表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
71/79

救済

 異世界人を手にかけたことで、俺は一つの覚悟を決めることができた。心は冷え切ったまま、まるで機械のようになりそうな気がしていたが、誰かがやらなければならない。


 獣人が作り出した壁は他種族に任せ、俺は獣人首都コロッセオへ潜入することを決めた。


「ガンテツ。お前がいてくれたら助かるが、お前はここまでよくやってくれた。今は傷を癒してくれ」


 戦い以降意識を取り戻さないガンテツのことはアカイシに任せた。俺に出来る治療はやり終えたので、後はガンテツの生命力に頼るしかない。

 幸いモモが薬師と言うことので、任せることができた。

 

 鬼人族と別れた俺は、単身で王都コロッセオへと舞い戻ってきた。瞬間移動を使えば、移動事態は問題にならない。獣人にバレたとしても瞬間移動でやり過ごした。

 

 街の中に入り、様変わりした街を見て驚いた。コロッセオは自然が多く活気に溢れた街並みだったのだ。それが今では街の半分は壊され自然の美しさは失われていた。


「これは酷いな」


 生き残っている街は教祖ビノが率いるドラモン教が占拠しているようだ。そちらは宴をしているのか、音楽や人が騒ぐ音が聞こえてくる。


「俺がここを離れて随分と変わったな。それにしてもフェルやのっぺの居場所もこれじゃあわからないな」


 漆黒の鎧さんをフードタイプにして、全身を黒いフードで覆い隠す。破壊された場所に身を隠しながら、街の様子をうかがっていると、破壊された街の中から人の気配がする。


「誰かいるのか?」


 俺は自分の姿を晒して気配のする方へ声をかける。


「あんた、ドラモン教の奴?」


 俺の呼びかけに一人の獣人が姿を見せる。それはキングの娘であるレンレンだった。瓦礫の上からこちらを見下ろしているのは位置的有利を取るためだろう。


「貴様こそ、ドラモン教のものではないのか?」

「はっ。バカにしないでよ。私はキングライガーの娘よ。裏切り者たちに従うはずがないじゃない」


 どうやら、この状況でも彼女の強靭な意思は変わっていないようだ。俺は黒いフードのまま、顔には仮面を再現する。


「そうか、安心したよ」


 フードを取りながら、瓦礫の上から見下ろしてくるレンレンの顔を見上げた。


「なっ!あんたは、いや、あなた様は」

「キングライガーの娘、レンレンと言ったな」

「私の名前を」


 名前を呼ぶとレンレンは何故か顔を赤らめていた。なぜなのかわからないが、俺の存在を知っているようなので話がしやすくて助かる。


「他の者たちはいるか?キングは?」

「父は……死にました」


 ゴウダが言っていたことは本当だったようだ。悲痛な顔をしたレンレンがハッキリと死を告げてきた。


「そうか、すまない」

「どうして?魔王様が謝るのですか?」

「大事な友人を守れなかった。彼は俺にとっても友人と呼べる相手だった」

「父と魔王様が友人……そうですか」


 レンレンは泣き嗤いのような微妙な表情をしていた。それは、どういった感情なのかわかならい。しかし、彼女の瞳は潤んでも弱ってもいない。

 そこにあるのは強い意思と、しっかりと先を見据える者の目をしているように感じられた。


「父は確かに亡くなりました。ですが、それで終わりではありません。ドラモン教が強さを表明して獣人を使っています。ですが、あのような使い潰し許せない。父がキングだったときは皆笑っていたのに」


 彼女が言っていることは感情的な部分が多い。獣人がいくら戦闘本能に忠実な種族だとしても、バカではない。レンレンのように感じている者も少なくないだろう。


 だが、一部を優遇する教祖ビノのやり方が本当に間違っていないとも言えない。優遇された者たちは自分たちを特別な存在として教祖ビノに心から心酔していく。

 そして、それを見ていた手下たちは自分たちも優遇されたいと躍起になる。末端であっても優遇された者がいる。頑張れば自分たちもそこに辿りつける。

 そう思わせているならば、彼らの原動力になるのではないだろうか。


 これは元の世界の社会に似ている。社畜のように働く者には恩恵を、働かない者や使えない者は淘汰されていく。


 教祖ビノは宗教を訴え、国を乗っ取り、自分を頂点とする社会を作り上げつつあるのだ。


「厄介だな」


 俺は宴が繰り広げられる方角に視線を向けて、教祖ビノがやろうとしている社会構築に身ぶるした。教祖ビノの下、この社会が安定してしまえば、他国である俺はどんな介入をしようと、他国の者でしかなくなってしまう。


「レンレン、俺に協力してくれないか?」

「協力とは?どうするつもりですか?」

「君は一人か?仲間はいないのか?」

「仲間は数名います」


 彼女はウソの付けない人間なのだろう。仲間と言われて自分の後ろを振り返る。


「そうか。ならば、君たちに戦う意思があるのなら、共に抗ってみないか?」

「抗う?」

「そうだ。現在、我々は少数派だ。はっきり言って分が悪い。それでも、見過ごすことができないと言うなら戦うしかないだろ?戦って勝ち取る。教祖ビノが行ったことをやり返すほかない」


 俺の言葉について、しばし考える仕草をしたあとレンレンは首を縦に振った。


「私はついていきます。ですが、他の人がどうするか相談をさせてください」

「ああ、話し合ってきてくれ。俺はしばらく身を隠す」

「わかりました。では二刻の時間をください」

「わかった」


 戦争を仕掛けようという誘いなのだ。躊躇しても仕方ない。俺は少しでも情報を集めるため黒いフード姿に戻り歩き出した。

いつも読んで頂きありがとうございます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ