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王都コロッセオ 1

王都コロッセオは予想通りと言うべきか、自然に溢れた緑生い茂る美しい都市だった。獣人は種族によって家の作り方、生活リズムがバラバラなので、朝に強い獣人、昼に強い獣人、夜に強い獣人と三部制の仕事スタイルを取っている。

 ただ、どの時間でもコロッセオは賑わっており、獣人の仕事もコロッセオに関係する仕事が多い。


「お祭り騒ぎだな」


 王都コロッセオに入ってから、クロイセンの案内で街を見学していた。鍛冶屋街や露天商、大道芸人など。全てがコロッセオに通じる道で行われているのだ。


「王都コロッセオでは、毎日がこのような状態です。朝を得意とする者たちが野菜を作り、昼を得意とする者たちが狩りに行きます。夜を得意とする者たちが街を守るので、どの時間でも王都コロッセオは難攻不落の都市なのですよ」

 

 クロイセンは生き生きとした口調で観光案内を続けている。街の説明やこれまでの歴史などを話して聞かせてくるのだ。

 コロッセオに着くまで三日ほどかかったのだが、クロイセンは馬車の運転をガンテツを交代で行いながら、随分と打ち解けていた。

 最初固かったのは魔王への警戒であり、力を見た後は畏怖するように従順になってしまった。


「キングライガーが居るのは、クリスタルガーデンと呼ばれる建物です」


 王都コロッセオでは闘技場以外にも様々な建物が建てられており、それは各獣人が住む家が特殊なつくりだからだ。

 それは見る者が見れば芸術的な造形をした建物から、気味が悪い建物まで存在する。

 

「クリスタルガーデン?」

「はい。ガラス張りの建物で三百六十度、建物の周りは全て自然に包まれているんです」

「なるほどな」


 クロイセンが案内してくれた場所は獣人王国の美術館だった。王宮に連れていかれると思っていたが、どうやらキングライガーはこの美術館にいるらしい。


「私はキングライガーを呼んでまいりますので、魔王様は鑑賞室でお待ちください」


 クロイセンは近くにいた門番に俺の案内を任せて奥へと入っていった。


 クロイセンが居なくなったことで子供たちはどうしているかと考えてしまう。子供たちは、ゴーリキが獣人王国を知っていると言うことだったので、ガンテツとのっぺを同行させて街の案内を任せている。

 俺のお供をしているのはフェルだけとなり、門番が案内した先は椅子が置かれているだけの広い部屋だった。

 部屋の中は全面ガラス張りで、ガラスの向こうには美しい自然が広がっていた。ガーデンと言う名に恥じない素晴らしい景色だ。

 

「フェルは王都コロッセオに来たことはあるのか?」

「いえ、世界樹の街で生まれ育ったので獣人王国に来るのは初めてです」

「そうか、あまり故郷という気もしないか?」

「そうですね。ですが、空気と言いますか、この国の雰囲気はどこか懐かしさを感じます」

「なら来れてよかったな」

「はい」


 フェルと他愛のない話をしながら、庭を見ていれば扉が開かれる。


「ガハハハッ。よくぞお出で下さいました魔王様」


 盛大な笑い声と共に部屋の中に入ってきたのは、三メートル近い身長をした巨漢のライオンだった。白い鬣でライオンだと思ったが、その顔はトラのようにシマシマでライガーという名の意味を理解した。


「キングライガーだな。お初にお目にかかる。二代目魔王ベルハザードだ」

「思ってたよりも小さいですな」


 身長だけならば俺の倍はあるライガーが見下ろせば小さくも見えるだろう。


 ハッキリ言ってやろう。メッチャ怖い。だってライオンが目の前にいてビビらない奴いないだろ?ビビらないとかいう奴は頭おかしい。


「ガハハハッ。ですが、クロイセンからその力量は聞き及んでおりますよ」


 キングライガーの威圧で気づかなかったが、クロイセンもキングライガーの後ろについて部屋に入ってきていた。

 

「一度手合わせしたいところですが。今回は別の話題について話す必要がありますな」


 真剣な表情になったライガーは専用の椅子に腰を下ろし、ため息を吐いた。


「ああ、その前に一つお聞きしたいことがある」

「なんですかな?」


 視線だけを俺に向けたキングライガーは片肘を突いてめんどうな表情をしている。自分のペースで話し続けるキングライガーを止めたことで、不機嫌にでもなったのだろう。


「あなたは俺の敵か?」


 俺は武器を抜いていない。武器を抜くことなく、キングライガーの喉元に剣を突きつけた。


「ぐっ」


 空気が張り詰め、それまで巨大に見えていたキングライガーが途端に小さくなり、フェルやクロイセンですら冷や汗を流しているのが伝わってくる。


「あなたはキングだ。つまりこの国の王。俺もまた魔王と名乗っている以上、王だ。王が二人いるのだ。俺が言いたい意味はわかるな」

「ガハッ!ハァー」


 キングライガーは無理矢理息を吐き、続いて大きく息を吸い込む。未だに見えない剣は喉元に突きつけられている。それでもキングライガーの口元は笑みを作った。


「確かに互いが王だ。だが、力の差は歴然」


 キングライガーは立ち上がり俺を見下ろす。戦う必要があるかと諦めかけたところで、キングライガーが膝を突き頭を下げる。


「獣人王国が屈服することはありえません。ですが、私個人はあなたの強さに敬意と敗北を認めましょうぞ」


 豪快ながらも、ハッキリとした口調でライガーは屈服することを認めた。


「そうか、ならこれからのことを話し合おう」


 俺はそれに満足して、キングライガー専用の椅子へと腰を下ろした。

いつも読んで頂きありがとうございます。

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