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国境の魔物

オーガ族の集落は活気に満ち溢れていた。男女平等なオーガ族は共に働き、共に狩りに出る。番と言われる配慮を決めると生涯その配慮を愛し続けるそうだ。

 ガンテツはもちろん、アカイシもまだ結婚していないので、番はいない。番がいないので、まだ番を持っていない二人の妹が俺たちの世話をしてくれると馬車に乗って待っていた。


「初めまして、魔王様。いつもガンテツ兄上がお世話になっております」


 そこには赤と言うよりもピンクに近い肌をした黒髪の美少女がいた。オーガ族特有の白い着物を着ており、純和風の顔立ちは目鼻立ちがハッキリしているとは言い辛いが、控えめな印象を与える美しさがある。


「ああ、此度は我々が世話になる。よろしく頼む」

「ご丁寧なあいさつありがとうございます。魔王様はお優しい方なのですね」


 美しい美少女の優しい笑顔を見て、頬が熱くなる思いがした。


「そんなことはないさ」

「そうですか?ふふ」


 笑うときに口元を隠すように手を当てるなんて女の子らしい仕草が一つ一つ可愛い。


「モモ、もてなしは頼んだぞ。我と兄上は馬車の運転に回る。馬車の中のことはお前に任せた」

「かしこまりました、兄上。道中安全運転をお願いします」

「ああ」


 用意された馬車は二台あり、小さな方には、俺、モモ、フェルが乗り込み、アカイシが運転する。

 大きな方には獣人の子供たちと引率ののっぺが乗り込み。ガンテツの運転ということになった。

 

「魔王様、質問してもよろしいですか?」

「なんだ?」

「魔王様はいつも仮面をつけておられるのですか?」

「おい、貴様。魔王様に失礼であろう」


 フェルが牙を剥きだして怒りを表す。フェルには仮面の意味を話しているので、重要なことを聞かれたと怒っているのだろう。俺はフェルを片手で制してモモを見る。


「フェル、いいから。モモ、これは俺の正装だ。これは俺が着ている漆黒の鎧の一部で、常に俺と共にあるものだ」

「そうだったのですね。大事なことを聞いてしまって申し訳ありません」

「ふん」


 フェルはモモを気に入らないらしく、鼻息が荒い。モモは逆に申し訳なさそうに小さくなっている。

 重くなった空気を変えようと口を開こうとして、突然馬車が大きく揺れる。


「なっ!なんだ?」

「申し訳ありません。魔王様。魔物です」


 アカイシの声で外に飛び出せば、巨大な三体の魔物が馬車に襲い掛かっていた。馬車を揺らしたのはキジを巨大にした魔物であり、緑色の羽と赤い嘴を持つ魔物は馬車よりも遥かに大きい。


「キャー!」「ウワッ!」


 獣人の子供たちが悲鳴を上げている声で視線を向ければ、そちらには黒い毛を持ったサルの魔物と、デカい青毛のオオカミが馬車を襲っていた。


「フェル」

「はっ」


 俺が名を呼ぶとフェルは子供たちの馬車へ向かって走り出す。その動きは迅速で、馬車にしがみついているサルの魔物を吹き飛ばした。


「魔王様、魔物の相手は私がさせて頂きます」


 モモは白い着物を着崩して、動きやすいように紐で結び終えていた。


「戦えるのか?」

「私はオーガ族です。オーガ族に戦えない者はおりません」


 馬車を踏み台に飛び上がったモモは空高く飛んでいるキジに向かって蹴りを放つ。着物の裾を翻し、放たれた蹴りでキジが地面に激突した。


「モモの奴、魔王様の傍から離れやがって」


 モモの代わりに隣に立ったのはアカイシだった。アカイシは妹の行動に呆れているようだが、心配している素振りは微塵も感じない。


「大丈夫なのか?」

「問題ありません。我々オーガ族が国境を任されているのは我々が強いからです。この地には魔物が多い。そんな地で生き抜けるのはオーガ族か獣人ぐらいです」


 どうやら戦闘力において、アカイシは自分たちオーガ族と獣人のことを評価しているようだ。


 アカイシが心配していないように、モモはキジを徒手空拳で圧倒して見せた。同じく、フェルもサルの獣人を爪によって引き裂いた。

 残ったオオカミの魔物は他の二体よりも巨大な体と、圧倒的な威圧を放っている。


「あいつは俺の獲物だ。手を出すな」

「いいえ、先ほどの無礼をお詫びする意味でも私が倒します」


 二人は口喧嘩をしながら、オオカミヘと向かっていく。オオカミは先ほどの二体とは違い。二人の攻撃を受けてもビクともしない。むしろ、二人を回転するだけで吹き飛ばす。 

 

「ウオオオオオォォォォォォ!!!!!」


 オオカミの雄叫びで、獣人の子供たちは完全に怯えてしまう。


「下がれ」


 すると、争っていた二人を退け、ガンテツがオオカミの前に立つ。その手には巨大な金棒が握られていた。


「ガンテツさん」「ガンテツ兄さん」

「未熟」


 ガンテツはスキル、腕力強化と肉体効果を発動する。スキルを発動した状態で金棒を振り回せば、先ほど二人がかりでもビクともしなかったオオカミがガンテツの金棒一振りでよろめいた。


「頑丈だな」


 ガンテツは休むことなく、オオカミを殴り続けた。オオカミも爪や尻尾で応戦するが、硬化したガンテツの肉体を貫くには至らず、オオカミは地に膝を突いた。

 

「トドメだ」


 ガンテツが頭を潰そうと金棒を振るうと、オオカミは最後の力を振り絞って大きな口を開いて自慢の牙でガンテツをかみ砕こうとする。

 

「甘いな」


 ガンテツは金棒で牙を受け止め、巨大なオオカミの目玉に拳を突き入れた。


「キャウン」


 初めて悲鳴を上げたオオカミはそのまま動かなくなった。


「ガンテツ、よくやってくれた」


 俺はガンテツに賛辞を送り、怯えていた子供たちを見る。そこには、のっぺらぼうが顔を変化させて子供たちを喜ばせていた。


「ありがたきお言葉」


 ガンテツが片膝を突き礼を尽くしたので頷き、アカイシを見る。


「国境まではもう少しかかるか?」

「はい。しばし」

「そうか、ならここでキャンプを張って夜を明かそう。問題ないか?」

「魔物の襲撃があるかもしれませんので、見張りは必要ですが」

「それは交代で行うことにしよう。今は子供たちを休ませてやりたい」

「わかりました。すぐに用意いたします」


 俺の言葉にアカイシとガンテツがすぐにキャンプの用意を始めた。モモとフェルはいがみ合っていたようだが、キャンプの用意が始まると、それぞれ分かれて作業に入った。

いつも読んで頂きありがとうございます。

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