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VS 異世界人 終

 暗闇から意識を取り戻したとき、目の前には下半身を失ったゴウダが地面に突き刺さっていた。

 

 半分以上破れたマスクからは、恐怖に歪んだゴウダの表情が伺える。化け物を相手にしたような表情に俺は溜息を吐かずにいられない。


「ハァー、やっちまったか」


 自分の手は返り血に染まっていた。ゴウダの血だろう。異世界人、つまり自分と同じ世界から来た者を殺した。

 それなのに殺したときの記憶はなく、その実感すら湧いてこない。ただただ体に流れる血が冷たく感じる。


「ガンテツはどうなった?」


 いつの間にか雨が降り出していた。手に着いた血が洗い流され、降りしきる雨の向こうでガンテツとホンダがガップリ四つに組み合い力を比べ合っている。

 ホンダは闘技場を揺らせるほどの振動系のスキルを持っているはずなのに、それを使うことなく力勝負をしているようだ。


「ガンテツのスキルは肉体強化だ。ホンダは振動系の能力を使うはずだが、力で張り合っているな」


 すぐに殺してもいいが、今は動きたくない。同じ世界の人間を、自分が殺したと思える実感を持つまで動きたくない。

 いつからだったか、リリス師匠のところで修業しているとき、自分とは違う漆黒の鎧さんがメインで動く自動モードが発現した。

 だが、これは漆黒の鎧さんだけが勝手に動いているというわけじゃない。俺の殺意やスキル、感情の揺らぎによるところが大きいらしい。

 自分の中にある秘めた能力を漆黒の鎧さんが効率よく使っているのだ。


「はは、意識を失ってたら、本当に自動モードだな」


 そこに意思がなければ、俺は機械族だったイマリと変わらない。ただ相手を殺すだけの殺人マシーンだ。


 ふと、ガンテツの戦いに変化が生まれる。ここまでガンテツは一人で戦い続けてくれていた。先陣を切り、殿を務め、そして異世界人の相手をさせている。

 そのガンテツが疲労からか、バランスをくずして崩れ落ちた。


「ガンテツ」

 

 俺は倒れたガンテツに走り寄り、ホンダへ牽制の攻撃を放ち距離を取らせる。


「ガンテツ、息はあるな。大丈夫か?」


 息はある。見た目には酷い外傷は見られない。やはり疲れか?だが、その息は弱々しく今にも止まってしまいそうだ。


「まおっ、ゴフッ」


 魔王と言いたかったのだろうか?ガンテツは口から血を吐き言葉を止める。


「何も話すな今は自分の身体を癒せ」


 治癒魔法をガンテツの身体に施す。見た目に外傷がないなら、内臓の損傷があるのだろう。

 ホンダの振動系スキルによって、内蔵を攻撃されたのかもしれない。内蔵だった場合、ここでは処置できない。体全体の治癒能力向上を促してガンテツの生命力に頼ることしかできない。


「今はこれぐらいしかできない。帰ったらちゃんと治療するからな。生きろ」


 俺は立ち上がってホンダを見る。ゴウダと違ってホンダはあまり言葉を発しない。ガンテツと違って無口というわけではなく、話すのが遅いから話したくないそうだ。

 昔から派手で目立つゴウダは、体も大きくて強く見えた。それに対してホンダは無口で太っているだけに見られていたので、よくからかわれていた。

 だが、その力はゴウダよりも遥かに強いとゴウダが言っていた。二人は格闘系の部活に入っていたので仲がよかったのだろう。


「貴様の仲間は殺した。貴様も殺されたくなければ退け」


 できるだけ威圧を込めて言葉を放つ。


「……退かん」


 ホンダから返ってきた言葉は当然というべきか、否定の言葉だった。


「そうか、ならお前も殺す」

「……やって……みろ」


 ホンダは地面に拳を突ける独特な構えで俺を睨みつける。ガンテツから距離を取り、ボクサーのような構えをとった。

 ゴウダのときに気付いた。スキル戦をした瞬間から相手のペースにハマっていたのだ。だから自分の戦いが出来ずに相手にやられ、結果的に自動モードに頼ってしまった。


「フン」


 ホンダが鼻息を吐くと同時に突進を仕掛けてくる。スタートダッシュはゴウダよりも遥かに速い。


「お前たちの戦い方は似てるな」


 ゴウダよりも遥かに速い。速いが動きは同じようなタックルだ。ならば対応の仕方はある。俺はアイテボックスから剣を取り出して、自分の前に構える。


「ぬっ」


 勢いを殺されたホンダは体を横へズラしてサイドから突進をかける。その動きは予測済みである。


「ゴウダなら、剣があろうと向かってきただろうな」


 ホンダは確かに能力や技術はゴウダよりも強いかもしれない。実際、二人が戦えば八割がたホンダが勝つだろう。だが、ホンダとゴウダで一番の違いがある。


「巨大化」


 俺はホンダの二倍ほどの大きさになる。ゴウダならば、この状態でも向かってくる。それに対してホンダは大きくなった俺を見て動きを止めた。


「どうした?向かって来ないのか?」


 相手が自分よりも遥かに大きくなったなら、ホンダなら距離を取りスキルを使おうとする。


「ふん」


 足を高々と上げて地面に突き差した。その振動で大地は割れ、地割れが起きて俺を飲み込もうとする。だが、ホンダの能力はすでに習得済みだ。巨大化した体で地面を殴り振動を止める。


「お前だけが振動系のスキルを持ってると思うなよ」


 ホンダは強い。だが、俺との相性は最悪だ。負ける気がしない。


「……んん」


 ホンダが汗を流して困惑した表情になる。


「お前にゴウダほどの耐久力はない」


 俺は地面に突き差していた剣を引き抜き、ホンダの胴体と頭を切り離す。


「じゃあな」


 今度は自動モードじゃない自分の手で人を殺し、雨を見上げる。自分の瞳から雨以外の暖かなモノが流れていたが、心は冷たくどこまでも冷静なままだった。

いつも読んで頂きありがとうございます。

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