているのも純粋な信頼だけではなさそうだ。


「そろそろ、いくか」

「どこに行かれるのですか?」

「キングがそこまでのしてくれたんだ。俺も動かなくちゃな。それに、この国にだってまだ仲間はいる。数は少ないかもしれないが、俺が動けばそいつらも動いてくれるだろう」

「強いんですね」


 立ち上がった俺の背にレンレンがボソリと言葉を発する。彼女もここまで気丈に振る舞ってはいるが、辛い気持ちを隠してきたのだろう。


「それに全てを終えて、キングの墓に報告もしなくちゃな」


 下を向いていたレンレンは顔を上げて俺を見た。


「はい。父に勝利の報告を」


 多くの血を流してきた。そろそろ終わりにしなくちゃならない。


「おやおや。こんなところに人の気配がすると思ったら、大物が連れましたね」


 決意も新たに歩き出そうとした俺たちの下に、白いフードを被った人物が現れる。

 それはコロッセオで教祖ビノと話していた人物であり、フェルが追いかけていった人物だとすぐに思い至った。


「お前は?」

「これはこれは、魔王様を前に自己紹介もしませんで申し訳ありません」


 レンレンと話すために仮面モードにしたいたことで、すぐに魔王だけ気づかれたようだ。


「クウヤ・アナグラと申します。以後お見知りおきを。まぁここで亡くなってくれればもう会うこともありませんが」


 アナグラという名前を聞いて、俺は一人のクラスメイトの顔を思い浮かべる。それはニイミの取り巻きの一人であり、フルヤとは違った関係をニイミと構築している人物だ。


「こちらは自己紹介する必要はなさそうだな。それで?俺がいることが分かってきたみたいだが、どうしてこの場所を知っている?」

「そんな簡単な質問ですか。別に隠すことでもありません。そちらのお嬢さんを監視していた。

 つまり、彼女が仲間だと思っていた獣人の中に、こちらの仲間がいたということです」


 アナグラの言葉にレンレンが息を飲む。彼女を裏切っていた人物がいる。それが彼女には辛い事実であることは間違いない。


「そうか、情報戦はこちらが負けているということか。俺がここに侵入していることも早々に見つかり、そしてお前がやってきた」

「ええ、あなたによってゴウダとホンダが殺されたことも、すでに聞き及んでおります。

 彼らは同郷なので悲しいことです。ですが、それも仕方ない。彼らは武闘派で戦闘に特化したスキルばかりを持っていた。それではあなたに勝てない。それぐらいバカでもわかりますよね」


 こちらをバカにしているのか、それともゴウダたちをバカにしているのかわからない。アナグラと言う人物に対して思うのは、ニイミのパシリということだ。

 それもニイミがいじめてやらせているわけではなく。アナグラの方がニイミに好んで従っているという感じなのだ。


 会話からアナグラは戦闘向きのスキルではないと安易に伝えている。


 アナグラを追っていったフェルの行方が分からない以上。警戒を解くことはできない。俺はスキル鑑定を使い。相手の能力を知る。


【籠の鳥】自分自身が把握する範囲の異空間を作り出すことができる。異空間の中は時間を停止した状態で保存する。

 

【ワープ】自分が行った場所であれば再度移動することができる。その代り人数が制限される。制限人数は5人まで。


 空間系の能力を持つアナグラは、脅威だと思うがこれだけで魔王に勝てると本気で思っているとは思えない。

 何より、ゴウダの時のような見えないスキルが存在しているのかもしれない。


「それで?お前なら俺に勝てるとでも?」

「勝てないまでも、封印することはできます」

「そうか、そういう考えもあるか」


 アナグラの言葉とスキルで何をしようとしているのかわかった。だが、その程度で俺が止められていると思っていることの方が心外である。


「やれるものならやってみろ」

「言われなくても」


 反論したアナグラは動かなかった。代わりに指を鳴らし、現れたのは獣人の軍団と、一つ目の巨人だった。


「まずは、疲労してください。僕が相手をするのは疲れ切ったあなたです」


 本当に、情報戦は向こうが上のようだ。俺が使えるスキルは体力が関係していることを知っている。


「かかれ」


 俺は不利と見て逃げの一手を取ろうとした。しかし、俺のスキルは発動しなかった。


「そうそう、言い忘れておりました、スキルには優先順位があるのをご存知ですか?僕も自分と同じ能力者に出会ったから知ることが出来たんです。

 スキルを同時に発動した場合。スキル能力が高い方が優先されるんですよ。別に弱い方が発動しないというわけではないですが、あなたが移動系のスキルを持っていたとしても、僕が作り出した空間の中から出ることはできませんよ。その中でもがくだけだ」


 どうやら瞬間移動が使えなかったのは、この辺り一帯にアナグラが作り出した空間があるようだ。


「あなたには死ぬまで戦って頂きます」


 見える範囲全てが獣人で覆われる。いくら漆黒の鎧さんで自動モードを取ろうと。俺自身の体力が持たない。


「もしも、最後まで生きていたなら僕が相手しますよ。魔王様」


 アナグラの姿は完全に見えなくなり、代わりに獣人たちが視界全てを埋め尽くした。

いつも読んで頂きありがとうございます。

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