VS 異世界人 1
あまりの速さに突貫工事で作られていたと思った壁は予想以上に頑丈であり、破壊工作は体力の限界と共に次第に能率が下がっていく。
そこに獣人の増援が現れるので、ガンテツ鬼人族からも犠牲が出始めていた。
「ガンテツ、悔しいがここは一旦退くぞ」
「……」
俺の言葉にガンテツは鬼人族を振り返り、彼らが肩で息をして、武器に持たれかかる姿を目の当たりにする。今ならば俺の瞬間移動で壁の向こうに避難することができる。だが、これ以上進んでしまえば俺自身がスキルを使う体力を保てない。
「承知」
ガンテツは俺の意思を汲み取ってくれたのか、金棒を構える。
「殿は預かりましょう」
俺の瞬間移動で一度に運べる人数は十人ほどなのだ。それを知っていたのか、ガンテツは背を向けて迫りくる獣人に相対する。
「ケガ人を優先的に連れて行く。すぐに戻る」
ガンテツの想いに応えるためにも速さが要求される。ケガ人数人とまだ動ける者をセットにして瞬間移動で壁の向こうへと連れて行く。三度の目の運送を終えた時、獣人の勢いが今までよりも増していた。
今までの獣人が戦いを楽しむように挑んでいたのに対して、今向かってきている者たちはまるで何かに追い立てられるようだ。
「何か来るな」
「……」
俺の言葉にガンテツが頷く。勢いは増していく戦場をガンテツと背中を合わせて敵を薙ぎ払う。人の死など構っている暇はない。
撃たなければ撃たれる。ここは戦場であり感傷を許してくれるほど甘くない。吐くなり泣くなり、全部終わったら全部出す。そう決めて目の前に立ちはだかる獣人たちに向かって覇王滅殺波を討ち続けた。
「ハァハァハァ」
体力の限界が近い。瞬間移動をするにしてもこの勢いが止まらなければ逃げることもできない。このまま戦い続けていてはやられる。
「おいおい。本当にいやがったぞ」
「んんっ」
数名の獣人たちが引く人力車に乗ってやってきたのは、ホンダとゴウダだった。
「おいおい、どれほどの化け物がいるのかと思って来てみれば本当にこいつらか?満身創痍もいいところじゃねぇか?」
覆面レスラーのようなマスクをつけたゴウダは派手な衣装に身を包み。人力車の上から俺たちを値踏みする。ホンダは浴衣のような衣装を身に纏い人力車いっぱいに積まれた食べ物を口の中に入れていた。
二人の存在によって獣人たちの勢いは先ほどよりも増したのだろう。ただし、それは戦いを楽しむものではなく二人の威圧によって追い立てられているのだ。
「あいつらを叩けば敵の勢いは止まる。ガンテツ、殺れるか?」
背中越しにガンテツが頷いたような気がした。俺は今まで数を討つために出力を落としていた覇王滅殺波の威力を最大限まで引き上げる。
「道を作る」
最大出力で放たれた覇王滅殺波が一直線にホンダとゴウダが乗っている人力車へと向かって光を伸ばす。
「おいおい。いきなりラスボス狙いとか、ゲームの流れを分かってねぇな。まずはザコ無双を楽しめよ」
数多の獣人をなぎ倒し二人に迫る覇王滅殺波の前にゴウダが飛び出してマントを翻す。
「ガハハッハハハハハハ、なかなかの威力だが、俺には効かん」
口から血を流し、明らかにやせ我慢しているのが分かるが、ゴウダは覇王滅殺波を耐え抜いた。
「劣化版じゃなかったら絶対に耐えられないがな」
魔王ベルハザード様が見せてくれた本来の威力ならば、人が耐えられるはずがないのだ。
「ガンテツ、俺はあいつを叩く。もう一人を任せてもいいか?」
「承知」
ガンテツから即答で返事が返ってくる。瞬間移動でゴウダの前に移動して、肉体強化で全身を強化する。さらに武器強化で防具強化で漆黒の鎧さんと手に着けているクローを強化する。
「耐久性自慢もいいが、どこまで耐えられるかな?」
「魔王様直々に向かってくるとは面白い」
ゴウダは着ていたマントを脱ぎ捨て、プロレスラーのような派手なパンツと上半身裸で俺と対峙する。この世界に来たばかりの頃に見たゴウダは柔道部だけあって、身長も高く体も誰よりも大きかった。
しかし、今のゴウダは目の前にして初めて分かる。ガンテツに負けない肉体と戦いによって得た経験値がゴウダを更なる高みへと昇らせたのだろう。
ここからは俺は、ゴウダを同じ世界の人間だとは思わない。漆黒の鎧さんを纏い覚悟を決めた時、何かスイッチが入ったような気がする。
「死ねよ」
「面白い」
先ほどまでオドオドと戦っていた魔王の姿はそこにはなかった。ガンテツは魔王のその姿を知っている。獣人王国に入ったその日、魔王は千の敵を一人で倒した。
圧倒的な力で冷徹に敵を殲滅した魔王は、敵を冷酷な方法で尋問している姿を見た。
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