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キングの戦い

 情報収集するために、宴が開かれている場所へと足を向ける。その途中で、のっぺや子供たちに会えないかと思ったが、暗闇で顔も分からない状態では識別する術を持っていなかった。


「フェルやのっぺたちの状況でも分かればいいんだが」


 建物に身を潜ませ、気配察知を発動させる。敵の位置を把握しながら歩を進めている内に、随分と内部まで入り込むことができた。


「……戦況の報告ありがとうございます」


 身を隠しているので、ハッキリと内容は聞こえないが。聞き覚えのある声に顔を覗かせれば、教祖ビノが建物を隔てた先に見えた。


「ホンダとゴウダが戦死ですか。魔王を舐めていましたね」


 獣人が去って一人になったビノは、自身の爪を噛みながら悔しそうな顔をしていた。


「手駒として二人が居れば随分と楽だったのですがね。自分の手駒を取られて、飛車角落ちってとこですか。

 まぁ、あの方の助力で二人の新たな手駒も得ましたし、そちらを上手く使わせてもらうとしますか」


 短い後悔をすぐに立て直すように、ビノは爪を噛むのをやめてその場を離れて行った。


「どうやらホンダとゴウダのことが伝わったらしいな。俺が潜入していることはばれていないようだ」


 フードを被っているので、見つかってもすぐに誰かはわからないだろう。


 魔王の特徴は仮面を着けて漆黒の鎧を纏っていると思われているはずだ。今の姿ですぐに俺を魔王と判断できる者はいないだろう。


「そろそろ、レンレンの返答を聞く時間も迫っているしな。今はここを離れるしかないか」


 有力な情報を得られぬまま、瞬間移動でその場を離れた。レンレンと遭遇した場所へ戻ってきた。


「待っていました」


 待っていたという割には、レンレン以外の気配はなかった。


「一人か?」

「そうです」

「やっぱり同族と戦うのは嫌だったか?」

「そういうことではありません。皆、戦いは嫌いではありません。それが同族であろうと戦うことに躊躇いません」


 獣人を戦闘民族と言う者もいる。彼らは戦闘を好んで行う。むしろ、戦うこと事態が好きだと言ってもいい。そんな彼らが戦うことを躊躇う理由。


「魔王様は、この国で嫌われているんです」

「それが理由?」

「ええ、ドラモン教には賛同はできない。だけど、魔族に組する魔族とも相容れられない。それが答えだそうです」


 ここに来て、魔族と獣人の因縁にこだわる獣人たちに、ため息を吐かずにいられない。


「そうか、選ぶのは自由だ。レンレンは俺についてきていいのか?キングの娘ならば指導者にも選ばれていただろう」

「はい。だけど、私は魔王様を信じています。あなたは強い」


 一度話しただけだが、どうやら随分と信頼されたみたいだな。


「それで?これからどうするのですか?」

「正直、何も考えていない。教祖ビノの側近であるホンダとゴウダを倒したから、戦力ダウンしていると思ったが。新手がいるようでな。教祖ビノにはそれほど痛手になっていないようだしな」

「ゴウダとは、父を倒した者の名ですね」


 迂闊な自分の口を呪いたい。彼女にとってはゴウダの名前は禁句だったようだ。


「気にしないでください。父は弱いから負けた。あの戦いは正々堂々したものでした」

「見ていたのか?」

「はい。獣人のほとんどが教祖ビノに従っているのも、あの戦いがあったからこそです」


 彼女が語るキングの最後は立派なものだった。


「貴様がキングか?」


 プロレスパンツにマスクを着けたゴウダが闘技場の中央で、雄々しい白き獅子の獣人を迎えて問いかける。


「そうだ。我こそキングライガー、よくも街を騒がせてくれたものだ」

「おいおい、俺たちがやった証拠でもあるのか?」

「貴様たちでなくて誰だというのだ」


 ゴウダは腕を組んだ姿勢でニヤニヤとした顔で笑っていた。


「まぁいいじゃねぇか。細かいことだろ。あんたらは戦いで勝ったものが正しい。違うか?」

「違いない。貴様は我よりも強いのか?」

「ああ、強いぜ」

「ならば、もう言葉で語ることはない」


 キングライガーの周りに白い炎が沸き起こり戦闘態勢に入った。


 ゴウダも組んでいた腕を解き、太い両腕を前方に突き出すレスリングスタイルの構えを取る。


「いくぜ」

「こい」


 巨大な二人がコロッセオの中央でぶつかり合う。力勝負の軍配はキングライガーにあがり、ゴウダの身体が後方へと傾く。


「獣人の王様はさすがだな。だけどな、力だけじゃ勝てないぜ」


 倒されながら巴投げの要領でキングを足で投げ飛ばし、投げた方角へとゴウダが体を走らせる。対して、キングが空中で体を捻らせて体制を整えるが、ゴウダが地上で両手を上げて振り下ろす。


「ぬっ」


 いきなり体が地面に誘導されるように加速していく。


「ヒュー。いい反射神経してるね」


 キングライガーは両手両足を突いた四肢歩行の姿勢で、なんとかゴウダの攻撃を回避して見せた。


「何をした?」

「さぁね。自分で考えろよ」

「ならば答えは聴かん。今度はこちらから仕掛けさせてもらう」


 キングライガーは纏っていた白い炎を掌に集めて、ゴウダに向けて打ち出した。


「おいおい、マジで気功弾かよ」


 ゴウダは迫る光球を叩き落とすため、全身に力を込める。


「ふん、はっ」


 光球を弾き飛ばすことに成功したが、ゴウダの両腕は火傷によって爛れていた。


「はっはははははは。こんなおっかなびっくり技を本気で使える者がおるとわな。面白いぞ」

「とっておきなんだがな」


 キングライガーは四肢歩行のまま、ゴウダへと迫って爪を振るう。


「せい」


 振り下ろされる腕を掴んで一本背負いする。


「遊びは終わりだ」


 ゴウダは先ほど空中でキングを捕らえた技を近くにいるキングめがけて全力で使う。


「なっ」


 キングは何もない空間に突然何十キロの重さかわからない衝撃を体全身に味わった。


「潰れて果てろ」

「なんのこれしき」


 それでもキングは白い炎を全力で迸らせて抵抗するが、今度の力比べはゴウダが勝利することになる。


「うおぉぉぉぉぉぉ!!!ォぉォぉ………」


 キングライガーは最後まで抵抗を続け立ったまま途切れた。


 二人の戦いは国中に知らされ、コロッセオで見ていた獣人たちによってゴウダの、そしてドラモン教の強さが証明された。

いつも読んで頂きありがとうございます。

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