フェルが見た者
フェルが見た者
魔王様の命令で、俺はある人物を追いかけている。その人物は魔王様と同じような仮面を着けており、魔王様と違うところがあるとするならば、魔王様が黒いローブに身を包んでいるのに対して、仮面の奴は白いローブを着ているのだ。白いローブは他にいなかったので、すぐに見つけることが出来た。
「あいつはどこに行くんだ?」
気配を消して後を付けていく。第三回戦が始まろうとしているコロッセオからは、歓声が響いてくる。
獣人として、一人の武人として、コロッセオの戦いは胸躍る。しかし、気持ちを何とか抑えつけて、白いローブ仮面を追いかけた。
白いローブ仮面はどんどんコロッセオから離れ、いつの間にか街の端まで来ていた。人気がなくなり隠れているのも難しくなる。
「可愛らしいワンコが付いてくると思ったら、魔王の手下かい?」
気配を消していたはずなのに、気付かれていた。驚を突かれた。ずっと監視していたはずの白ローブが目の前から消えていた。
「こっちだよ」
後ろから声がした。
「なっ!」
後ろを振り返りながら、距離を取るために跳躍する。
「そんなに警戒する必要はないだろ。僕は君に対して危害を加えるつもりはないよ。今すぐはね」
「おっお前は何者だ?」
「何者?うーん。それを君に教えてあげる義理はないよね」
馴れ馴れしく話し続けてくる白いローブ仮面は男なのか女のかわからない。声だけじゃ判断できない。匂いを辿っても焦りもウソも感じられないため何も読み取れない。
「力ずくで聞き出す」
フェルはガンテツの修行のお陰でスキルを使い慣れた。全身に肉体強化を施し、特に足元と目の強化を集中させる。
先ほど白いローブの動きが見えなかったからこそ、フェルは警戒を込めて強化を行ったのだ。
「いい判断だ」
「お前に褒められても嬉しくない」
白いローブ仮面は余裕の声でフェルを褒めた。フェルは跳躍で間合いを詰めて相手を掴もうとするが、白いローブ仮面が捕まる寸前で消えてなくなる。
「残念。いい判断だけど相手の能力もわからないのに無闇に飛び掛かるもんじゃないよ」
まったく動きが見えないまま、白いローブ仮面に距離を取られた。フェルは今の攻防でこいつの能力は危険だと判断した。
どんなスキルを持っているかわからない。ならば、見つかったときから考えていた逃走に集中する。
「これまたいい判断だね。即断即決。よく鍛えられている」
フェルが逃げの一手を打つため後方に大きく跳躍すると、白いローブ仮面が待ち構えていた。
「なっ!」
「でも、やっぱり残念。君が優秀だからこそ。魔王の下には帰すことができないな」
白いローブ仮面が手を広げると、視界が歪んでいく。
「君が戻ってくる頃には全てが終わっているよ。今回は時間がないからね。飛ばすだけだ。でも、次に僕を探ろうとしたら容赦はしない」
白いローブ仮面の声が遠くになるにつれて、意識も遠のいていった。
……目を覚ました時、フェルは見知らぬ川に半身を横たえていた。
「うっ」
川のせせらぎが耳に聞こえ、開いた瞼には見たこともない森と川が広がっていた。ここがどこか特定することができない。
「いったい何をされたんだ?」
体を動かしてみれば指も足も問題なく動いた。息もできる。どこかケガをしてるかと思ったが、体に問題はない。
「まずは、魔王様の下に帰らないと」
体を起こしながら、フェルはできることを一つ一つ考えた。元々、孤児としてサバイバル生活には慣れている。
道がわからなくても、慌てずにできることをしていく。この場所がどこで何が見えるのか?できるだけ高いところに上って場所を確認する。
「コロッセオは見えないか。ずっと広がる森、厄介だな。でも、川を下流に向かえば街か村があるはずだ。とりあえず人がいるところに行くしかない」
川沿いを下流に向かって走り出す。魔王様ならどんなことがあっても大丈夫だと思っている。
しかし、フェルの本能が今回の敵はヤバいと告げている。
「魔王様お一人では手に余るかもしれない。魔王様、どうかご無事で」
フェルは肉体強化を行って走り続けた。
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