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小さな仲間たち

 フーレンレンと別れた俺は、瞬間移動を使って宿へと移動した。途中にいる困った人たちのことは今は置いておく。俺の手は二つしかなく、助けられる人間も限られている。

 今まで獣人王国への配慮として瞬間移動することを控えていた。だが、今は誰かに捕まるよりも子供たちのことが心配だ。何より崩壊した都市に配慮も何もないだろう。


「みんな無事か?」


 宿屋の建物は爆発から免れていた。傷つくことなく、そのままの形を残していた。俺は扉を開き子供たちがいるであろう大広間に入っていく。

 大広間にはガンテツやのっぺに守られるように全員が窓際に集まっていた。


「魔王様」

「のっぺ、子供たちは無事か?」

「はい。ここらは中心地から離れていたので、被害は何もありませんでした」

「そうか、よかった」


 俺は安堵の息を吐く。


「それよりも、魔王様はこんなところにおられてよろしいんですか?」


 この状況でもいつもと変わらぬのっぺに、改めて冷静さを取り戻すことができた。


「ああ、他のことよりも皆の無事を確認が大事だからな。それにこれは獣人王国で起きた事件だ。俺が加入すとすれば犯人が明確にわからなけれならない。何より、敵として認識できる明確な相手がいないのだ」


 目の前で取り逃がした教祖ビノのことを思い出しながら、俺は苦々しい思いをする。


「そうでしたか。魔王様が何をなされているのかわかりませんが、私たちにお手伝いできることがあれば何でもお申し付けください」


 のっぺとガンテツが立ち上がり、俺に向けて頭を下げる。それに続くように獣人の子供たちも片膝をついて俺に従う姿勢を見せた。


「俺が助けにきたつもりだったが、お前たちに助けられた気分だな」


 彼らは獣人王国に来た時から覚悟を持ってこの場にいてくれたのだ。


「我らは魔王様の配下でございますので」

「お前たちに心配はいらないな。だが、俺には助けがいる。俺を助けてくれるか?」


 俺の言葉に頭を下げていたのっぺが顔を上げる。


「なんなりとお申し付けください。我らは魔王様の配下。そのつもりでここまでお供してまいりました。そして、この子たちもすでに魔王様の配下として心構えは出来ております」


 のっぺは俺の言葉を後押しするように、重ねて配下であることを強調する。獣人の子供たちは精悍な顔をこちらに向ける。


「「「我々獣師団は魔王様と共に」」」


 いつの間に獣師団と名付けたのやら。だが、俺の思惑はここに成熟するのかもしれない。


「ありがとう。お前たちに頼みたいことがある。これは危険を伴う任務だ。やってくれるか?」

「「「はい」」」


 俺は彼ら一人一人の眼を見つめ頷いた。彼らは心配する存在から、頼れる仲間となったのだ。そのうえで、当初から考えていたことを口にする。


「お前たちにやってもらいたい仕事は、獣人王国に潜入して情報を集めてもらうということだ。今日この場より、お前たちを守る者はお前たち自身しかいない。俺の庇護を離れ、離れた先で得た情報を俺にもたらしてほしい」


 危険に踏み込む彼らを助けることはできない。俺が助けてしまえば、彼らは周りからスパイではないかと疑われてしまう。


「その役目、必ずこの子たちに果たさせて見せます。もちろん、この子たちの監視役は私にお任せください」


 返事をしたのはのっぺであり、のっぺを見れば美しい金狐の獣人へと変貌を遂げていた。


「のっぺ」

「魔王様、私も彼らと共に獣人王国に残ろうと思います。彼らを世話している間に情といいますか、母親としての親心が湧いてきましたので、よろしいでしょうか?」


 美しい金狐が優しそうな笑みで告げた言葉に、反対する言葉がみつからない。


「いいだろう。彼らのことはのっぺに任せる。皆、生きてくれ。生きて共に世界を救う手伝いをしてほしい」


 俺は彼らに向けて頭を下げた。世界の王と言われた魔王が頭を下げたことで、一同が息を飲む音が聞こえる。


「魔王様」


 のっぺの声で俺は顔を上げて、子供たちを見る。


「お前たちは今日から一人前の成人であり、俺の友であり、俺の仲間だ。よろしく頼む」


 俺はもう一度頭を下げた。今度は息を飲む音は聞こえなかい。代わりにゴンゴンと何かが床に打ち付けられる音がする。


「何を?」


 俺が顔を上げれば、のっぺを含めた全員が頭を床に打ち付けていた。


「我々をそこまで信頼していただきありがとうございます。そして、私たちの心は魔王様によって救われています。どうか、私たちを魔王様の道具としてお使いください」

「「「「お使いください。我々の心は魔王様と共に」」」」


 のっぺの言葉に続いて、声を発した子供たちに俺は三度目にの頭を下げた。


「ありがとう」


 俺は俺の望む手駒を手に入れた。

いつも読んで頂きありがとうございます。

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